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国立病院機構 埼玉病院 院長 関塚永一氏(1)


国立埼玉病院、200床増床と誘致施設で保健医療村実現への取り組み

2015/4/28

関塚永一氏
関塚永一氏
 国立病院機構 埼玉病院(埼玉県和光市諏訪2-1、Tel.048-462-1101)は、2012年に350床の新病院を開院したが、それ以前から院内で議論していた「さいたま保健医療村」(トータルヘルスケア病院群)構想の実現に向けて準備を進めている。周産期母子センター、小児2次救急病床拡張、ER型救急病棟などの救急機能拡大の要請を受け、13年8月には必要な200床の増床が承認されている。17年には既存病床を合わせ計550床の急性期病院が誕生する。さらに、これにとどまらず、後方病院機能を有した医療療養型ないし回復期リハ病院、介護施設や老人保健施設、訪問介護ステーションなどの誘致施設を加えることで、約750~約800床の健康・医療・救急・介護連携の情報発信基地「さいたま保健医療村」が実現する。3月4日、同病院の関塚永一院長がJPI(日本計画研究所)で「さいたま保健医療村(トータルヘルスケア病院群)実現に向けた取り組み」と題した講演を行い、同病院の経営戦略、新棟建設とその後の活動、そして、さいたま保健医療村構想の実現などについて語った。ICT導入によって医療、介護の信頼のネットワークが拡大し、病院経営が円滑にまわるようになるなど、興味深い話も多くあった。今回は病院の概要から、同病院を取り巻く医療環境、経営戦略などについて、次回は新棟建設とその後の活動について紹介する。

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◆東京都民の患者30%が将来50%へ
 関塚氏は1980年に慶應義塾大学医学部を卒業し、翌年に同学部内科学教室入局、83年に国立埼玉病院内科医員となり、その後留学などを経て88年に再び埼玉病院へ戻り、消化器科医長に就任。臨床研究部長、副院長などを経験したのち、2010年に現職となった。
 同病院が位置する和光市は、埼玉県の最南端東寄りに位置する。東京都板橋区から100m、練馬区から300mの距離であるため、県内外合わせて人口100万人以上の医療圏となっている。現在、患者の地域別割合は和光市が最多で、次いで隣接する朝霞市、新座市、志木市となっているが、練馬区、板橋区からの患者も多く、約30%が都民である。関塚氏は、「今後は約50%まで増加するかな」と推測している。

◆関塚氏「挨拶ができなくて何が医療の質だ!」
 既存病院の規模は敷地6万5615m²、6階建て延べ2万8315m²で、病床数は350床(CCU 4床、HCU 8床、NICU 4床含む)。標榜診療科は22診療科で、外来規模は990人。フロア構成は1~2階に外来、検査室、処置室、化学療法室など、3階に手術室6室と生育病棟(小児・産科)、NICU 4床、4回に循環器系病棟、CCU 8床、HCU 4床、5階にがん病棟(外科、呼吸器外科)病棟、がん病棟(婦人科、泌尿器科)、6科系病棟と外科系病棟を配置している。
 関塚氏は、「挨拶ができなくて何が医療の質だ!」との思いのもと、「笑顔のあいさつ日本一の病院」を掲げ、毎朝、就業開始の1時間前の7時30分から関塚氏自ら職員と患者を笑顔で迎える活動を行っている。この活動は5年が経過し、挨拶の回数は延べ100万回を超えたという。
 トップマネジメントについて、関塚氏は「部下はよく見ている」ものであり、「身をもって範を示すという気概のない指導者に、人々は決して心からは従わない」の信念で、「率先垂範・凡事徹底・徹凡非凡」を貫く。

◆「相対的無医村」解消へ保険医療村整備
 WHO(世界保健機関)では、日本は総合世界一の医療、健康長寿世界一であると評価されている。同氏も「国民皆保険、フリーアクセス、高額療養費制度など、日本の医療制度は素晴らしい」と話す一方、埼玉県は10~35年の高齢者増加率は日本一でありながら、人口あたりの医師数、勤務医数、外科医数はすべて全国最下位、看護師数全国46位、臨床研修医全国38位などとなっており、医師や病床数の不足、診療科偏在や地域偏在(南西部・秩父・利根は低い、全地区でも全国平均を上回っているところはない)が顕著である。このことから同氏は埼玉県の医療環境を「相対的無医村」と表現しており、こうした課題解決のため、さいたま保健医療村を実現し、医療の整備・不安解消を目指している。

◆これからの急性期病院の生き残り戦略
 同病院の経営戦略では、(1)包括的医療制度(DRG→DPC)への適応戦略、(2)地域医療連携の推進、(3)地域医療連携システムの開発という3つを挙げ、これからの急性期病院の生き残り戦略は「収入は患者数×単価」、「II群病院への昇格」、「救急機能の充実」(小児周産期母子センター、ER型)、「増床によるスケールメリットの活用」、「人材確保・育成(職員家族主義)専門性の確保」、「コスト削減」であるとした。集患力の強化、入患者数確保、病床利用率アップなどで収入を確保し、II群病院へ昇格することで難易度の高い手術件数が増加し、それが複雑性指数増加につながるという。

◆「患者が入らなければ収入は減る」
 (1)包括的医療制度(DRG→DPC)への適応戦略は、DPC診療の基本として、あくまでも保険診療である。病院の働き以上の収入は得られない、患者が入らなければ収入は減るという意識のもと、まず「現状の保健医療に対する病院の体制が十分か」を問う(効率的な診療を行っているか、職員全員の働きを保険診療に十二分に反映させているか、診療病名、疑い病名が網羅されているか、病院内の連携がうまくいっているか、レセプト作成、レセプトチェック体制、保険委員会の運用、査定減対策)、DPC移行期や改正前年度を院内の保険診療制再構築のチャンスとする、DPCレセプトと出来高レセプトの比較により、時にコードの妥当性がチェックできる、診療報酬の額=包括評価+出来高評価であると説明した。

◆“アナログが大事”な医療連携の実践
 (2)地域医療連携の推進では、明るい地域連携室の強化と支援とし、前方・後方を楽しくやる、外に出る連携室(各施設へのCD配達や頻回の戸別訪問、外部施設との個別カンファレンスや懇親会)、カルナ連携機能の強化、紹介・逆紹介、返書の徹底管理、MSW病棟の配置と退院支援計画書の入退院時徹底を掲げる。
 「顔の見える」医療連携の実践として“アナログが大事”と捉え、公民館や福祉センターなどでの出張市民公開講座、市民祭りや商業施設での出張健康相談をはじめ、医師会主催・共済の勉強会、学会参加などを行っているほか、第13回埼玉病院地域連携懇談会は参加者400人で盛況となった。また、年2回の感謝の懇親会において、小児1次救急支援の医師に感謝状を贈呈するなど交流を重視した活動を続けている。

◆カルナ導入で紹介率78%・逆紹介率125%超
 (3)地域医療連携システムの開発では、カルナコネクトについて説明した。カルナコネクトは地域医療連携サービスのことで、診療所にネット環境さえあれば、病院のほぼすべての診療、検査予約が可能。24時間365日いつでも即座に予約ができ、遅くとも翌日には返書が届く。紹介率、逆紹介率を同時にアップさせ、医療の質を向上させる高い実用性と採算性が実証されており、災害時においても有効利用が可能である。
 実際、同病院はカルナを導入した06年4月以降、紹介率が40%→78%に増加したほか、逆紹介率は紹介患者に加え、直接来院した患者についても地域医療機関へ紹介するため125%超となっている。逆紹介はここ数年100%を超えており、また100%を超える病院はほとんど存在しない。非常に高い紹介、逆紹介率は地域医療連携における双方向性の信頼の証しである。

◆iPadで検査、診療予約、読影結果レポート参照
 また、iPadからでも予約や読影が可能で、同病院では12年10月に導入した。同病院と連携している医療施設はもとより、今後連携する医療施設においても検査、診療の予約、読影結果レポートの参照がiPadからできる。これを使用することで、受付などに配置していた予約用PCの設置場所を削減、持ち運びが容易なので、待合室などで患者と相談しながら予約日の決定などのシーンでの利用が可能となる。これにより、診療所はまるでバーチャルホスピタルになるという。「地域との医療連携ネットワークを利用することで、どこからでも病院と同等の診療が実現し、さらに限られた医療資源の効率的な利用を可能にする」と説明した。
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