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第178回

2016年太陽光発電10大ニュース


16年導入量は5割増、ペロブスカイトは商業化へ

2016/12/22

 2016年の太陽光発電(PV)の世界導入量は、15年に続き高水準で推移したようだ。Mercom Capital Groupの調査によると、16年のPV導入量は76GWで、15年比で約5割の大幅な増加となった。17年はマイナス成長に転じる見込みだが、引き続き高い導入水準を維持する見通しで、主要PVメーカーの出荷競争も激しさを増している。

 導入量の増加に加えて、技術開発も進んでおり、結晶シリコン(Si)はヘテロ接合やバックコンタクト(IBC)の採用で高効率化が進んでいる。さらに、次世代PVとして世界中で研究開発が進むペロブスカイト太陽電池(PSC)も17年の商業化が予定されている。
 今回は、16年におけるPVの10大ニュースを選出し、市場および技術開発の動向を振り返ってみる。

(1)16年の導入量76GW、中国で駆け込み需要

 まずは、15年のPV導入実績を見てみる。15年の導入量については、SolarPower Europe(旧EPIA)が50.6GW、IEA(国際エネルギー機関)が50.7GWという調査結果を発表している。SolarPower Europeは14年の40.3GWに対し25%増、IEAは14年の39.8GWに対し27%増と分析しているが、いずれにしても、15年は14年比でおおむね3割のプラス成長を遂げたことになる。累積導入量はSolarPower Europeが229GW、IEAが228GWと算出している。


 IEAの調査では、地域別ではAPACが全体の62%を占め、以下、米大陸が18%、欧州が17%、中東・アフリカが3%となった。APACは13年以降、導入量が急速に増え、14年に続き15年もシェア6割を維持した。中東・アフリカも導入が急増し、14年比で3割増加した。欧州は13年以降マイナス成長が続いていたが、15年はプラス成長に転じた。

 国別では、15.1GWを導入した中国がトップで、以下、日本(10.8GW)、米国(7.3GW)が続く。13年以降、中国、日本、米国の上位3カ国の順位は不動で、引き続き世界市場を牽引している。4位の英国(4.1GW)、5位のインド(2.1GW)も導入量を伸ばした。ドイツは年々市場が縮小しており、14年の1.9GWに対し、15年は1.46GWまで減少し、順位も6位まで下げた。7位にはオーストラリア(1.02GW)、8位には韓国(1GW)、9位にはフランス(0.88GW)、10位にはカナダ(0.67GW)が入った。

 累積導入量では、ついに中国(43.5GW)がドイツ(39.7GW)を抜いてトップに立った。3位は日本(34.1GW)、4位は米国(25.6GW)、5位はイタリア(18.9GW)で、6位には英国(9.6GW)、9位にはインド(5.1GW)が入った。

 16年のPV導入量については、Mercom Capital Groupが76GWという調査報告を発表している。15年の51.2GWに対し48%の増加となる。同社は当初、16年の導入量を66.7GWと推測していたが、この予想を大幅に上回りそうだ。SolarPower Europeも、16年の導入量をハイシナリオで76.7GW、ローシナリオで47.1GWと予測していたが、結果的には、ハイシナリオの導入を果たしたことになる。

 16年のPV市場を牽引したのは、やはり中国だった。中国は当初、18.1GWの導入計画を打ち出していたが、固定価格買取制度(FIT)の改正に伴う駆け込み需要が上期(1~6月)に集中したことから、上期だけで22GWを導入した。その反動で、下期は需要が減速するが、年間導入量は31GWに達するとMercom Capital Groupは推測している。

 米国、インドも16年は導入量が急増した。米国の導入量は13GWで、中国に次ぐ世界2位の市場に成長した。米国市場は大規模PV発電所が市場を牽引しており、現在のパイプラインは30GWに達している。17年も13GWと安定した導入が期待できそうだ。インドは12年以降、PV導入が急増し、16年は4.8GWまで導入量が増えた。パイプラインも20GWに達しており、17年はさらに2倍の9GW前後まで増え、日本を抜いて世界3位の市場になる見込みだ。
 日本は16年に10.5GWの導入を果たしたが、FITの価格見直しで成長は鈍化している。17年の導入量は8GWにとどまるもよう。欧州では、英国が1.8GW、ドイツが1.05GWを導入したが、欧州全体では市場縮小が続いている。ドイツは17年に1.2GWを計画しており、フランスも1GW超を計画しているが、英国は導入量が0.5GWに急減する。
 その他地域では、オーストラリアが16~17年は1GWの安定した導入を実現する見込みで、中南米(メキシコ、チリ、ブラジル)、MENA(中東・北アフリカ)も市場が拡大しつつある。

 ただ、17年の世界導入量は16年比でマイナスに転じる見通し。米国、インドは成長を維持するが、中国は導入量が半減し、日本が2割強、英国が7割強それぞれ減少するため、全体では8%の減少(導入量70GW)になる見込みだ。

(2)Jinko Solarが出荷トップに

 15年は5.7GWのモジュールを出荷したTrina Solarがトップに立ったが、16年はJinko Solar にその座を譲ることになりそうだ。Jinko Solar は16年の出荷計画を6.0~6.7GWに上方修正するなど、積極的な出荷計画を打ち出している。一方、各社も5GW以上の出荷を計画するなど、出荷競争は年々激しさを増している。


 14年は3.6GWのモジュールを出荷したTrina Solarがトップに立ち、15年も5.7GWを出荷するなど、2年連続でトップを守った。15年は各社も軒並み生産・出荷量を増やした。Canadian Solarは4.4GW、Jinko Solarは4.5GW、JA Solarは3.6GW、First Solar およびHanwha Q CELLSは2.9GWを出荷した。

 16年はさらに出荷競争が加速しており、Jinko Solarは6.6~6.7GWの出荷計画を打ち出している。一方、Trina Solarは6.0~6.3GWにとどまることから、16年はJinko Solarが出荷トップに立ちそうだ。そして、Canadian Solarが5.0~5.1GW、JA Solarが4.9~5.0GW、Hanwha Q CELLSが4.8~5.0GWを計画するなど、出荷競争のハードルは5~6GWに上がってきた。

 PV市場の拡大に伴い、セル&モジュールの生産が急増している。15年のセルおよびモジュールの生産量は各63GW(IEA調べ)で、いずれも14年比で4割弱の増加となっている。セル生産のトップは中国で、15年は41GWを生産した。そのほか、マレーシア、日本、ドイツ、米国、韓国で生産しているが、IEA-PVPS以外の国では台湾、フィリピン、シンガポール、インドで生産している。台湾は10GW以上の生産能力がある。
 15年のセルメーカー上位3社は、Hanwha Q CELLS(3.9GW)、Trina Solar(3.8GW)、JA Solar(3.6GW)となっている。なお、モジュール生産のトップも中国で、15年は45.8GWを生産した。

 16年のPV導入量は15年比5割増の76GW(Mercom Capital Group調べ)と予測されているが、17年は一転、マイナス成長(70GW)に転じる見通し。Energy Trend(台湾)も、17年はPV市場の成長が鈍化するため、サプライチェーン全体では2~3割の供給過剰になると分析している。

 需要縮小と供給過剰で価格下落がさらに進む可能性もある。16年度第3四半期(7~9月)では、Trina SolarやRenesolaが価格下落で収益が悪化したことを明らかにしているが、17年以降は価格下落を上回るコストの低減が収益確保のカギを握りそうだ。

(3)インド市場が急成長

 インドのPV市場が急拡大している。12年に1GW、13年に1.1GW、14年に0.78GW、そして、15年には2~2.1GWを導入した。15年末で累積導入量は5.1GW(世界9位)に達している。16年の導入量については、Bridge to Indiaが5.1GW、Mercom Capital Groupが4.8GWと予測しているが、いずれにしても、累積導入量は10GWに達する見通しだ。


 一方で、22年までに100GW(屋根置き40GW、地上設置60GW)の導入計画を打ち出していることから、17年以降も年間8~10GWの導入が続くもよう。17年には、中国、米国に次ぐ世界3位のPV市場に成長しそうだ。
 Mercom Capital Groupの調査によると、開発中のPVプロジェクトは21GWで、このうち14GWが開発段階に入っており、7GWが入札準備中という。17年の導入量は9.2GWと推測している。

 PV導入が加速するインドだが、セル&モジュールの大半は輸入に頼っている。Mercom Capital Groupの調査によると、16年4~8月の5カ月間で7億6300万ドル相当(前年比で53%増)のセル&モジュールを輸入している。このうち85%を中国から輸入しており、以下、マレーシア、台湾、米国、シンガポールが続く。

 インドのPVプロジェクトの入札価格は下落が続いており、kWhのコストはすでに0.0649ドルまで下がっている。そのため、コスト競争力のある中国メーカーのシェアが拡大しており、16年8月までの1年間における中国メーカーのシェアは前年同期の50%から75%に拡大した。インドにおける中国製PVモジュールの価格は0.39ドル/Wで、これは世界最安値だ。

 一方で、輸出も伸びている。16年4~8月の5カ月間の輸出額は4560万ドルで、前年同期の2750万ドルに対して65%増加したという。最大の輸出先は英国で、以下、イタリア、中国、米国が続く。なお、インドのPV生産能力(2016年6月現在)はセルが1468MW、モジュールが5848MWとなっている。

 拡大が続くインド市場には、多くのPVメーカーが参入している。Trina Solarは16年度第3四半期(7~9月)にインド向けに376MWを出荷した。インド向け出荷量は累積でも1.5GWに達している。Jinko Solarの主要市場は中国と米国だが、新興市場の開拓にも力を入れており、インドに拠点を設置するなど、市場開拓を加速している。First Solar(米国)もインド市場に着目している。16年11月時点での販売予約および交渉中案件は25.4GWで、全体の半分以上を北米が占めているが、インドのプロジェクト開発も増えている。

 国内のPVメーカーもインド市場への参入を模索している。パナソニックは国内の住宅市場が縮小しているため、今後北米、インド、トルコなどの海外市場の開拓に力を入れるという。

 急成長が続くインドだが、政策や技術的な課題も多く、Bridge to Indiaは、安価&低品質のDCケーブルによるPV発電所のパフォーマンス低下を指摘している。インドでは、コスト低減のため、安価だが低品質のDCケーブルを採用するケースが多く、これが発電量の低下や出火を引き起こす可能性があるという。PVを安定した電源として利用するためには、信頼性の高いシステムの構築が不可欠となりそうだ。

(4)トクヤマ、PV事業から撤退

トクヤママレーシア外観
トクヤママレーシア外観
 12年7月から始まったFITを追い風に、国内のPV市場は拡大を続けているが、一方で、価格下落、競合の激化で、PV市場から撤退する企業も増えている。
 最近では、12年に大陽日酸がモノシラン事業から撤退したほか、15年には凸版印刷がバックシート事業、16年には日本板硝子が結晶Si用カバーガラス事業からそれぞれ撤退している。大陽日酸は事業契約解約金198億円と合併会社解散に伴う損失35億円を特別損失として12年度決算に計上した。

 そして、16年9月には、トクヤマがPV事業からの撤退を決断した。同社は09年に100%子会社のトクヤママレーシアを設立し、多結晶Si(ポリSi)を製造する第1期プラント(6200t)、第2期プラント(1万3800t)を建設した。ただ、半導体用Siを製造する第1期プラントは析出装置の問題で本格稼働ができず、PV用Siを製造する第2期プラントも厳しい価格競争に直面した。ちなみに、トクヤママレーシアの15年度売上高は88億円、営業損益は103億円の赤字だった。

 14年および15年には、投資総額(2500億円)に近い金額を減損処理することを余儀なくされたが、今後も大幅な価格上昇は見込めず、ポリSiの供給過剰状態が続いていることから、これ以上の事業継続は困難と判断、プラントおよび商権をすべて韓国のOCIに売却することにした。17年3月までに全株式(2億ドル)を売却し、PV用多結晶Si事業から撤退する。

(5)ダイレクト・ウエハー、コスト低減に期待

 Siウエハーの低コスト技術として、溶融Siから直接ウエハーを製造するダイレクト・ウエハーが注目されている。ダイレクト・ウエハーはSiインゴットをスライスするプロセスが不要のため、ウエハーコストの低減、均一な品質のウエハーの製造が可能、といった利点がある。ダイレクト・ウエハーは米国の1366 TechnologiesとCrystal Solarが開発している。

 1366 Technologiesは、13年に年産25MWの工場(マサチューセッツ州)を開設しているが、17年には3GWの量産工場をニューヨーク州に建設する計画を進めている。Hanwha Q CELLSと700MW相当の供給契約(5年間)を締結しており、Wacker Chemi AGとは、PV用Siの長期供給契約のほか、1500万ドルの投資受け入れなど、戦略的提携を締結している。
 さらに、最近では、ダイレクト・ウエハー技術を応用した、3D(3次元)ウエハーを提案している。3Dウエハーは、ウエハーの周辺部のみを厚くすることで、ウエハー全体の強度を維持しつつ、コスト低減が期待できるという。

ダイレクト・ウエハー用エピ反応炉(Crystal Solar)
ダイレクト・ウエハー用エピ反応炉
(Crystal Solar)
 一方、Crystal Solarは、CVD法を用いて原料のトリクロロシランを土台となるSi基板上にエピタキシャル成長させ、単結晶Si膜を形成する技術を開発している。Si膜の成長速度は4μm/分で、単結晶Si膜が基板として十分な厚さになった段階で、土台のSi基板を機械的に剥離する。土台のSi基板は数十回の再利用が可能という。

 この製法はSiの結晶化プロセスが必要ないため、投入エネルギーは従来比で半減できる。また、インゴットからウエハーを切り出す必要がないため、ウエハーの製造コストが大幅に低減できる。100μm厚以下の極薄Siウエハーも容易に製造できるという。

 ベルギーのimecは、Crystal Solarのダイレクト・ウエハー(156mm角)を用いた単結晶Si太陽電池(n型PERT構造)で変換効率22.5%を達成(16年4月)した。pn接合型結晶Si太陽電池としては世界最高効率になるが、今後23%超を目指して開発を進めるという。
 また、Crystal Solarは長州産業と共同でダイレクト・ウエハーを用いたヘテロ接合型PVを開発しており、156mm角のセルで変換効率23%を達成している。


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