中・小型ビルで大規模ビルと同等の機能、グレードをコンセプトとする「PMO(プレミアム ミッドサイズ オフィス)」をブランド化し、積極展開するのが不動産大手の野村不動産(株)(東京都新宿区西新宿1-26-2、Tel.03-3348-8878)だ。マンション分譲、戸建分譲、ビルディング事業などを手がけている同社は、千代田、中央、港、新宿、渋谷の東京都心5区で年間6棟規模のビル開発を推進する方針だ。今後のPMOの展開について都市開発事業本部 ビルディング開発部長の廣瀬政男氏に伺った。
―― PMO開発の経緯について。
廣瀬 リーマンショック前の2008年6月、日本橋本町に1号案件を竣工した。顧客との話の中で、小型でグレードの高いビルに対する要求が大きかった。歴史の浅い会社は人材を確保し、知名度を上げたい。
一方、地方の歴史のある会社は地元では知名度があるため、東京の出先機関はある程度グレードの高いビルへの入居が必要となるなど、中・小型ビルのフロアを使い切りたい需要は数多くある。開発する側も中・小型ビルでは高い賃料が得られないという認識が強く、当社でこれらの顧客ニーズに対応すべくPMO開発に乗り出した。
―― PMOの特徴は。
廣瀬 フロア面積が60~200坪程度の中規模サイズで、大規模ビルのグレードと機能性を持たせるのがコンセプトだ。これを実現するため、従来の中小型ビルに欠けていたステータスとセキュリティ性を兼ね備えたビル開発を前提とした。1階部分は基本的にはロビーとして使用し、収益は見込まない。低層部にコンビニやドラッグストアなどの店舗を導入することで上層部の賃貸料が下がると意味がなくなってしまうからだ。
また、セキュリティ面では待合フロアとエレベーターフロアの境にセキュリティシステムを導入した。セキュリティシステムは大規模ビルのシステムしかなかったため、ビルの仕様に合わせ特注した。
―― ユーザーの評価は。
廣瀬 当初、PMOのような小さなビル開発に投資を行うパターンは少なかったし、当社でもワンフロア45坪のお客様とのお付き合いがなかったため、募集したらどうなるか心配ではあった。結果的には坪あたりの賃料は平均2万円台前半をキープしており、相場よりも2~3割上回っている。実際、入居しているお客様の声を聞いても、人材募集を行うとすぐに人が集まるなど好評で、業容拡大で移転したうちの3社はPMOからPMOへ移っているほどだ。
日本橋室町の案件は文明堂さんとの共同事業となるが、PMOを評価していただいたもので、1階に文明堂カフェが入居した初めての店舗導入物件となった。入居するテナントさんにケータリングや割引サービスなどを行うなど非常に好評であり、1階に店舗を導入するビジネスモデルも成り立つと実感した。
―― 景気に左右されにくいのが強み。
廣瀬 日本橋本町の1号物件だけがリーマンショック前の案件であり、そのほかは景気が悪い時期に竣工した物件だ。大規模ビルの場合、大手企業が対象なので景気の波を受けざるを得ない。しかし、PMOはどちらかというと中小企業が対象となるため、景気の悪い中でも元気な中小企業が多数あり、そこが評価されたと言える。
また、ゼネコン、設計業者にすべて任せるのではなく、ユーザーの声をもとに社内で開発、管理、運営の各部門が定期的に集まり新しい物件の企画を常に考え、次の物件に活かしているのも当社ならではの強みである。
―― 今後の展開は。
廣瀬 日本橋本町の1号物件を皮切りに千代田区、中央区、港区の3区でこれまでに17物件が竣工し、いずれも100%近くの稼働状況となっている。施設規模は、敷地面積は70~300坪、貸し床面積は400~1500坪と立地に応じて様々だ。
今後は都心3区に新宿、渋谷を加えた5区を中心に年間6棟ペースでの開発を推進する考えだ。すでに32物件まで建設用地は確保しており、16年以降には平河町(1月)、日本橋三越前(5月)、日本橋江戸通(6月)、日本橋兜町(10月)、日本橋本町II(11月)、岩本町II(12月)、西新橋(17年3月)、半蔵門(17年2月)、渋谷(17年6月)、内神田(17年6月)、新宿御苑(18年2月)の竣工を予定している。
(聞き手・副編集長 永松茂和)