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(株)舞浜倶楽部 代表取締役社長兼(社)老人病研究会理事 グスタフ・ストランデル氏


スウェーデン式認知症ケアを講演

2014/5/20

ストランデル氏と聴衆
ストランデル氏と聴衆
 (社)日本介護ベンチャー協会主催の定例会が3月27日に開催され、(株)舞浜倶楽部代表取締役社長兼(社)老人病研究会理事のグスタフ・ストランデル氏が、スウェーデンの高齢者福祉に対する社会・理念の変化や、実際に舞浜倶楽部で行っているスウェーデン式認知症ケアおよび緩和ケアのノウハウなどについて、実例を交えて講演した。
 ストランデル氏は高齢者福祉をテーマに、スウェーデンと日本で調査・研究を行い、現在は両国の福祉の架け橋として多彩な活動を続けている。NPO法人日本スウェーデン社会サービス研究センター理事、Swedish Quality Care AB顧問、川崎福祉産業振興ビジョン検討委員会委員、富山大学非常勤講師などを歴任。これまでに日本全国で行った講演活動は200回以上、受講者は3万5000人を超える。

◆90年代に「認知症は恥ではない」理念が普及
 同氏は講演の冒頭で、母国であるスウェーデンの高齢者福祉に対する社会・理念の変化について解説した。スウェーデンでは、19世紀末からの出生率の低下によって、1930年代に人口危機に陥っていたことを受け、少子化対策として女性が働きやすい環境を整備したほか、60年代からは重度の知的障害者でも、サービス業など様々な形態で納税者とする取り組みが行われてきた。また、70年代には国会の親子法を改正し、子どもへのあらゆる形態の体罰、またはその他の精神的虐待に当たる扱いを禁止するなど、一般的に社会的弱者とされる人々のQOLは大きく向上した。
 しかし、福祉先進国と言われるスウェーデンでも、高齢者福祉は近年まで上記の社会的弱者と比較して環境が整備されておらず、60年代ごろまでは、認知症の高齢者は認知症施設に収容され、徘徊などができないようベッドに拘束される光景が当たり前だったという。そのため、認知症患者は寝たきりとなり、褥瘡を起こしていた。
 90年代ごろから、認知症を恥や迷惑だと思わなくていい、徘徊してもいい地域社会という理念が生まれ、その理念を政治家などのリーダーがマスメディアなどを介して国中に普及させたため、一気に浸透。これにより、理念にそぐわない施設はマスメディアなどにより、スキャンダルの対象とされるようになった。

◆理念の違いがQOL向上を阻害
 同氏は、スウェーデンが高齢者福祉に関する社会や理念の変化により、福祉先進国となったものの、理念の相違からいまだに認知症施設の建設予定地において、建設反対運動が起きていることも指摘。また、日本でも、日本が欧米諸国に比べて風呂の文化が発達しているにもかかわらず、風呂にあまり入らない習慣のスウェーデンに、わざわざ入浴設備を発注するなど、理念の相違、思い込みが高齢者福祉のQOL向上の妨げとなっている事例を挙げた。

◆スウェーデンは高負担高福祉
 講演の中では、社会福祉に関するスウェーデンと日本の基本条件の違いについても言及した。スウェーデンは標準消費税25%と重税だが、18歳までは医療費が無料、小学校~大学院までの教育費は国が負担するなど、教育や福祉などへの還元が厚いことが特徴。また、福祉関連の資格を取得する際には、国の負担で社会人向けの夜間学校や福祉専門高校などに通うことができる。同氏はスウェーデンの社会福祉について「世界的にも重税だが、それ以上に手厚い福祉や教育を受けることができるため、多くの国民は国に税金を預けているという概念を持っている」としている。
 一方、日本では福祉関連の資格を取得する際には、国の負担ではなく自己負担で学校や講習に通わなくてはならない。また、近年は一部の運動の結果、介護職員の処遇や労働環境の改善が進み、介護職の地位は決して低くはなくなったが、以前は、少子・超高齢化社会に突入し、介護・医療は国の重点成長産業に位置づけられたにもかかわらず、給料の低さや長時間労働などで地位が低かった。

◆「自宅でない在宅」を確立
 スウェーデンでは、高齢者福祉の理念の変化に伴い、85年以降の認知症施設では、従来型からユニット型が主流となった。従来型は4人部屋など多床室が中心だったが、ユニット型では基本的に個室を完備し、食事やキッチン、リネンなどのスペースは10人前後の利用者との共用としている。利用者のプライバシーが確保できることはもちろん、共用スペースでは家族のように利用者同士が交流できることから、同氏は「生活空間をそのまま持ってきた」とユニット型が自宅でない在宅を実現していることを述べていた。
 なお、日本では90年代から喧伝され始め、02年には厚生労働省が新設する認知症施設にはユニット型の設置を基本とすることを制度化したことで主流となり、現在に至っている。

◆音楽療法のブンネ法が認知症予防に効果的
 続いて、舞浜倶楽部で行っているスウェーデン式ケアのノウハウを紹介した。舞浜倶楽部ではレクリエーションの1つとして週3回、スウィングギターやミニ・ベース、単音フルートなどを用いた「ブンネ法」という音楽活動を行っている。ブンネ法は、スウェーデン音楽療法の第一人者であるステン・ブンネ氏が開発した音楽療法。日本では09年に高齢者施設などで普及が始まった。障害者や高齢者、子どもなどに通常の楽器を用いた演奏は難しいが、ブンネ法におけるスウィングギターなどの楽器は、誰もが演奏を楽しめるデザインとなっている。
 ブンネ法は、認知症高齢者において、基本的な運動能力や記憶力の保持・向上、アイデンティティーや生きがいの確立、孤立の防止など認知症予防にも効果を発揮する。また、今まで音楽活動に関心がありながら楽器の演奏ができなかった施設の職員なども、スウィングギターなどを用いて演奏に参加することで、利用者との関係の緊密化も見込めるという。

◆タクティールケアを積極的に導入すべき
 スウェーデン式の緩和ケアの手法として、「タクティールケア」も導入している。タクティールケアはスウェーデン発祥のタッチケアで、心地よさや安心感、痛みの軽減などをもたらす。認知症高齢者にタクティールケアを継続的に行うと、自分自身の身体の認識や自己意識の向上、身体的・精神的な症状を和らげることもあるという。また、利用者と施術者がともに時間を過ごすことによる信頼性、親密性の高まりも期待できる。ストランデル氏は、認知症高齢者の緩和ケアにおいて「日本全国の認知症高齢者グループホームの研修において、当然のように行われるべき緩和ケアだ」と、タクティールケアの必要性を強調した。

◆緩和ケアの四本柱でQOLは守れる
 緩和ケアに関して、舞浜倶楽部では(1)症状のコントロール、(2)チームワーク、(3)家族支援、(4)コミュニケーションと関係の四本柱で積極的に取り組んでいる。具体的には、利用者のSさんには職員のNさんを対応させるコンタクトパーソン制を採用し、時に家族の支援も仰ぎつつ、緊密なコミュニケーションを図っていくことで、症状をコントロールしていく。同氏は「この四本柱がしっかりできていれば、利用者の多くのQOLは守れる」と述べている。

◆生存的側面を見出し、自立生活可能にまで回復
 上記の緩和ケアの四本柱に関連して、生存的側面が認知症高齢者の介護において欠くことができない側面であることも強調した。自分は社会的に役割があるのか、今日は自分にとって意味のある一日だったのかなど、人間であれば必ず考える生存的側面がなくなってしまうと、身体的、精神的、社会的側面までもなくなってしまう。同氏は実例として、家族トラブルで生存的側面を失い、その影響から自分で食事、排泄、歩行などができなくなった過去の利用者を挙げた。その利用者はある日、孫の花嫁姿を見るまでは長生きするという生存的側面を見出し、自分で食事、排泄、歩行などができるまで回復したという。

◆日本介護業界には維新が必要
 同氏は講演の最後に、今日の日本の介護業界を変革するには、リーダーが立ち上がり、それをマスメディアなどが後押しし、明治維新の時のような勢いのある維新とする必要がある。また、維新を成し遂げるため、場合によってはスキャンダルも必要となると述べていた。
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