2050年カーボンニュートラル達成に向けて、「40年に先進国全体でのEV(電気自動車)、FCV(燃料電池自動車)販売比率100%を目指す」と日系自動車メーカーの先陣を切って宣言した本田技研工業(株)(ホンダ)。FCVでは02年に日米同時発売で「FCX」を世界初投入して以来、常に最先行で業界をリードし続けている。24年春にはSUVタイプの新型FCV「CR-V e:FCEV」を北米で上市。日本でも24年夏に発売を予定する。GM(ゼネラルモーターズ)との共同開発では総開発責任者を務めるなど、FCVに精通する(株)本田技術研究所(栃木県芳賀町)で、先進パワーユニット・エネルギー研究所水素パワーユニット開発室 第1ブロック チーフエンジニアの上野臺浅雄氏に、電子デバイス関連などを含めて幅広くお聞きした。
―― 「CR-V e:FCEV」ではCR-Vのエンジンマウントをそのまま活用できるそうですね。
上野臺 そのとおりである。CR-Vの工場ラインをそのまま使用し、CR-Vファミリーの中のパワートレインが違うという存在にすることを狙った。その際、前FCVモデルのCLARITY FUEL CELLでは、ドライブユニットと燃料電池(FC)が別体で搭載され、工程が増えていた。製造コストを下げる狙いもあり、ドライブユニット(eAxle)を調達し、そのまま搭載したかったが、高さ的に入らなかった。そこで大手ティア1サプライヤーのeAxleを調達してPDU一体モーター(インバーターとモーター)部分のみ使用し、ギアボックスは別の専業メーカーに製造委託した平行2軸のギアボックスに入れ替える工夫を行った。
ただし、次の課題はFCVがICEよりも若干重いため、衝突時の安全性確保が技術的ハードルだった。車1台分の衝突シミュレーションをあらゆる角度から検証し尽くして克服した。
―― 半導体について。
上野臺 FCVでは特にFCユニット、PDU一体モーターに半導体が寄与している。例えば、FC昇圧用の昇圧機には08年当時からSiCチップを使っている。FCパワートレインの高効率の維持、そしてFCでは出力を得るために大電流を流すことにより電流損失も大きくなる。その点でも現状ではSiCが最適解である。今後、SiCを上回る次世代パワーデバイスが出てくれば、先取りして使っていく可能性もあり得る。FCV、パワートレインにとって効率向上は至上命題であり、継続して取り組んでいく。将来的にはFCシステムユニットを車に限らず、幅広いアプリケーションに外販することも検討していく。
―― デバイス関連でも自社開発が多いですか。
上野臺 最近の技術進化は目覚ましく、現状では例えば中国サプライヤーのモーター効率も日米欧製と大差がなくなってきた。今後はコスト競争力を持つために、駆動用モーターなど調達可能なパーツは自社開発よりも外部調達の流れに向かう一方、自動運転をいかに早く実現するかという方向性が自動車メーカーの差別化要素になっていく可能性がある。
―― 技術面の改善は。
上野臺 モーターのノイズと振動(NV関係)対策に関して、今回は重いFCとの一体化によるマス効果とマウントの防振ゴムを介するという2段階経由の手法で克服した。また、エアコンのコンプレッサーをオンにするとコンプレッサー自体の振動がフロアに伝わる課題。これもFCとドライブモーター一体化部分に抱き合わせて克服。同様にFCに空気を送るコンプレッサーもギアボックス側に抱き合わせてエアーポンプの音を解消できた。今後は、水素タンクの小型・大容量化を進化させる必要がある。
―― 生産拠点は。
上野臺 FCシステムはGMとのJVであるFCSM(米ミシガン州)、車両全体のアセンブリーはPMC(米オハイオ州)で担う。基本的にCR-Vと同一ラインを活用する基本コンセプトだが、水素タンクが同一ラインに載せられないなど、割と手作業も多いため、完全自動化生産は難しい。
―― 今後の展望を。
上野臺 FCVの普及には水素燃料が必要不可欠であり、現状では日本、北米、ドイツ、インド、中国などの水素燃料供給体制が整った国や、ゼロエミッション化方針などレギュレーションある国へまずは積極拡販していく。FCVはBEVと性能の大差がなくわずか3~5分で満充填可能など利便性が高い。水素インフラが整ったエリアではBEVよりも選ばれる自信がある。次世代FCVでは本格普及を見据え、CR-V e:FCEVに対し、コスト半分以下、耐久性2倍以上を目指し、FCVでのエンドユーザーの喜びをさらに高めていく。
(聞き手・高澤里美記者)
本紙2024年6月27日号1面 掲載