電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第562回

能登半島地震は電子デバイス産業の工場にも震度6~7の大揺れもたらす!


自然災害リスクを乗り越えるのは、団結する「絆」の底力

2024/1/12

 波乱の年明けとなってしまったが、元日の能登半島地震で被災された方には、心よりお見舞い申し上げたい。大雪の降る北陸エリアに、何と1月1日にとんでもない天災が来るとは夢にも思わないことなのである。

 筆者は地震で大揺れしたその時には、横浜の伊勢佐木町にいたのだ。不謹慎きわまりないことをしていた。「残酷な天使のテーゼ」を歌いながら、パチンコの「シン・エヴァンゲリオン」を夢中になって打っていたのである。かなりの長さにわたって揺れ続けたために、これは東日本大震災級の地震かと思い、慌てて外に飛び出した。

 もちろん、客のほとんどがいなくなった。「こんなところで、被災したら恥ずかしいよね。」とお互いに話し合っていたのである。自分は有隣堂などで本を買いに行く、と言って家を出ただけにパチンコがばれたら、家人にとことん軽蔑されるのは必定なのだ。その後店に戻ったものの、テンションは上がらずボロ負けしたのである。

加賀東芝も地震発生直後に操業を停止
加賀東芝も地震発生直後に操業を停止
 それはともかく、能登半島地震は電子デバイス業界にも波紋をもたらした。東芝デバイス&ストレージの半導体量産拠点の加賀東芝エレクトロニクスは石川県能美市にあり、パワー半導体の有力メーカーであるサンケン電気は、子会社の石川サンケンが3カ所の後工程工場を持っており、電子部品大手の村田製作所も石川県下に6カ所の拠点があるのだ。

 これらの工場はすべて震度7の大揺れに見舞われた。新潟県下は震度6弱であったが、小千谷のJSファンダリ新潟工場、アルプスアルパインの長岡の拠点2カ所、新光電気工業の拠点2カ所、その他新潟電子工業、内藤電誠工業、新潟精密なども肝を冷やしたことであろう。

 富山や福井でも震度5強の揺れがあった。富山では、砺波と魚津のタワーパートナーズセミコンダクター、高槻電器工業の富山工場、富士電機パワーセミコンダクタの北陸工場、北陸電気工業、村田製作所の富山、氷見などが被災した。福井では同じく村田製作所の武生、宮崎、金津、鯖江、福井の5か所が被災したのである。

 こうした地震災害で思い起こされるのは何と言っても、東日本大震災である。忘れてはならない2011年3月11日。マグニチュード9.0という国内観測史上最大の巨大地震であったが、この時直接的な被害を受けて、操業を停止した国内の半導体工場は27カ所であった。なかでも、ルネサス那珂工場は最大被害となり、車載マイコンの分野で世界トップシェアを持つだけに、この代替生産はほとんど無理であった。さらに岩手東芝エレクトロニクス、ソニー、信越、SUMCO、東京エレクトロン、キヤノンなどにも被害をもたらした。

 しかして、ここでニッポン半導体産業の底力がものを言うことになる。すさまじい勢いで業界をあげての取り組みが開始され、わずか数ヶ月で多くの生産工場が震災前のレベルまで復旧を成し遂げてしまうというミラクル劇が起きることになる。このニッポンの団結力が、世界の人たちを驚かせた。このころ使われたキーワードは、被災者だけでなく、日本国中の人たちが復旧に向けてつながる「絆」という言葉であったのだ。

 今回の能登半島地震は、サプライチェーンまで寸断するということまでには至らなかった。それでも、日本列島は地震がどこで起きても仕方がないという自然災害リスクに常に晒されていることを、再考させることにはなった。火山列島でもあり、温泉王国でもあり、地熱発電をやれば世界第2位とまで言われるが、諸外国からの企業進出が相次ぐだけに、地震を含めての災害対策がどうしても重要になってくるのだ。

 それでも、熊本地震の大災害がありながらも、台湾の半導体大手のTSMCは熊本を新工場の地に選んだのだ。それは地震災害を乗り越える日本人のスピリッツを評価してのことであろう。

 そしてまた、1月2日に起きた羽田空港での衝突事故で乗客、乗務員を含めて全員が助かるという日本人の底力をまたも世界に見せつけたのだ。このことの意味は大きいと、またもやエヴァンゲリオンのパチンコを打ちながら、沈思熟考する泉谷クンではありました。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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