(株)日立製作所と日本アキュレイ(株)による「日立高精度放射線治療研修センター」開所式とあわせて開催されたメディアセミナーにおいて、山梨大学病院放射線部長の大西洋氏は「体幹部定位放射線治療とその保険適用拡大の必要性について」と題し、定位放射線治療(SABR)の優れたところと展望について講演した。
大西氏は、定位放射線治療とは「限局した小型腫瘍へのピンポイント照射法で、短期に大線量を照射する」治療法であり、「周囲の正常臓器を精密に避けて身体の負担を最小限にできる」と前置き。その長所として、局所制御率の向上、放射線による有害反応の低減、治療期間の短縮(従来型の7~8週間に対し1週間)、医療費の節約(強度変調放射線治療の約50~70%の治療費)、治療費はガンマナイフで50万円、直線加速器を用いた場合で63万円などを挙げた。
オペレーションセンター
(日立高精度治療研修センター)
アキュレイ社のサイバーナイフ、トモセラピーをはじめとする画像誘導装置を備えた定位放射線治療装置および、治療装置と誘導装置で構成する様々なシステムを紹介し、また、呼吸性移動臓器に用いる各種センサーやCCDカメラなどを紹介した。さらに、6軸工作ロボットに搭載したイバーナイフの動画を投影して紹介した。日本アキュレイによると、工作ロボットは当初、日本のファナック製を使い、現在はドイツのクカ社製である。
大西氏は、肺がんをはじめ各種臓器のがんの定位放射線治療患者数の増加、高精度放射線治療の患者数および治療施設の推移、定位放射線治療の症例の紹介や、手術と生存率の比較を示し、全米を代表するがんセンターで結成されたガイドライン策定組織NCCN(National Comprehensive Cancer Network)のガイドライン2015の一部を紹介した。
それによると、手術不可能または潜在的に手術可能であるが胸部外科へのコンサルテーションを行っても手術を拒否する患者には、定位放射線治療が推奨される。肺葉切除を行うには高リスクな患者(75歳以上や低肺機能)に対しても、定位放射線治療は適切な選択肢である。生物学的等価線量(BED)が100Gy以上のレジメンを用いることで局所制御率と生存率が良好となる。中心型肺がんには4~10回の分割が安全だろうとしている。
続いて、定位放射線治療による肝細胞、前立腺、腎細胞、腎、膵臓、子宮などのがんの症例、術後経過の様子を紹介し、オリゴメタ(転移(メタ)の数が少ない、オリゴ:0~5個、2臓器以内)の状態では、以前は転移があると化学療法などの全身的治療のみであったが、オリゴメタの場合は、病巣部の手術や放射線治療により延命も可能という学説や、Abscopal Effect(局所の放射線治療により、そこから離れた場所で抗腫瘍効果をもたらす)を説明し、さらに、「定位放射線治療は免疫増強効果があり、免疫製剤と併用することでさらに増強される」という最近の成果を紹介した上で、どのステージのがんも体幹部定位放射線治療の対象候補となりうると解説した。
一方で、「手術(切る)とは?」として、全身麻酔と手術ストレスにより免疫反応が抑制され、傷に対する炎症によりがん細胞の憎悪化が促進されるため、元々備わっていた防御系(リンパ節)が喪失されるが、「放射線治療は切らずに治すので、こうした悪影響が小さいのでは?」と問いかけた。
超高齢化社会の進行、生活の質(QOL)重視、自分の価値尺度で治療法を選択、放射線治療の進歩のなかで、低侵襲な放射線治療の選択が増加へとつながるはずだが、ガイドラインに書いていないことがあり、「患者さん自身が治療方法を選択することが重要」であると述べた。続けて、「低リスクまたは中リスクの前立腺がんに対しては、定位放射線治療が従来型照射法の代わりに『なれる』ではなく『なるべきだ』」とのASTRO(アメリカの放射線がん治療学会)の今年の方針を紹介した。
多くのメリットがある定位放射線治療であるが、現在の保険適用は頭蓋内腫瘍、頭頚部腫瘍、肺がん、肝臓がん、脊髄動静脈奇形のみとなっている。平成28年度診療報酬改定に向けた医療技術評価提案の直線加速器を用いた定位放射線治療の適用拡大において、大西氏は5cm以内の限局がん、特に前立腺、腎、副腎、膵、リンパ節、脊椎での適用に期待を示した。
最後に、大西氏は「定位放射線治療は少ない医療費で局所をより安全に制御でき、高齢化の進む将来の日本において、より普及の期待される低侵襲照射法であり、現在の頭蓋内、肺、肝のみから全身のがんに保険適用を拡大する必要と意義がある」と強調した。