電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第642回

ミネベアパワーデバイス(株) 代表取締役 取締役社長 鈴木雅彦氏


事業統合で生産体制を強化
原町で電源向けの新ライン

2025/9/5

ミネベアパワーデバイス(株) 代表取締役 取締役社長 鈴木雅彦氏
 ミネベアミツミグループが掲げる事業戦略「8本槍戦略」の中で、2本目の槍に据えられたアナログ半導体事業は、2028年度(29年3月期)に売上高2000億円、営業利益率30%の達成を目標に掲げる。それを担うのは、グループ内で半導体事業を手がけるミツミ、エイブリック、そして24年5月に事業統合したミネベアパワーデバイス(株)だ。代表取締役 取締役社長の鈴木雅彦氏に、事業状況や戦略などを伺った。

―― 事業統合から約1年が経過しました。
 鈴木 事業統合は当社にとって大きなプラスとなった。グループ内にミツミとエイブリックがあることが非常に心強い。既存工場の投資にも着手し、これまで外部委託していた製造工程の一部を、千歳事業所(北海道、ミツミ)や高塚事業所(千葉県、エイブリック)に移管する動きを進めている。製品によっては100%グループ内で対応できるようになった。2社との情報交換により、生産面や技術面での相乗効果も生まれている。また、工場運営の面でも新たな発見があった。例えば、千歳や高塚では実施されていた効率的な運営方法が臨海工場(茨城県)では未導入で、このノウハウを展開することで経費削減にもつなげることができた。このほか、人員も技術者を中心にあらゆる部署での採用を始めている。

―― 足元までの事業状況をお願いします。
 鈴木 24年度の売上高は計画値の2桁%の増収となり、好調に推移した。利益率も以前の1桁%から、2桁%まで拡大している。エアコン向け高圧ICの需要が高かったことや、一部製品で既存顧客の大きな契約を獲得できたことが寄与した。24年度が大幅に伸長したこと、大口の契約が25年後半には終了することなどで、25年度の売上高は前年度比微増の計画である。
 エアコン向けは引き続き堅調に推移しており、EV向けの新製品も年度末までに立ち上げていく。

―― 事業別の進捗を。
 鈴木 当社の事業は①IGBT・SiC、②高圧IC、③ダイオードの3分野だ。それぞれが売上高に占める割合は3分の1で、今後は①と②を中心に拡大する見通しだ。①では、主にインドの鉄道向けIGBTで想定以上の引き合いがあり、生産が追い付かない状況だ。特にモジュール工程が逼迫しており、25~26年度は山梨工場(山梨県)を増強して対応するが、27年度以降は海外拠点での投資が必要になると考えている。
 SiCはメーンの鉄道向けが安定しているほか、次世代製品として、グループ内の電源事業部とともに高効率のチャージャー用ハイパワー電源の開発を進めており、そこにSiCを提供している。相合活動(グループのあらゆるリソースを掛け合わせ、新たな価値を創造すること)の一環で、26年度に臨海工場で量産を開始する。

―― SiCは低価格な中国製品の攻勢が強いと聞きます。影響などは。
 鈴木 当社のターゲットであるハイパワー分野への参入は難しいと認識しているが、将来的には電源用途で攻勢をかけてくる可能性は高い。これに対し、当社は容易に追随できないほど低いオン抵抗製品を開発中であり、電源事業部との相合活動を通じて成果の創出を図っている。

―― ②については。
 鈴木 現在はハイパワー向けの開発を進めており、27年に量産を開始する。このうち、コンプレッサー向けは既存製品よりもチップ数を削減したコストパフォーマンスの高いものを、ファンなどの補機モーター向けは1チップでお客様の使い勝手を改善したものを開発中だ。まずは、24年度からお客様と開発を進めているエアコン向けで採用され、その後は白物家電向けに広く展開する計画だ。
 また、②の高圧ICは中国顧客のグローバル製品向けで採用されているため、中国国内の補助金政策による生産数量のアップダウンの影響が限定的で、関税対策で中国企業が世界各地に工場を整備していることも、追い風となっている。
 ②では、前工程についてはファンドリーから臨海、千歳、高塚の自社拠点の切り替えを進めている。現状、開発品はファンドリーとOSATを活用しているが、量産はグループ内の工場を積極的に活用していく。

―― ③については。
 鈴木 ガソリン車向けのダイオードがメーンだが、市場が縮小傾向にあるため、次世代製品を開発してサンプル出荷を始めたところだ。自動車向けで培った技術を電源向けにも応用展開し、ブリッジダイオードの電力ロスを低減する技術を家電分野にも展開する。既存のエアコンに搭載されているブリッジダイオードと全く同じパッケージにしたため、お客様は入れ替えるだけで電源効率を1ポイント向上できる。
 これは、27年度の省エネ規制に向けてさらなる高効率化を達成する必要のあるお客様から関心が高く、引き合いが急増している。このため当初の計画を1年ほど前倒しして、26年上期には原町工場(福島県)に1ラインを整備し、26年下期には量産できるように急ピッチで準備を進めている。



(聞き手・澤登美英子記者)
本紙2025年9月4日号1面 掲載

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