今年に入り、京都の半導体関連企業でトップ交代のニュースが相次いだ。デバイスメーカーのローム、洗浄装置トップのSCREENホールディングス、モールディング装置最大手のTOWAだ。主力のパワーデバイスで市況悪化に苦しむローム、生成AIで勃興する先端半導体の波を捉え高成長を遂げたSCREEN、TOWAと置かれた状況に違いはあるが、不透明感の強い世界情勢にあってさらなる成長を遂げるためには加速する変化への対応が求められている点で共通している。3社を取り巻く経営環境とトップ交代の背景を整理した。
赤字計上で構造改革を打ち出すローム
ロームは、取締役 専務執行役員でローム・アポロ(株)代表取締役社長の東克己氏が4月1日付で代表取締役社長 社長執行役員に就任し、現社長の松本功氏は3月末で取締役を退任して相談役となる。松本氏は20年に社長に就任し、SiC事業における積極投資を決断するなど拡大戦略を進めてきた。21、22年度には2期連続で過去最高売上を更新し、車載と産業機器向けで高成長を目指す方針に則って着実に成果を挙げた。
そんなロームの快進撃は、23年度以降に暗転する。コロナ禍に伴う半導体の逼迫解消や中国市況の悪化、電気自動車(EV)市場の減速といったマイナス要因が重なり23年度は減収減益に陥り、24年度は在庫調整のための稼働抑制を実施していることもあって12年ぶりに営業赤字に陥る見通しだ。すでに上期決算発表時点で抜本的な収益性改善を目的とした構造改革の実施を公表していたが、松本氏は自身の続投ではなく新経営体制のもとで改革が実施されるべきと判断した。
新社長となる東氏は、11年のタイの洪水の際にディスクリート事業の責任者として、当時LSI事業の責任者だった松本氏とともに対応にあたった経歴の持ち主。23年に生産子会社であるローム・アポロの社長に就任していた。アポロにおける改革が途上であったことから、松本氏に後継の打診を受けた当初は「あと1年待って欲しい」と回答したというが、結局改革の実行役として社長を引き継ぐことに決めた。
「痛み」の一方で再成長チャンスも
ロームが収益の立て直しを図るために打ち出す構造改革は、設備投資の抑制や人員・製品価格の適正化、拠点再編など。特に生産拠点の再編はそこで働く従業員の雇用に影響することは避けられず、「痛み」を伴う。新社長となる東氏もこの再編が「最初の大きな仕事になる」と述べており、新体制はまずこの施策をやり切るというハードルに直面する。
一方、松本氏が在任中に打ってきた布石は改革を経たロームが再成長するための一手でもある。注力製品であるSiCパワーデバイスは、ローム・アポロの筑後工場(福岡県筑後市)での新棟建設に続いて、宮崎県国富町の旧ソーラーフロンティアの工場を取得。今後想定される需要の伸びを見据えた供給体制の構築を図ってきた。直近では産業機器市場の不振とEV市場の減速で厳しい状況だが、中長期的に成長エンジンに位置づけられることに変わりはない。また、SiCとともに次世代パワーデバイスに位置づけられるGaNデバイスにおいても、成長著しいAIサーバー用電源への採用を獲得した。電源分野において注力してきた取り組みがここに来て成果につながるのか、今後の成長に期待がかかる。
加えて東芝のパワーデバイス事業との連携も、将来成長に向けた布石の1つだ。ロームは東芝が株式非公開化を実施した際に出資し、東芝のパワーデバイス事業との連携に向け協議を進めている。東氏はこの構想が浮上した際に強く後押しした立場であったといい、今後のさらなる連携にも強い意欲を示している。ロームは大手顧客であるデンソーとも半導体分野で戦略提携を結んでおり、こうした外部との連携も成長回帰に向けた重要な施策といえよう。東氏が率いる新体制がこうしたチャンスをものにしていけるかが問われる。
SCREENの新社長は半導体装置事業で功績
SCREENホールディングスは、6月の株主総会を経て代表取締役 社長取締役兼CEOに専務執行役員で経営戦略本部長の後藤正人氏が就任し、社長の廣江敏朗氏は代表取締役 取締役会長となる。また、垣内永次会長は取締役を退任して特別顧問となる。
廣江氏は、近年のSCREEN躍進の立役者だ。社長に就任した19年は、半導体設備投資の需要増大に伴うサプライチェーンの混乱で収益が落ち込み、経営環境は厳しかった。当時、前社長の垣内氏が持株会社制度へ移行させ、大日本スクリーン製造からSCREENに刷新して5年目だったが、ホールディングスと各事業会社の連携が上手く機能していなかったことから体制の再構築を進めた。
後藤氏は半導体製造装置事業においてキャリアを重ねてきたが、19年に事業会社のSCREENセミコンダクターソリューションズの社長に就任。収益を伴う売上成長を実現するべく、装置製造体制の最適化に尽力してきた。主力の彦根事業所(滋賀県彦根市)では半導体設備投資の活況を受けて相次いで新棟を建設し、計5棟の生産棟が並ぶ規模に拡大したが、後藤氏は増え続ける需要に応えながら利益を落とさない供給体制の確立に貢献してきた。
後藤氏は24年4月に長年親しんだ半導体製造装置事業を離れ、ホールディングスの経営戦略本部長としてグループ全体に視野を広げる立場となる。それは今回の新社長就任を見据えての措置だったと推定される。SCREENは廣江氏のもとで売上高1.7倍、利益4倍強と大きく業績を伸ばし、社内外で「低収益が課題」と評されていたのは過去のものとなった。そんななかでSCREENの経営を引き継ぐ後藤氏には、変化の速い事業環境に適切に対応したさらなる成長の実現が求められる。
半導体洗浄装置市場における、SCREENのポジションは揺るぎないものに見える。先端プロセスではリーディングカンパニーとしての地位を確立し、彦根事業所に続くさらなる生産拡大に向けた拠点の整備用に滋賀県内で用地も確保した。海外の大手半導体メーカーとの連携強化に向けた、新たな研究拠点の整備も決まっている。
一方、半導体製造装置における洗浄装置に続く柱となるべき新規メニューの創出や、ディスプレー製造装置などの半導体以外の事業においてどう成長を図っていくかが課題だ。後藤氏も洗浄装置以外の柱事業の育成については意欲を示し、候補として次世代パッケージや水素エネルギーを挙げた。
生成AIで急躍進の勢い受け継ぐTOWA
TOWAは、4月1日付で取締役 営業本部長の三浦宗男氏が取締役 社長執行役員に、現代表取締役社長の岡田博和氏は代表取締役会長となる。岡田氏は代表権を保持するが、これは三浦氏が当面営業本部長を兼任することによる措置。岡田氏は折を見て代表権も三浦氏に移譲する考えを示唆している。
TOWAも近年の成長が著しい半導体製造装置メーカーで、22~24年度までの現行中期経営計画における24年度目標を2年前倒しで達成済みだ。この高成長の要因は、中国市場における半導体の国産化ニーズを捉えたことと、生成AI市場の勃興による後工程プロセスの革新に対応できたことである。岡田氏は、中国における装置および封止用金型の現地生産の増強を進めてきたことが、需要増加に対応でき高成長につながったと振り返る。
一方、生成AI関連ではデータ処理に欠かせないデバイスであるHBM製造において、TOWAの装置が高く評価されている。独自の封止技術であるコンプレッションモールドが、HBMチップの積層において高い生産性を発揮し、大手メモリーメーカーに採用された。チップレット対応のモールディング装置も投入し、さらなる技術革新に対応していく計画だ。
こうした市場ニーズへのいち早い対応の背景には、三浦氏の活動があった。三浦氏はもともと金型の技術者としてTOWAでのキャリアをスタートしたが、早くから技術営業に転じてその後は営業畑で活躍してきた。半導体封止はプロセスの後段に位置するため、前工程の変化を待っていては技術トレンドに追随できない。そう考えた三浦氏は北米で大手デバイスメーカーとの関係構築に取り組み、先端ニーズの把握に努めてきた。そうした成果が、生成AI市場における高い評価の獲得につながった。
三浦氏もまた、絶好調のタイミングで社長のバトンを引き継ぐ。モールド技術を大きな柱として確立できた反面、それに続く新たな事業の育成が課題である点ではSCREENと似た状況にある。三浦氏は要素技術のモールドプロセス以外への横展開や、半導体分野以外への応用を目指したいとの意向を示す。
ロームとSCREEN、TOWAと3社の置かれた状況は一様ではないが、今後の半導体市場で生き残るには現状の地位に安住することは許されないとの認識では一致している。生成AI、そしてその後に待つ半導体の新たな市場トレンドへの対応に向けて、3社の新体制の挑戦が始まる。
電子デバイス産業新聞 副編集長 中村 剛