(社医)博愛会 相良病院(相良吉昭理事長、鹿児島市松原町3-31、Tel.099-224-1811=経営企画部企画課)と、シーメンス・ジャパン(株)(織畠潤一代表取締役社長兼CEO、東京都品川区大崎1-11-1、Tel.03-3493-7630)は4月18日、最先端の乳がん医療を提供する新病院建設に伴いパートナーシップの基本協定を締結し、5月14日に共同記者発表会を行った。共同記者発表会では、シーメンス・ジャパン代表取締役社長兼CEOの織畠潤一氏がシーメンスヘルスケア事業の紹介を行い、続いて、執行役員でヘルスケア イメージング&セラピー事業本部の中部・西日本営業本部長の渡邉隆史氏がパートナーシップ契約締結の概要を説明した。その後、博愛会理事長の相良吉昭氏が「相良病院の概要ならびに今後目指す女性医療」と題した講演を行った。共同記者発表会の様子を2回の連載で紹介する。
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◆シーメンス、パワーから医療まで売上10兆円
織畠氏は、グローバルイノベーションリーダーとしてのシーメンスAGの概要説明から開始した。シーメンスAGは、1847年に創立された。現在では、ヘルスケアサービスのほか、パワージェネレーションサービス(パワーガス、風力&再生可能エネルギー)、エネルギーマネジメント、ビルテクノロジー、鉄道などモビリティー、デジタルファクトリー(インダストリー4.0など)、プロセス&ドライブ、ファイナンシャルサービスを手がけ、2014年度の受注高783億ユーロ(約10.9兆円、1ユーロ139円)、売上高719億ユーロ(約9.9兆円)、純利益55億ユーロ(約7600億円)、従業員数は35万7000人。世界200カ国以上で事業を展開し、エリア別では、南北アメリカが売上高187億ユーロ(約2.6兆円、社内シェア26%)、ドイツ109億ユーロ(約1.5兆円、15%)、欧州(ドイツ除く)・アフリカ・中東など279億ユーロ(3.8兆円、39%)、日本を含むアジア・オセアニア144億ユーロ(約2兆円、20%)となっている。
◆ヘルスケアは1.7兆円、部門別利益率は最高
14年度のシーメンスヘルスケアは、受注が121億ユーロ(約1.7兆円、全受注の15%)、売上高117億ユーロ(約1.6兆円、全売上高の16%)、従業員数4万3000人、利益21億ユーロ(約2900億円)で、その利益率17.7%は、社内全部門で最も高い利益率を誇る。地域別売上構成は、ドイツ7%、ヨーロッパ(ドイツ除く)・アフリカ・中東など28%、南北アメリカ38%、日本を含むアジア・オセアニア27%。
年間の研究開発費は10億ユーロ(約1400億円)に達し、売上高に占める割合は8.1%で、年間の特許出願数は1687件、1営業日あたりの特許登録数は4件以上になる。
◆包括的な製品ポートフォリオを提供
シーメンスヘルスケアは、120年にわたり、イノベーションの歴史を重ねてきた。開発した主な製品は、順に1896年X線管の製造(世界初)、1957年全血または血清用ディスクリート式全自動生化学分析装置(世界初)、67年リアルタイム超音波画像診断装置(世界初)、75年CT装置、83年MRI装置、98年検査室向け搬送システム(世界初)、99年医療用画像プラットフォーム、01年PET-CT装置、03年オープンボアMRI装置、05年デュアルX線管搭載型CT装置(世界初)、06年4種の測定原理を1台に搭載した臨床検査装置、08年多軸血管撮影装置とフルオートX線撮影装置、09年トモシンセシス対応マンモグラフィ、乳房用超音波自動ボリュームスキャナ、3D読影支援システム、11年統合型MR-PET装置(世界初)、12年ケーブルレス超音波画像診断装置、14年息止め不要のCT装置などとなっている。
製品は、磁気共鳴診断装置、X線CT装置、分子イメージング、画像診断ITソリューション/PACS、アクセサリーやオプションサービス、血管撮影装置、一般X線撮影装置/X線透視撮影装置、超音波画像診断装置、マンモグラフィ装置、検体検査/診断薬に及ぶ包括的なポートフォリオとなっている。
◆グローバルなベストプラクティスを適用
続いて、渡邉氏は、(1)新病院事業計画に対するコンサルテーション、(2)女性医療に最適なシーメンスの画像診断、治療、検体検査に関する医療機器の提携、(3)シーメンススタッフが常駐するサポートオフィスを新病院内に設置(以上、設立・運営に対する包括的なソリューションの提供)、(4)次世代装置の共同研究開発、(5)相良病院がシーメンスのグローバルリファレンスサイトとなる(以上、女性医療のロールモデルおよびブランドの確立)とする、シーメンスと博愛会のパートナーシップ契約の概要を説明した。
(1)については、シーメンスのグローバルで400件以上のコンサルテーション実績、世界中の医療ガイドラインの分析で得られた高い知見と世界トップレベルの医療機関でのベストプラクティスを背景に、ベストプラクティスを参考にした診療プロセスの最適化、快適かつ機能的な環境による患者ケアの品質向上、事業や診療分野の持続可能性の評価といったメリットがあるとした。
新病院の事業計画の流れは、フェーズ1で初期アセスメントおよびベンチマーキング、フェーズ2で戦略コンセプト作成および市場分析、フェーズ3でプロセス設計、ボトルネックの予測など、フェーズ4で機能的レイアウト設計、フェーズ5で建築コンセプトの作成となる。このフローは、「シーメンスの重工業でのプロジェクト管理と相通じるものがある」と補足した。
海外での事例として、1425年創立の世界最古のカトリック系大学「ルーベン大学」の大学病院 (1995床、職員8800人のベルギー最大病院)のブレストケアセンターを挙げ、スクリーニングプロセスの最適化(マンモグラフィ、超音波、MRI)、高リスク患者やデンスブレストへのMR診断ガイドラインの策定、MRガイド下でのバイオプシープロセスを標準化し、世界中から数多くの研究者、見学者を受け入れているといった紹介を行った。
◆早期発見、診断、治療、アフターケアまで提供
(2)では、乳がんをはじめとする女性医療に対して、早期発見、診断、治療、アフターケアまでを網羅する最適な製品・包括的なソリューションを一括で提供するが、これらすべての製品群をポートフォリオに持つのはシーメンスだけであり、これにより、先進的な医療機器の組合せによる診断精度の向上、侵襲的な検査の低減による被検者の負担軽減、単一プロバイダーによるワークフローの最適化とさらなる医療の効率向上といったメリットがあるとした。
先進的な医療機器の例として、シーメンスが世界で初めて開発・製造したMR-PETは、一度の全身検査で高精度・広範囲の診断が可能で、がんの病態把握、治療効果判定、転移状況把握に強みを発揮し、低侵襲な検査が可能(装置による被ばく無し、造影剤量低減)となる。
また、シーメンスだけが持っている血清HER2装置(体外診断)は、分子標的療法という遺伝子やタンパク質を狙い撃ちする療法で使用し、血清HER2測定による治療効果の判定、再発の早期予測が可能、低侵襲で頻回に検査が可能(血液検査のみで生検が不要)である。
◆評価向上でメディカルツーリズムも支援
(5)では、相良病院をシーメンスのグローバルリファレンスサイトとすることで、女性医療に関するグローバルでの知識の交流、研究症例活動などを全面的に支援し、それにより、常に世界最先端の知見を得ることが可能で、アジアの女性医療の最適モデル確立、グローバルでの知名度の向上、メディカルツーリズム事業などへの寄与といったメリットがあると解説した。
渡邉氏は、「欧米で最適(ベストプラクティス)でも、日本やアジアで最適とは限らない。人種や食生活でも異なる。今回の提携で、日本・アジアでの女性医療の最適モデルの確立を図る。その過程で、相良病院の評価が上がり、また、メディカルツーリズムも支援したい」と述べた。
◆「すべての女性の健康増進に役立つ」モデルに
最後に渡邉氏は、「革新的な製品群をお客様にご理解いただくには、技術的な価値を訴求するだけでは不十分で、『技術がもたらす成果をお客様と共に創り上げるソリューション型の提案力』が重要で、今回のパートナーシップ契約は『先進的な女性医療のロールモデルを日本で創り上げること』を目的に、女性医療におけるリーディングカンパニーとしての地位を確立し、企業価値を高める。この新病院で創り上げられる女性医療におけるロールモデルは、『国内外すべての女性の健康増進に役立つ』と考える」と展望した。