日系EMS(電子機器の受託製造サービス)企業でトップグループの旧スミトロニクス(STX)は、2025年10月1日付で日本社名(和文名のみ)を住商グローバルエレクトロニクス(株)(東京都千代田区)と改め、再スタートを切った。足元のEMS事業は全般的に堅調に推移するものの、車載や産業機器市場などは依然として厳しい受注環境にある。25年度下期の事業展望や新社名に込めた狙いなどを植木紀有社長に聞いた。
―― 足元の事業環境ならびに25年度下期見通しは。
植木 全般的には堅調だが、地域やアプリケーションによって濃淡がある。中国の日系車載・産機市場や不動産関連の市況が厳しいが、25年度通期売上高では前年度比横ばいの約2200億円にとどまる見込みだ。
―― 米国政権の関税政策の影響は。
植木 25年夏の日米関税交渉で一律15%が課せられることになったが、従来の全くの不透明な状況からは改善された。メキシコ拠点を活用できる可能性もあり、問い合わせが増えている。当社も各地に生産拠点を持っているため、顧客ニーズに合わせた供給体制を敷く。
―― 今回の社名変更の狙いは。
植木 住友商事グループの一員であることをより明確にして、グループ全体のリソースをフル活用したい。もともとEMS事業を中心に展開してきたが、それにとらわれることなく、エレクトロニクス分野全般における高付加価値サービスの提供を目指していきたい。祖業である部品調達などのIPOをさらに強化し、電子部品などの一括供給体制サービスも拡大する。
また昨今、人材の採用環境が厳しくなってきているが、「住商」の冠名を拝することで採用に好影響を期待している。
なお、EMS業界内では長らく「スミトロニクス」の名前が認知されているので、略称やブランド名として引き続き使用する。英語表記も従来どおり活用する。
―― 中期経営計画の進捗はいかがですか。
植木 今期で折り返し時点の2年目となるが計画に大きな変更はない。当社の強みの1つであるグローバル拠点を活用した高付加価値の製品供給網の拡充をさらに進める。一部、設計からの受託事業が動き出しており、VA/VE提案力、少量多品種やアフターサービスの拡充をさらに強化中だ。すべての顧客においてシェアNo.1を目標とし、「スミトロニクスに任せておけばあらゆる面で安心」といってもらえる存在を目指していく姿勢に変更はない。
―― 現在の生産拠点の状況や今後の投資の考え方を教えて下さい。
植木 中国をはじめインドネシアやタイ、ベトナム、メキシコなどで展開している自社工場の拠点網の整備は一段落したので、今後はマイナー出資の拠点工場の拡充ならびに協力工場の再整備にも取り組んでいく。
特にインドでは様々な可能性を視野に入れており、市場調査を行っているところだ。26年度の早い時期に拠点を設立したい。場合によっては米国にも新拠点を検討する。世界での最適生産を常に模索し、顧客需要に柔軟に対応したい。なお、カンボジア工場は6月にタイ拠点へ集約した。従来以上にM&Aにも積極的に取り組みたい。
―― 住友商事との相乗効果・連携について。
植木 引き続き、住商の情報力や人材・拠点インフラを活用していく。インドのテックマヒンドラと住商の設計合弁企業のSCTMエンジニアリングとはすでに協業している。欧州ではハンガリーを中心に、住商グループと連携して車載分野を中心にEMS事業を手がけている。住商グループ内には様々な事業会社があり、ケミカル部門なども含め横連携を強化する。また住商が出資している、インクジェット技術による低環境負荷で基板製造を行っているエレファンテックとも連携している。
―― スマートファクトリー化に向けた取り組みは。
植木 すでに当社は、自社で開発した生産管理システムを全工場で導入を進めている。情報の見える化を進め、生産効率やトレーサビリティーの向上を常に図っている。人手不足や生産歩留まりの安定化にはこの取り組みは必須で、DXを活用してさらなる生産システムの高度化を進めていく。
(聞き手・特別編集委員 野村和広)
本紙2025年10月23日号6面 掲載