3月に開業した「東京ミッドタウン八重洲」の商業エリアが賑わっている。話題の「ヤエスパブリック」のほかにも、様々な地域の魅力を体現した店舗があり、東京駅前の新たなスポットとなった。また、六本木や日比谷の東京ミッドタウンの商業エリアは2019年度と同水準まで業績が回復したという。東京ミッドタウンマネジメント(株)代表取締役社長の藤井拓也氏に施設の動向などを聞いた。
―― 各施設の状況は。
藤井 22年秋から業績の回復が顕著に進み、六本木、日比谷ともに23年度上期はコロナ前の19年度上期とほぼ同水準となった。六本木はもともと近隣住民の方に頻繁に利用していただいており、コロナ禍でも落ち込みは限定的だった。22年秋以降は落ち込んだ分もしっかり回復してきた。最近では飲食全般がかなり好調で、インバウンドが戻ってきてから特に伸びている印象だ。ザ・リッツ・カールトン東京も好調だと聞いており、六本木は高価格帯のテナントは総じて好調だ。
―― 日比谷はいかがでしょう。
藤井 日比谷も来街者数、売り上げともに戻っている。日比谷は古くから劇場街として栄えており、現在でも多くの観客が訪れる。東京ミッドタウン日比谷内にも映画館があり、また近くには日比谷公園もあることから、そうした場所との回遊性が一つの特徴。コロナ禍が収束し、回遊性が復活するとともに、湾岸エリアをはじめとする周辺居住エリアにお住まいの住民の方にも再びご利用していただいている。
―― 各施設ともイベントが特徴的です。
藤井 六本木は広大な緑地、日比谷は映画・演劇の街、八重洲は日本を代表する交通拠点の東京駅前としてそれぞれ街の個性が濃く、こうした街の個性を生かしたイベントを実施している。六本木では11月16日に毎年恒例のイルミネーションを開始した。期間限定のアイスリンクも同時に開始し、都心の真ん中にありながら広い敷地を持つ特性を生かしている。日比谷では東京国際映画祭と連動した映画の野外上映など日比谷ならではのイベントを開催している。
―― 新たに開業した八重洲について。施設のコンセプトは。
藤井 商業を含めて、施設全体で「ジャパン・プレゼンテーション・フィールド」のコンセプトのもと、日本の良さを体現している。商業もこのコンセプトに呼応するように日本のクラフトマンシップを意識し、西陣織の老舗による「HOSOO TOKYO」、吉田カバンの直営店「PORTER」などを誘致した。
―― ヤエスパブリックが話題です。
藤井 八重洲にたまり場、くつろげる空間が少ないことから、ビジネスパーソンも観光客も移動の合間などに使えるような場所をつくった。フードコートでもカフェでもない新しいパブリックスペースとして企画した。カフェのような空間に加え、もともと八重洲はちょい飲みができるような居酒屋が多く、こうした八重洲らしさを表現した路地裏のようなエリアや、立ち飲みができるエリアもある。
―― ヤエスパブリックの客層は。
藤井 客層も八重洲らしく幅広い。平日はビル内や周辺のワーカーが休憩や仕事に使うシーンが目立ち、夜は立ち飲みが非常に人気となっている。一部エリアはモバイルオーダーに対応し、各店の商品をまとめて注文できるのも特徴だ。土日は地下のバスターミナル利用者、新幹線に乗る方など観光客も多い。
―― 八重洲もイベントに注力されるようです。
藤井 複数のイベントスペースがあるので、東京駅前という立地を活かして地方の価値や日本の産業・伝統文化を発信するようなイベントを行っていきたい。10月には「YAESU×GOURMET CARAVAN(八重洲グルメキャラバン)」という全国の有名飲食店などが集積した食のイベントを開催しており、相当な賑わいだった。
―― 八重洲地区を商業エリアとしてどう見ますか。
藤井 近接する日本橋地区、京橋地区とともに一つのエリアになり、面として発展していくことになる。もともと周辺は地下街や駅の商業施設が発展しているが、東京ミッドタウン八重洲の両隣でも大型再開発が進む。さらに日本橋や京橋でも大型再開発が進んでおり、各ビルの足元を中心にさらに商業集積が進むだろう。将来的に京橋駅と東京駅、さらには日本橋駅とも地下でつながり回遊性が向上するので、広大な歩行者ネットワークが形成される。
――改めて東京ミッドタウンブランドとは。
藤井 三井不動産グループが展開する都心部における大規模ミクストユース型街づくりのブランドである。ただし、六本木、日比谷、八重洲は街の特性がまったく異なるので施設の特徴も大きく異なる。そうした中でも「JAPAN VALUE」という大きなコンセプトのもとで、「DIVERSITY」「HOSPITALITY」「CREATIVITY」「SUSTAINABILITY」を共通価値として提供している。この価値の下で、街の特性を意識した運営・施設づくりをしている。
商業は街の顔として多くの人の目に触れる部分であり、街のバリューをさらに高めるような施設運営を進めていきたい。
(聞き手・編集長 高橋直也)
商業施設新聞2524号(2023年12月5日)(1面)
デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.425