(株)日立製作所と日本アキュレイ(株)による「日立高精度放射線治療研修センター」開所式とあわせて開催されたメディアセミナーにおいて、東京大学医学附属病院放射線科准教授で放射線治療部門長の中川恵一氏は、「日本のがんと放射線治療」と題した講演を行った。
中川氏はまず、日本では「生涯でがんに罹患する確率は、2008年の男性58%/女性43%から、15年の各67%/50%まで上がり続けており、「男性の3人に2人、女性の2人に1人ががんになる『がん大国日本』」、「年間98万人ががんになり、37万人ががんで死亡」と現状を説明した。
次いで、日米のがん死亡者数(人口10万人あたり)の比較では、1995年に両国とも210人程度であったが、アメリカは04年に180人程度へと減り続け、日本は逆に250人超へと増加が続いたことを示した。
また、がん死亡の内訳では、胃がん(アジア型)から肺がん、前立腺がん、乳がんやその他のがんが増えて、「がんの欧米化」、西欧型へと変化しており、胃がんと関係が深いとされるピロリ菌感染や肝臓がんへ進むことがあるB型肝炎、C型肝炎が冷蔵庫の普及とともに減ったことを示した。
「がんの完治には、手術か放射線治療が必要で、『手術、外科医』と『放射線治療、放射線治療医』はライバル」の関係となっているが、日本のがんの特殊性として、過去において「がん≒胃がん」であり、それが「胃がんの治療≒手術」、「がんの治療≒手術」となり「がんの医者≒外科医」という図式となっている。一生使い続ける臓器で全摘手術を行えるのは胃だけであり、また、大腸、特に骨盤の裏に位置して手術がしづらい直腸と比べ、胃は手術しやすいところに位置していることも付け加えた。
中川氏は、この「がんの治療は『手術』だ」と思っていること、その認識の原因は、古くから現在に続く病院を舞台とするテレビドラマの影響が大きいと推察する。ちなみに、この「がん治療は手術」という認識を改めるため、小中高でがんについて教える授業が17年春からスタートすることを紹介し、「生徒に、がん治療の正しい認識を持ってもらうことと、授業を受けた生徒が家庭で話すことによる正しい認識の波及」に期待するとともに、がん治療で患者が手術ないし放射線治療のいずれかをとるか迷う(選択する)ような状況にしなければいけないと強調する。
中川氏は、「欧米はがんの5~6割に放射線治療を施し、日本は25%だが、多くのがんで両治療法は同じ治癒率を達成している。例えば子宮頚がんにおいて、欧米は放射線治療が7~8割、日本は手術が7~8割となっているが、治癒率は同じといわれている。日本でのがん治療の放射線治療の割合が、現在の25%から10年後の50%へと伸びていくことは間違いなく、特に日本は高齢の患者が多いため、負担の大きい高侵襲な治療法である手術を避ける必要性も考慮すれば、欧米を超えて6割以上に達する可能性があると説明する。なお、東京大学医学部附属病院では、14年にトモセラピーシステムを導入した。
中川氏は、医学物理士委員会の委員も務めており、放射線治療の増加に伴い必要性が増す医学物理士について、理工系大学院の博士号を取得した優秀な人材が資格を取得すれば、雇用の確保にもつながるとみている。
医学物理士は、治療計画の際の線量分布最適化、治療精度の検証などから、放射線治療の発展に貢献する研究開発といった役割を担うとされている。
(この稿続く)