『医療産業情報』を発行する(株)産業タイムズ社の姉妹紙『半導体産業新聞』では、日本電子回路工業会主催の「JPCA Show 2014」(6月4~6日、東京ビッグサイト)で、講演と企業展示で構成するイベント「次世代アプリ開発支援技術展~夢をカタチに~」を併催した。6月4日の講演テーマ「IoT(Internet of Thing)=モノのインターネット」では、ドコモ・ヘルスケア(株)代表取締役社長の竹林一氏が講演「『モバイルヘルスが創る未来』~からだと社会を繋ぐ」を行った。ここではその内容を3回にわたって紹介する。
「パーソナルヘルスケア」がいわれて久しいが、竹林氏は、医療機器、ヘルスチェック機器大手のオムロン・ヘルスケア(株)の執行役員当時から、個人のバイタルデータの遠隔管理・監視ビジネスの具体化に取り組んできた。同氏の講演は、膨大な資料を活用し、時に人間味に溢れ、上質な日常感覚のユーモアを交えながら、ヘルスケア、メディカルサービス事業の難しさ、その中から築き上げてきた最先端のヘルスケア/メディカルサービスの詳細について解説。また、バイタルデータが集まり、クラウド化することで見えてきた今後の健康社会への誘導策、モノづくりから、モノにサービスをセットしたビジネス、これからのビジネスのあり方にまで及び、非常に有意義なものとなった。
竹林氏は、オムロン(旧立石電機)入社後、ソフトウェアエンジニア、システムエンジニア、プロジェクトマネージャー、新規事業&構造改革、企業経営(ソフトウェア会社代表、EMS会社代表)を経て、12年7月、(株)NTTドコモとオムロン ヘルスケア(株)が出資設立したドコモ・ヘルスケア(株)の代表取締役社長に就任した。
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◆高齢社会を「いかに健康にしていくか」
日本の人口減少と高齢化が加速し、東京オリンピックが開催される2020年には、高齢化率が30%に達するという、世界中に類を見ない高齢化の国となり、高血圧や糖尿病の患者が増える。竹林氏は、「それをいかに、いろんな技術をもってして健康にしていくか」が課題であるとして、講演を開始した。
◆予防領域を進行させない機器が伸長する
疾病相関図「生活習慣病の進行と必要な計測機器」を用いながら、疾病と機器の相関について解説した。
最初(健康時)は運動と睡眠と摂食の一環で、運動量を図るような歩数計や、食事の結果としての体重測定、睡眠計も登場してきた。徐々に1次予防領域に進むと、肥満になるなどして体重、体脂肪率を計る機器や、体力低下(筋量、持久力)の測定機器が登場。血圧調整低下・自律神経活動低下(血圧変動)、喫煙等による肺機能低下が起こる。2次3次予防領域では、内臓の脂肪計、血糖値測定、血圧計が必須となる。さらに、呼吸器不全COPD、糖尿病、高脂血症、高血圧症、合併症、CKD、透析、動脈硬化、PADなどの疾患が現れる。介護・在宅医療領域では、介護の血圧、活動、動体監視、床ずれ、リハビリ機器、在宅医療の血圧、心電、呼吸、SPO2に関連する様々な機器が必要となってくる。
竹林氏は、「今後は、次のステップ(予防領域)へ行かないところの機器が伸びていくと思う。いろんな機器が出てきます。このあたりが、新しい半導体の技術を活用し、より小さくなったり、今まで測定できなかったもの(バイタルデータ)が測れるようになったりする」と予測する。
◆体重計・血圧計が普及しても健康な人は減少
竹林氏は、「加えて、じゃあ、機器が見られると、みんな健康になれるか。たぶん、世界中で、一番体重計を持っているのが日本です。血圧計もそう。血圧計を使ってない国もあるし、体重計もそうです。体重計買うよりも先に食べるものを買わなければいけない国もある。体重計、血圧計が売れたら、たくさん売ってたら、みんな、体重が下がるのかというと、そうじゃない。『オムロンの体重計に乗ってたら勝手に体重が下がります』、『オムロンの血圧計で測ってたら勝手に血圧がだんだん下がっていきます』というのなら売れますよね。これだけいっぱいの(測定機器)が出てても、健康な方というのは減っていっているんです。要は、ハードウエアは進化していくんですけども、ニーズというのはいっぱい増えてきて、ハードウエアの進化だけでなく、ニーズを捉えた中でですね、新しいサービスとか価値を創っていく必要があると思っています」と問題を提起する。
◆クラウドが多様なニーズに対応
それぞれの年齢によって、「健康を楽しみたい」、「より健康でいたい」、「疾病を早期に治したい」、「いつまでも健康でいたい」、「いつも医師とつながっていたい」、「緊急の安心が欲しい」、「見守っていて欲しい」といった多様なニーズが存在する。
同氏は「データだけは、多くの方々のデータだけはきっちり預かって、どういうニーズにもお応えできるようなサービスが今後出てくると思う。つまり、クラウドとかビッグデータというものです」という。
さらに、「このシステムやインフラのコストが下がってきた。センサーというのは、より安く、いろんな人がセンサーで測ることができ、スマートフォンはより安くなって、通信でデータを送れる。クラウドの中で新しいことが起こり始めている」と続ける。
◆コスト競争はしんどい、サービスとセットで
よく、日本がいろんな製品、歩数計とか、体重計を作る時、QCDを考えるが、「QCDだけで勝負しているとこれしんどいですね。クオリティ(Q)は当たり前、デザイン(D)はいいほうがええ。真ん中のコスト(C)ですね。コストは安いほうがええ。同じものが出てきたら価格競争になって、コストが落ちていく。健康機器も一緒ですね。単純なハードウエアとしてのQCDだけじゃなくて、ここにサービスとかソリューションというのが重要となってきます」と、「QCD×S」の図式を示して強調する。
そして、「たぶん、これ(×S)が健康におけるソリューション事業であったり、健康サービスであったりで、よく言われるのが、この部分(×S)です。コストも重要で、サービスも重要です。顧客満足度=CS(カスタマーサティスファクション)って、実はコストとサービスからなっているんですね。これを、日本で、メーカーに流行らそうと思っていて、QCDだけで勝負すると『もっと安うせい』となるが、それに、ソリューションとかサービスとか、ストーリーを立てると、『セットでいくらや』ということになってくるんで、その世界で新しいものが生まれていくだろう」と、わかりやすい表現で解説する。
◆「健康機器・サービスはなかなか難しい」
この、「C×S」の掛け算がつくる仕組みとして、かつて、ドコモが作ったサービスである「iモード」や、「おサイフケータイ」を挙げた。「携帯電話機がいくら安いとかじゃなくて、サービスを作ってきた。これとハードウエアがセットになって、新しいビジネスを作ってきた。これを最大化させるというのが日本のビジネスに必要と思っています。それと、皆さん、『これから健康サービスや』、『健康機器は売れるやろ』と思っておみえですね。『なんかビジネスチャンスがあるはずや』と。これね、なかなか難しいんですね」と続ける。