4月に東京ビッグサイトで開催されたFPDの総合展示会「ファインテック ジャパン」での専門技術セミナー「医療機器産業の将来像とITとのクロスオーバーの可能性」において、オリンパス(株)医療イメージング開発本部の中村一成氏の講演「オリンパスの内視鏡技術 現状と展望」が行われた。
中村氏は、オリンパスの事業紹介や世界および同社の内視鏡の歴史と構造、診断や治療の適用用途、シール石灰(超音波&高周波エネルギー)、シール(高周波エネルギー)、把持/剥離を1本のデバイスに統合したTHUNDERBEATを紹介したうえで、内視鏡イメージングへと講演を進めた。
「画質を上げてください」「のみにくいから細くしてください」という相反する要望に応えるため、同社はCCDの小型化、画素サイズの縮小などを進め、2002年には外径10mm以下でハイビジョン信号画像を達成した。
さらに、カラーCCDを用いた同時撮像方式と、白黒CCDと光源の内蔵キセノンランプおよびRGB回転フィルタを組み合わせた面順次撮像方式による高画質化、また、粘膜のわずかな色調変化をより強調する「適応型IHb色彩強調」処理技術、外科手術用3Dビデオスコープといった最先端技術/製品、さらに、電子デバイスにとどまらず、腸壁に当たると自然に曲がる「受動湾曲」など、機械的な技術の進化も紹介した。
オリンパスでは、様々な波長を持つ光の性質、波長の異なる光の照射による生体組織の光の吸収と散乱を利用し、狭帯域光観察(NBI : Narrow Band Imaging)を実用化している。これは、粘膜表層の毛細血管観察用に青色の狭帯域光(390~445nm)深部の太い血管観察と粘膜表層の毛細血管とのコントラストを強調するために緑色の狭帯域光(530~550nm)を使うことで、粘膜表層の毛細血管、粘膜微細模様の強調表示を実現した。
また、赤外光が吸収されやすいインドシアニングリーンを静脈注射した上で、2つの赤外光(790~820nm/905~970nm)を照射することにより、人間の目では視認が難しい粘膜深部の血管や血流情報を強調表示する技術「赤外光観察」(IRI : Infra Red Imaging)や、コラーゲンなどの蛍光物質からの自家蛍光を観察するための励起光(390~470nm)と血液中のヘモグロビンに吸収される波長(540~560nm)の光を照射することにより、腫瘍性病変と正常粘膜を異なる色調で強調表示するための技術「蛍光観察」(AFI : Auto Fluorescence Imaging)などを紹介。「我々は内視鏡イメージングの世界でハイビジョンを完成させたが、これからは4K、8Kの3Dビデオスコープを作る」と話した。
カプセル内視鏡は、直径11mm、長さ26mmのカプセルに、高解像度CCD、省エネ技術を採用した小型バッテリー、無線送信装置などが搭載された「電子デバイスのかたまり」(中村氏)で、体外の受信装置、アンテナユニット、ビュワーに1検査あたり約6万枚(秒2枚×8時間)の画像を送信する。現在は、胃や大腸には適用しておらず、小腸用に普及している。
今後のカプセル内視鏡は、小さな電池で8時間以上の駆動が難しいため、無線給電システムのニーズが高まっており、中村氏は「優れた技術を教えて下さい」と呼びかけた。
次いで、患者の胃を水で満たすことでカプセル内視鏡の視野を確保し、医師がジョイスティックを使った磁気誘導により観察を自由に行うことを想定している。さらに、薬液の放出機構や体液の採取機構といった、治療や診断機能の付加も検討中だ。
オリンパスでは、内視鏡をはじめとする医療事業に加え、生物顕微鏡やバイオイメージングなどのライフサイエンス、さらに、映像事業を手がけており、遺伝子/たんぱく質レベルから細胞、動物、そして人体への医療応用へと展開。今後の展望として、蛍光プローブ(薬剤)や放射性同位体、磁気微粒子などを標的分子(腫瘍関連分子)に照射や静注で投与し、その反応を内視鏡で検出し、可視化する手法、薬剤の開発、複数の薬剤併用などの開発を進め、小動物で確認するなど成果を上げている。オリンパスは、医工連携から医工薬連携へと拡大し、より一層の「早期診断」、「低侵襲治療」の実現を目指すと話し、講演を終えた。
講演後の質疑応答では、「ハイビジョン内視鏡の画素数は明かせないが、HDTV以上の画質を確保している。かつてはCMOSよりCCDが有利であったが、今はCMOSも当然視野にある。時間解像度は30P、60Pから、120P、240Pなどどれがいいのか発熱のことも考慮しながら落とし込んでいる。現在は体に5~10mmの孔を開けるが、1mmくらいが理想だ」といった活発な議論が交わされた。