和洋食器やガラス・漆器、キッチン雑貨などを取り扱う(株)菊屋(東京都東久留米市前沢3-12-28、Tel.042-420-1275)は、消費増税後、一度も既存店売り上げが前年割れすることがなく、増収増益を続けている。さらにデベロッパーからの熱烈な出店要請も絶えない。その秘訣とは―。3代目社長の宮崎浩彰氏に聞いた。
―― 貴社の概要から。
宮崎 1949年1月に、和食器の専門店として吉祥寺で創業した。50年前に府中に出店してから多店舗化が始まった。路面店から商業施設へと時代とともに立地を変えてきており、店舗数は現在41店。東京、神奈川、埼玉を中心に、本社から半径30kmを基本出店エリアとする。トラック5台を保有し、当社従業員がすべて配送するため、出店地が限られるが、自社物流は突発的な商品搬入に対応できるなど、外部委託と比べて柔軟性とコストメリットが高く、高効率だ。
―― 業績は。
宮崎 消費増税施行から丸3年経ったが、当社はこの間、一度も既存店の前年割れがなく、新規出店した店舗の好調さも加わって3期連続で増収・2桁の増益を達成している。
―― その理由は。
宮崎 雑貨チェーンの大半は本部が店舗に商品を送り込み、在庫管理も行う。当社も7割程度は基本コンセプト維持のため、本部主導の品揃えだが、残りの3割は店長に選択の権限を与えている。百貨店と量販店では客層が全く違うなど、お客様に合わせて仕入れができるので、地域密着型のお店が作れる。また、全国の国産陶磁器を揃えているところが他にない。社員には「ナンバーワンでなく、オンリーワンを目指せ。それがいずれナンバーワンになる」と発破をかけている。
消費に力強さがない中で、既存店が昨対割れしないのはオンリーワンの商材を持つからで、これが他社にない強み。和の生活雑貨というと坪効率は下がるが、その中でも非常に高い坪効率で、売り上げが安定している。賑わいや集客力がある点もデベロッパーから評価が高く、電鉄様を中心にたくさんの出店オファーをいただいている。
―― 出店は。
宮崎 17年2月期は4店を出店し、3店を閉店、純増1店だった。ただし閉店はすべて戦略上のもの。現在、「吉祥寺菊屋」と化粧品も扱う「KICHIJOJI KIKUYA」がある。今後は専門店、本業回帰の時代。化粧品も扱う「KIKUYA」は一部を除き、定借満了のタイミングで順次閉店しており、現在は7店になっている。
今期の計画は、3月に小田急相模大野ステーションスクエア店、4月にJRシャポー小岩店、6月に流山おおたかの森店、7月に駅前再開発の府中ル・シーニュ店、9月にJRアトレ亀戸店など計7店を予定。
現在、全店舗の9割が駅ビルや百貨店、パルコなどの駅前の出店だ。「吉祥寺菊屋」はご年配の方から高い支持を得ており、出店は駅ビルもしくは駅前が中心。また、最近ではニューファミリーの伸びが著しい。
―― ほかに力を入れている点は。
宮崎 食器は趣味、嗜好性が強いので、接客が重要。あまたの接客ロールプレイングコンテストで優勝しており、店長を本社に集めて毎月1回教育や、時には窯元まで行って勉強会を行っている。
―― ネットの時代だからこそ接客が重要に。
宮崎 そこが差別化。お客様とお話しすることを徹底している。すると常連になり、中にはおしゃべりに来店する方もいる。それが『今度買うから』という関係になっていく。
当社もネットで販売はしているが、売れるのは圧倒的にリアル店舗。食器は触って持って、見比べてみるもの。そしてお客と対話して、親しくなる。ネットでは会話はできない。
―― スタッフのやる気をいかに引き出すかですね。
宮崎 同一賃金、同一労働を早くから導入している。パートと正社員の給与にそんなに差がない。女性が働きやすい職場で、役員を含め、全従業員の96%が女性だ。勤続年数も長く、働いていて楽しいと言われる。
―― 女性をたくさん雇用する理由は。
宮崎 感性だ。女性の感性でお客様を見ながら商品を仕入れ、品揃えする。圧倒的に女性の力で動いている会社といえる。
―― 店づくりは。
宮崎 標準が25~45坪。中には50坪級もあるが、あまり大きいと効率が出ない。
最近は内装に投資している。通常四角形の基本照明を全部撤去し、暖色系のダウンライトのみを使用している。濃い木目調の什器を使い、重厚感を演出するなど、食器店だがアパレルのような内装としている。コスト的には天井の照明だけで3割施工費が上がるが、この雰囲気作りが売り上げに結びつき、デベロッパーに好評で、あのお店作りでと指名される。
―― 関東以外からも熱烈オファーがあるのでは。
宮崎 当社の業態は関西にはなく是非というお話もいただくが、前述のように当社は店長次第。場所が決まったらすぐにシフトを組んで出店できるものではない。バイヤーを兼任する店長が一人前になるには最低3年はかかるし、女性は遠くでの勤務が難しい面も多い。成長を急いではいない。1店ずつコツコツとつくっていき、地域の皆様に喜ばれる店としたい。
(聞き手・編集長 松本顕介)
※商業施設新聞2187号(2017年4月4日)(5面)
商業施設の元気テナント No.217