医療産業情報
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経済産業省商務情報政策局 ヘルスケア産業課 企画調整係長 藤岡雅美氏(下)


「健康産業の創出・医療の国際展開」を講演

2014/4/15

藤岡雅美氏
藤岡雅美氏
 JPI(日本計画研究所)主催の特別セミナーで行われた、経済産業省の藤岡雅美氏による講演「消費税8%決定、プログラム法案提出等新たなステージに入った健康サービス事業の創出・医療の国際展開等新年の重点施策~インセンティブ構造の設計、制度的課題の解消、拠点化の推進等々~」を紹介する後編(前編は本紙3月14日付2022号に掲載)は、「2.健康産業の創出に向けた取組み」の(1)グレーゾーンの解消の個別事例、(2)第三者認証を活用した品質評価、(3)企業による事業者への健康投資の拡大、そして、「3.医療機器・サービスの国際展開」について伝える。

◇   ◇   ◇

◆健康サービスとグレーゾーンの実情
 運動指導は、心臓病の予防や再発防止を目的に、主治医などと連携して発行される運動処方箋に基づき、リズム&チューブ体操や有酸素運動など、安全で廉価な運動プログラムを既存運動施設(フィットネスなど)で提供することで、医療機関の外でも安心して予防が継続できる事業の構築を目指すものだ。しかし、民間事業者による運動指導が、医師法第17条に規定される「医業」に該当するかどうかがグレーゾーンになっており、フィットネス事業者などがこの分野への参入を躊躇する要因となっている。現在は、日本心臓リハビリテーション学会が指導し、NPO法人のJAPAN HEART CLUBが協力病院や健康増進施設などと連携し実施している。
 栄養指導においては、医療機関、医療保険者、民間事業者が連携し、担当医師の指示書に基づいた糖尿病患者への運動指導と栄養指導サービスを提供する。患者は血糖値測定や運動負荷試験を実施。健康運動指導士や管理栄養士が個別プログラムを作成し、運動指導や栄養指導を実施している。これも、民間事業者による栄養指導が、医師法第17条に規定される「医業」に該当するかどうかがグレーゾーンになっており、配食事業者などがこの分野への参入を躊躇する要因となっている。現在は、熊本大学病院が指示書をくまもと健康支援研究所(コーディネーター)に発行、同研究所が事業者へサービス提供を依頼して、利用者は事業者に対価を支払うとともに、自治体や医療保険者に健診データを提供している。
 簡易健診では、ケアプロが駅ナカ(横浜駅など)に展開。自己採血により血糖値、総コレステロール、中性脂肪などの検査が各500円(ワンコイン)で受けられる。また、淀川キリスト教病院では、簡単・気軽に自分の疲労状態をチェックできる非侵襲型の検査サービスを実施している。ただし、駅ナカやドラッグストアで簡易検診を行う場合、検体を採取し、簡易な検査をする場所が臨床検査技師法第20条の3に規定される「衛生検査所」に該当するかどうかグレーゾーンになっており、検診サービス提供事業者などがこの分野への参入を躊躇する要因となっている。

◆第三者認証の制度確立が市場拡大を牽引
 第三者認証を活用した品質評価については、予防・健康管理の製品・サービスは多様であり、消費者が安心して購入・利用を判断するための(効果に関する)情報が乏しいことが市場拡大の阻害要因の1つである。このため、大学や学会等の協力・連携による第三者認証の仕組みの構築を目指す必要があり、今後、第三者認証制度に関する国内・海外のベストプラクティスの収集と横展開し、対象とする分野や評価方法の検討を通じて、制度構築を図ることが重要とした。

◆健康経営評価サービスが改革を誘発
 (3)健康投資の拡大の(1)健康経営においては、東大発ベンチャーのヘルスケア・コミッティー(株)の健康経営評価サービスを、日本を代表する29社に対して実施したところ、企業からは「評価がきっかけで改革が始まった」、「今後の課題、目標値を考えるうえで参考になる」、「健康増進の位置づけが上昇した」などの肯定的な意見が得られた。このうちの2社(花王、カゴメ)に対しては、評価結果に基づいた融資も実施しており、健康経営に対する効果的なインセンティブを充実させていくことが重要とした。

◆ジェネリック医薬品で医療費削減も
 (2)レセプト分析による医療費削減では、呉市の国民健康保険において、被保険者のレセプトデータや健診データの分析によるジェネリック医薬品の使用勧奨、糖尿病の重症化予防、健診異常値を放置している被保険者に対する受診勧奨などを実施した結果、特にジェネリック医薬品の使用勧奨では、200万円の費用に対し、年間1億1400万円の薬剤費削減を達成した。ちなみに、呉市国保の歳出規模は約260億円。

◆ローソンが新ソリューションサービスを企画
 (3)従業員への予防活動の強化では、ローソンの健康保険組合が健診データ、レセプトデータを分析、診断し「血糖」「血圧」「肥満」の3つのリスクの組み合わせにより、7つのグループに分類。グループ別に「食」「体重」「運動(歩く)」の日常生活での改善指導メニューを作成し、公的保険外ヘルスケアサービスの総合的な提供と組み合わせた、全国1万店を活用した保険者向けサービスを展開している。さらに、これらソリューションサービスを、健康保険組合の「健全経営」事業として他企業・健康保険組合へと展開する動きを紹介した。

◆経済損失の見える化で健康づくりの動機付け
 (4)経済損失の見える化では、働き盛りの世代はお金への関心は高いが、自分の健康への関心は低い。これを踏まえて、現在の生活習慣を放置することで、将来見込まれる医療費、生命保険料、外食費、衣服の買い替え費用などを個人の状況に応じて算出するサービスの提供や、「健康づくり」を若い世代の主たる関心事である「お金」に関連させる「健康ファイナンシャルプランニングサービス」を通じて、無関心期あるいは準備期の人々の行動変容につなげるといった試みを紹介。最後に(5)金銭的なインセンティブの事例として、松本信用金庫と松本地域健康産業推進協議会と連携し、健康診断を受診することで、様々な健康関連の特典を得られる一般向け定期積金の販売を紹介した。

◆国内外で予防活動の投資対効果で成果
 予防活動の投資対効果の国内事例では、広島県の呉市健保では、レセプト分析から192人の参加者に、看護師・保健師が面談と電話による栄養指導や生活指導を実施。過去のデータでは、通常1割が人工透析に移行するが、上記参加者からの移行者はゼロだった。タニタでは、社内で毎朝のラジオ体操、運動管理・健康指導、メンタルサポートを実施。1人あたりの医療費が同業他社は9%伸びたのに対し、同社は9%削減され、250万円の投資に対し300万円の削減効果が表れた。日本人間ドック協会では、企業の通常健診に加えて、人間ドックなどの追加的な予防活動を実施することにより、5年間の医療費が40代男性で14.3万円、50代男性で33.0万円の削減効果が上がったという。
 また、海外における報告を紹介。企業が従業員の予防活動に1ドル投資することによって、1.65~9.70ドル(36件の平均値3.27ドル)の医療費削減効果があった(米ハーバード大学、10年)。100人規模の組織にメンタルヘルス対策を講じるだけで、年間25万ポンド(3800万円)のコスト削減が可能(英国国立健康臨床研究所、09年)。米国企業では、従業員1人あたり年間700ドルの健康関連コストの削減可能が可能で、従業員1万人の組織に終えるモデル資産では、従業員1人当たり月間8ドルの予防活動投資は、390~755%の利潤を生む(ボストンコンサルティンググループ、10年)などの事例を挙げた。

◆医療機器・サービスの国際展開
 藤岡氏は、「3.医療機器・サービスの国際展開」においては、世界の医療市場の動向、日本の医療機器および医療サービスの競争力の現状、医療の国際展開を取り巻く現状と課題(医療関連市場の現状・日本の競争力)、医療の国際展開(平成25年6月14日閣議決定)について概説を行い、経済産業省や一般社団法人メディカル・エクセレンス・ジャパン(MEJ)を活用した、医療の国際展開の現状と将来展望などを紹介した。『医療産業情報』では、2006号(13年11月15日)と2007号(13年11月22日)でMEJの活動について紹介しているので、重複していない部分を中心に伝える。

◆カンボジアで北原国際病院が着工準備
 カンボジアでは、北原国際病院救急救命医療センターが着工の準備を進めており、インドネシアでは、偕行会が日本式クリニックを13年12月18日に開業したことや、13年度の国際展開事業のポイントを以下のように示した。
 (1)点レベルの取り組みから、地域レベルでの面的なシステム展開へ(ミャンマーにおける日本式乳がん診療パッケージ輸出プロジェクト、ベトナム、インドネシア、タイ、バングラデシュにおける日本式がん・生活習慣病診療パッケージ輸出プロジェクト)、(2)新興国市場で日本が強みを有する領域の戦略的拡大へ(中国・タイにおける再生医療(自家培養表皮・軟骨)実用化プロジェクト、シンガポール・香港における日本式人工関節海外展開プロジェクト、ベトナムにおける地域医療情報ネットワーク普及プロジェクトなど)、(3)欧米企業との競争が激しい地域における展開へ(インドにおける日本式がん総合診断・治療センター構築プロジェクト、UAEにおける検診・糖尿病病院建設プロジェクトなど)を推進している。

◆ロシア・中国・ミャンマーでプロジェクト推進
 アウトバウンドの事例は、ロシアにジャパンメディカルセンター(仮称)を設置し、総合南東北病院、東京内視鏡クリニックが参加する予定で、国内メーカーはオリンパスメディカルシステムズ(内視鏡)、(株)Hoster-JP(遠隔診断装置)などが参画する。ロシアで治療困難な患者(がん治療など)を日本へ受け入れる拠点機能も担う。
 中国では、上海における糖尿病治療サービスの提供プロジェクトが進められている。東大病院の医師、EAJの看護師、日本アミタスの管理栄養士が医療サービスを提供し、テルモ(自己血糖測定器、注射器など)、日本アミタス(健康食品など)、SJI(外来予約システム、電子カルテなど)が参画する。
 中国では、二十一世紀病院内と総合健診車(移動健診)による日本の高度健診サービスの展開を図っており、参加医療機関は麻田総合病院(香川県)、瀬戸健診クリニック(香川県)。
 ミャンマーでは、岡山大学医学部附属病院、亀田総合病院乳腺科(千葉県)、イーク丸の内(東京都)や富士フイルムなどのメーカーが参加し、日本式「乳がん健診+治療プロセス」の医療サービスパッケージの普及を図っている。

◆事業化が見えつつある医療の国際化事例
 医療の国際化の事業化が見えつつある(一部事業化)パターンは、病院建設ではカンボジア救急救命センター(北原国際病院)、ロシア画像診断センター(北斗病院など)、現地提携病院内診療では、ミャンマー日本式乳がん診察(亀田総合病院など)、タイ日本型透析治療(北彩都病院)など、教育・研修センターでは、イラク「医療協力センター」(アイテックなど)、資本参加・経営参画では、マレーシア「病院資本参加」(三井物産)、インド「病院経営参画」(豊田通商、セコム)を挙げた。
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