(株)ログバー(東京都渋谷区恵比寿4-7-6)は、革新的なウエアラブル機器の開発を行う2013年設立のスタートアップベンチャー。現在、世界初のウエアラブル音声翻訳デバイス「ili(イリー)」の取り組みが国内外から大きな注目を集めている。今回、CEOの吉田卓郎氏に話を聞いた。
―― まずイリーについて教えて下さい。
吉田 イリーはWi―Fiや3Gなどのインターネット環境がなくても使用できる小型の音声翻訳デバイスで、利用者がイリーに向かって話しかけると、搭載されているコンピューターが一瞬で言語を音声翻訳する。短いフレーズの旅行会話に特化していることが特徴で、活用シーンを「旅行」に絞ったことでネットに接続しないスタンドアローン型でも高精度の翻訳が可能となった。
―― 搭載されている電子デバイスについて。
吉田 高性能の翻訳チップをベースにマイク、スピーカー、メモリー、バッテリーなどで構成されており、そこに独自技術のSTREAM(ボイス・ストリーミング・トランスレーション・システム)を融合することで高い翻訳性能を実現している。専用の管理ソフトを用いることで入出力言語を切り替えることができ、現在は日本語、中国語、英語に対応でき、韓国語の準備も進めている。
―― これまでの取り組みならびに現状は。
吉田 16年1月に製品を公開し、東京メトロやイオンモール、ホテル関連企業などで実証実験を実施してきた。そして17年1月から法人向けの受注を開始し、6月1日からサービスを本格的にスタートした。価格は月額3980円/個(最低10個セットから)で、お客様の使用環境に応じて固有名詞を追加するといったカスタマイズもでき、例えば商業施設で活用する際に店舗名を追加することなども可能だ。国内外から多くの反響を得ており、現在までに5000社以上から引き合いをいただいている。
―― 開発面については。
吉田 性能面の向上ももちろん重要だが、それ以上に当社ではイリーのようなデバイスを使って音声翻訳をするという行動を一般的なものにしていきたい。そのためには多くの方に使っていただく必要があり、イリーのコストダウン、ひいては搭載している電子デバイスのコスト低減を重要なテーマとして捉えている。もしコストパフォーマンスの優れた電子デバイスの提案などがあれば、お声がけいただきたい。
―― 翻訳の精度について。
吉田 専用の管理ステーションを経由してログと音声をサーバーで収集・分析するシステムを構築しており、使用すれば使用するほど翻訳精度を向上させることができる。ただ正直申し上げて、それでも100%完璧な翻訳というのは難しい。しかし、イリーがあることで海外旅行中の買い物やトラブル時、レストランでの食事の場面などで「伝えたい一言」を伝えることができる。これが「できる」「できない」の差は非常に大きく、そのメリットをしっかりと周知していきたい。
―― 今後の方針を。
吉田 世界初のウエアラブル音声翻訳デバイスとしてのブランディングを進めながら、17年はサービスを開始した法人向けのビジネス展開に最注力し、まずは利用実績を着実に積み上げていきたい。そのなかで訪日外国人の伸長や20年の東京オリンピック・パラリンピックといった音声翻訳ニーズの需要増を的確に捉えていきたい。現在、グローバルな視点で見ると、年間約10億人が海外旅行をしており、将来的にはイリーがあることで言葉に困ることなく、より気軽に旅行ができるような社会を実現できればと思う。
(聞き手・浮島哲志記者/細田美佳記者)
(本紙2017年6月8日号3面 掲載)