電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第597回

ハイパースケーラーはAIロボット企業になる?


フィジカルAIを見据えた取り組みが拡大

2025/4/4

 AIに関する開発競争が激化するなか、グーグル、マイクロソフト、アマゾン、メタといった大手企業の存在感がさらに増している。こうした企業はIT企業から大規模なクラウドサービスを提供するハイパースケーラーと進化し、直近はAIの領域でも積極的な取り組みを進めている。

 こうした企業は、次のフェーズとして、物理的な現実世界を認識・理解して複雑な行動を行うフィジカルAIや、現実空間での作業や人との対話を通じて物理的なタスクを実行するエンボディドAIの領域に踏み込む可能性がある。そしてフィジカルAIやエンボディドAIについては、ロボティクス分野とほぼイコールで語られることが多くなっており、つまり状況を総合するとハイパースケーラーが今後AIロボティクス企業へと変化する可能性があるということだ。

人型ロボット企業と連携

 実際のその準備ともいえる動きが出てきており、例えばグーグルでは、同社のAI開発組織グーグル・ディープマインドにおいて、ロボット用のAIモデル「ジェミニ・ロボティクス」(Gemini Robotics)を3月に発表した。グーグルの生成AIモデル「Gemini2.0」をベースにしており、トレーニングで初めて見るタスクを含む様々な新規の状況を汎化し、他の最先端の視覚・言語・行動モデルと比較して、平均で2倍以上のパフォーマンスを発揮できる。また、グーグルは、人型ロボットスタートアップ企業のアプトロニック(Apptronik)へ2月に出資し、Gemini2.0を搭載した次世代の人型ロボットの開発を進めている。

Figureの人型ロボット
Figureの人型ロボット
 マイクロソフトは、サンクチュアリ・エーアイ(Sanctuary AI、カナダ・バンクーバー)とAIの研究開発で協力すると2024年5月に発表。サンクチュアリ社が展開する汎用人型ロボット向けのAIモデルを開発するもので、開発に際して、マイクロソフトのクラウドシステム「Azure」をAIのワークロードに活用する。なおマイクロソフトは、サンクチュアリ社と同じく人型ロボットを開発するFigureにも24年2月末に出資するなど、人型ロボット企業との連携を拡大している。

メタは人型ロボットを自社で開発か

 アマゾンは、自社倉庫においてロボットを多数活用していることで知られるが、近年はアジリティ・ロボティクス(Agility Robotics)の二足歩行ロボット「Digit」の実証も行うなど、活用するロボット技術の幅を拡大している。また24年末には、クラウド事業を展開するAWS(アマゾンウェブサービス)から、人型ロボットの開発などを手がけるRealbotix(カナダ・トロント)へ助成金10万ドルが拠出された。

 メタも人型ロボットの開発を新たに進めているとされる。同社のLLM(大規模言語モデル)を活用し、汎用の人型ロボット開発を目指しているとされ、その一環として、ゼネラルモーターズ傘下の自動運転企業クルーズ(Cruise)でCEOを務めたマーク・ウィッテン(Marc Whitten)氏をロボティクス分野のバイスプレジデントとして招聘した。

 生成AI「ChatGPT」の開発で知られるOpenAIも、ソフトバンクグループ(株)、オラクル、MGX(アラブ首長国連邦の投資会社)と連携し、OpenAI向けの新たなAIインフラを米国国内で構築するため、4年間で5000億ドル(約78兆円)を投資する計画を1月に発表するなど、AI開発だけでなく、ハイパースケーラーとしての動きを開始した。そしてロボティクス関連でも、人型ロボットを開発する1X Technologies(米カリフォルニア州)へ23年に出資するなど動きをみせている。また、OpenAIは21年に解散したロボット工学ソフトウエアチームを再始動させ、ロボットの開発を検討しているとされ、実際1月からロボットで使用するセンサーなど主要部品の設計者を募集している。

人型ロボ市場は今後大きく拡大すると予測

 現在、生成AIを中心にAI関連の開発が活発化しているが、現時点で生成AIができる主なことは、質問への回答、文章の要約、画像の作成といったことに限られる。もう少し大枠で捉えたとしてもデジタル領域での対応に限られている。しかし、AIをより人の役に立つ存在にしていくためには物理領域(現実世界)でもAIが活用されるような状況、つまりは冒頭に挙げたフィジカルAIやエンボディドAIへと発展させていく必要があり、そのカギとなるハードウエアが人型ロボットを中心としたロボティクス機器である。

 金融大手企業の調査レポートなどをみても人型ロボットに関するものが増えており、ゴールドマン・サックスは、35年までに人型ロボットの世界出荷台数が140万台に達し、市場規模は約380億ドルに達すると予測。シティグループは、50年までに世界の人型ロボットの数は6億4800万台となり、市場規模は7兆ドルに達すると予測している。モルガンスタンレーの予測では、人型ロボット関連市場のTAM(獲得可能な最大市場規模)がグローバルで将来的に60兆ドルにもなると予測しており、米国においては30年に累計4万台、40年に累計800万台、50年には累計6300万台の人型ロボットが導入されると予想するなど、大規模な市場が構築されると見込んでいる。

 大手IT企業と呼ばれていた企業がハイパースケーラーへと変化し、AIにおいても大きな存在感を放つようになったが、こうした企業が今後フィジカルAIやエンボディドAIへの展開を進め、AIロボティクス企業へと変貌するときが意外と近くに迫っているのかもしれない。


電子デバイス産業新聞 副編集長 浮島哲志

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