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長澤泰氏「病院建築・設備とFMおよび14年の趨勢と提言」を講演(下)


「しっかり建てて長く使う。病院は不夜城建築、長寿命ゆえに柔軟性も重要」

2014/2/4

活発な質疑応答が行われた
活発な質疑応答が行われた
 JPI(日本計画研究所)主催の年末恒例 長澤泰副学長招聘セミナー「病院建築と設備・FMに関する『最新の世界的課題』を踏まえた2014年の趨勢と提言~FMの国際標準(ISO)化国際会議(東京)・国際病院設備連盟(IFHE)マレーシア会議等を踏まえて~」が、13年12月11日に行われた。工学院大学副学長、日本医療福祉設備協会副会長、日本ファシリティマネジメント協会理事を務める長澤氏の講演を紹介する2回目(第1回は本紙1月10日付2013号に掲載)は、「2. FMの国際標準(ISO)ガイドライン、3. 国際病院設備連盟(IFHE:International Federation of Hospital Engineering)マレーシア会議、4. まとめ」について紹介する。長澤氏は、自らを「『前期高齢者』と思えぬ若さで毎日奮闘しています」と紹介して会場を沸かせながら、過去からの病院像の変遷と今後のあり方、快活・温厚・誠実との周囲からの人物評に裏打ちされた思想、文明論、産業論、科学技術論に及ぶダイナミックで深遠な考えを述べ、一気にクライマックスへと導いた。
◇   ◇   ◇

◆数年後、FMがISO国際標準の認定へ
 長澤氏は、FMの国際標準(ISO)ガイドラインについて、日本からは団長である氏をはじめ5人が出席した12年11月の第1回国際会議(ISO/TC267、ドイツ・ベルリン)の要旨として、「ISO14000環境基準と同じように数年後には、FMがISO国際標準に認定されるもよう」と解説。次いで、長澤氏が会長を務めたIFHE(国際病院設備連盟)の第22回IFHEマレーシア理事会・評議員会(13年9月)とそれに続くBEAM(Biomedical Engineering Association of Malaysia)2013国際会議の内容などを、平山禎久氏(日本医療福祉設備協会国際委員)の報告を引用して以下に紹介した。BEAM2013国際会議開会式の挨拶で、マレーシア首相は「国の発展と医療福祉施設の質向上は密接な関係にあり、FMの活用、医療サービスの民営化(1997年~)が質の向上に貢献してきた。今後も長期的視野に立ってイノベーションを推進し、官民一体にて医療福祉施設・サービスの質を高めていかなければならない。マレーシアは2020年までに先進国の仲間入りを目指す」と述べた。

◆ヘルスケアと医療設備管理の世界的動向
 BEAM2013国際会議では、ヘルスケアエンジニアリングにおいてFMの強化、サステナビリティーの確立、システム・技術の拡張をテーマに掲げた。IFHE会長のOle Rist氏がヘルスケアと医療設備マネージメントの世界動向について、世界の水資源管理の重要度が上昇し、リスクマネジメントへの認識が高まり、経営効率とコスト管理が常に求められている。しかし、歴史的にも医療の分野は最も老朽化が進んだ建物・施設を抱えており、成長と停滞を何十年も繰り返し、結果的にメンテナンスが先送りされた施設を多く抱える病院設備では、人的資源をどうマネージメントするかが重要であるとの報告を行った。

◆医療機器の誤使用と増加する事故
 次いで、ECRI Institute副社長のJin Lor氏が患者の安全性向上に関するヘルステクノロジー・ハザードトップ10について発表した。毎年医療機器・デバイスを使用する現場で発生する危険な事故の拾い出し、技術的分析、問題の報告、事故調査、注意喚起・警告の重要性を指摘し、特に特定の技術・医療機器や、その複合利用、誤使用と繰り返される事故と増加する事故が焦点である。
 具体的な医療機器による事故のトップ10は、(1)(誤)警報、(2)医療ポンプの誤使用、(3)放射線火傷など放射線治療での事故、(4)IT/EHR(Electronic Health Records)の患者データ取り違えによる事故、(5)IT/医療装置誤動作などによる事故、(6)空気塞栓、(7)成人患者用医療機器を小児患者へ誤使用した事故、(8)治療器具の不充分な再処理、(9)看護従事者によるスマホ、モバイル端末使用時の不注意事故、(10)手術中の火災である。

◆IT起因の医療事故発生件数も増加傾向
 ヘルスケアテクノロジーとITの融合が進むにつれ、ITが原因となる医療事故発生件数も大きく増加傾向にあり、EHRが作業効率や信頼性を劇的に高め、患者の安全性向上に大きく寄与することは間違いないものの、同時にデータの取り違えによる事故も大幅に増加していることから、より正確で緻密なシステム設計を通して、予期せぬリスクを回避することが極めて重要であると指摘した。

◆院内感染対策は適度なフィルター+UV殺菌
 Normand Brais博士は、「空気や表面のUV殺菌による院内感染対策」について、1.院内感染、2.非接触表面殺菌、3.空調換気システムの殺菌の順で発表した。北米では院内感染が年間170万件発生し、年間9万9000人が死亡、推定被害コストは45億~110億ドルにのぼる。院内感染の36%が尿路感染症、20%は手術室や治療現場での感染、11%は血管感染および肺炎と分類される。対策として、適度なフィルター+UV殺菌が、HEPAフィルター利用よりも効果が高く、グレードの低いフィルターで大きめな感染源を除去(圧損・メンテナンス・ファン動力の低減と大風量を確保)し、さらに、UV殺菌を活用してサブミクロンレベルの感染源除去(圧損を上げずに空気清浄効率を高める)が可能であることを挙げた。

◆エネルギー効率化に専任者の配置を
 グリーンテクノロジー社のHishamudin Ibrahim氏とBEAMのKhairul Kamaluddin氏は、ヘルスケアファシリティーにおけるエネルギー管理業務の強化について発表した。抽出した27病院のエネルギー効率や、エネルギー効率を向上できるエリア別の消費エネルギー分析を示し、SEMS(Sustainable Energy Management)の導入およびエネルギー管理を継続的に実施する専任者を配置して、5年後、10年後を見据えたエネルギーコスト削減目標を継続して追求することを提言した。

◆医療機器は最適稼働でも耐用年数は8~10年
 Faber Sindoori Management Services社のM.K.Padmanabhan氏は「HTM(ヘルスケアテクノロジーマネジメント)」の概要について発表を行った。医療機器は、メンテナンスの有無により稼働率で大きな差が生じており、医療機器・技術のマネージメント・サイクルとして、「企画と技術査定→予算→サイトでの準備→調達・配送→設置と試運転→訓練とスキルアップ→操作と安全性→メンテナンスと修理→停止と処分」の流れとなり、それぞれの段階において監視と評価が重要となる。
 医療機器不具合の内容では、オペレーターによるミス、単純な(消耗品交換などの)不具合、専門の技術者を要する修理が3分の1ずつを占めており、おおむね7割は現場で即修復可能な不具合となっている。効果的なHTMにてのコスト削減では、基準化の不足(余分なパーツやメンテによりコスト30~50%増)、オペレーターのスキル不足(機器を十分に使いきれていないためコスト20~40%増)、担当者の誤使用(寿命が30~80%短縮)、計画と運用時の相違(余分な改造などでコスト10~30%増)、予防メンテナンスと消耗品準備の欠落(故障期間25~35%増)を指摘した。さらに、HTMを効果的に導入しても医療機器の最適な運用期間は8~10年間であるとの分析を発表した。

◆BEMS2013のHPから会議資料の詳細
 会議では、「品質管理システムの視点から医療設備メンテナンスについて」、長澤氏と江川香奈氏による「災害拠点機能として整備された病院の傷病者受け入れに関する調査研究」、「FMの権限強化~リスクマネジメントの視点」、「救急医療棟における自然採光の計算(パキスタンの大学病院事例)」、「ユビキタスインフラとFM、およびBIMの活用を通してサステナブルでインテリジェントなヘルスケア建築と設備の創造と実践」などの発表があった。BEMS2013のホームページより発表資料は無料ダウンロードが可能である。

◆まとめ、社会的資産としての病院
 ここまでBEMS2013で興味深い発表内容について取り上げてきた長澤氏は、まとめとして氏自身の公開講演会「甲府市役所建築の特徴と役割」を引用した。導入した省エネ技術、エネルギー管理と環境情報の見える化を紹介しながら、公共施設の役割(社会的財産・資産としての活用、地域の安全・安心の拠点となること、地元市民のシンボル・誇りとなること、様々な利用者を常に尊重すること、時が経つにつれ一層魅力的な建築に変わること、FMを実現すること)の重要性を説き、そこから、「FMの薦め:建物を建てるだけでなく、長く使うことを考える時代になった」として現代が転換期にあることを提示した。

◆「ホスピタル」は古代から21世紀型へと変遷
 工学院大学の「建築学部」FMエキスパートチームでは、JA(農協)機関誌『文化連情報』において、13年1月から12回にわたり「社会的資産としての病院建築」の連載メッセージを掲載した。
 その最終回では、以下のようにまとめた。
 「ホテルとホスピタルは元来、ホスピタリティ(おもてなし)に連なる同語源であります。ホスピタルは、(1)古代ギリシャ・ローマのアスクレピオス神殿の転地療法型病院、(2)中世の修道院収容型病院、(3)ルネサンス期の宮殿転用型病院、(4)ナイチンゲールが19世紀に提唱した療養環境型病院、(5)20世紀の巨大治療工場型病院(メガホスピタル)と変遷し、続いて(6)の21世紀型ホスピタルの時代を迎えています。この背景には、手元のICT機器で健康相談可能なヴァーチャル・ヘルススケープの成立があります。
 人間は生まれてくるときには、みんなの祝福を受けて『おめでとう』と言われますが、人生の幕を下ろすときには『ありがとう』の一言もないと言った人がいます。これが現代社会の姿です」。

◆「命はマイレージで決まる」という現実
 長澤氏は連載メッセージの紹介を続けた。「人間や物品の移動の手段が格段に進歩し地球が狭くなりました。最高度の先進医療施設を世界の数カ所に集中させる検討が行われています。今に航空会社のネットワークを用いてマイレージをためると、提携先のグローバルホスピタルにおいて高度の手術を無料で受けられることになるかもしれません。命は地球より重いというのは嘘で、命はマイレージで決まるような現実があります」。

◆科学工学技術信奉を21世紀の100年で是正を
 「科学と宗教とを対比させたベストセラー小説『天使と悪魔』(ダン・ブラウン著、越前敏弥訳、角川書店)で、作者はカトリック司祭カメルレンゴに現代科学について次のように言わしめています。『子供に火を与えるだけで、それが危険だと注意してやらない神とは、一体何者ですか』。
 また、建築家の故林昌二は、『産業革命に始まり、“際どさの上の便利さ快適さ”を追求してきた20世紀の科学工学技術を信奉した文明を、正しく9.11事件の主役“超高層とジェット機”が象徴している』(林昌二毒本『ニューヨーク・ワールドトレードセンタービルの崩壊をどう受け止めるか』、04年11月、新建築社)と指摘しています。そして、このままでは人類は破滅の道を辿るので、20世紀100年かけて目指した方向を、21世紀の100年で是正できるか否かが人類存続の鍵を握ると警告しています」。

◆病院は不夜城建築、長寿命ゆえに柔軟性重要
 「亀田総合病院(千葉県鴨川市)での新しい試みの1つが総合相談室です。医師、看護師、薬剤師など75人のスタッフが24時間365日体制を組んでいます。入院患者がいる病院は元来24時間稼働建築ですが、夜間は病棟中心です。ところがここでは院外患者からの要請にも応じています。まさに不夜城建築です。
 このような不夜城建築は運用に費用がかかり、酷使されるので新築するならば、少なくとも100年の寿命を考えるべきでしょう。しっかり建てて長く使う、その間に時代の要請に応じて機能的に改変が可能でなければなりません。LCC(ライフサイクルコスト)でも指摘されていますように建築の付帯設備・機器は5~10年で交換が必要ですが、建築構造体は長寿命であるがゆえに、柔軟性の確保が要求されます。
 これには高級洋服店仕立て(テーラーメイド・タイプ)服のように体型(用途)にぴったり合わせた服(箱)であった20世紀の機能建築では対応できません。伝統的和服のような身体の成長・縮小に対応できる緩やかな仕立て(ルースフィット・タイプ)にしておく必要があります。また、病院のように、使い始めてからは業務活動停止ができないことも多く、飛行機の空中給油のような発想で建物を考えておく必要があります。これは病院BCPの必要性につながります」。

◆100年建築の病院は美しさを備えた「健院」へ
 「1889年の万博に際して、その時代の新技術を結集して建てたエッフェル塔は、パリの美観を崩すといった論争が当初発生しました。100年後の現在ではパリのシンボルになっています。
 今後新築する100年建築は、次の22世紀には老醜建築になってはいけません。この建築は美しい神殿のような象徴的な意味を持たねばならないと思います。筆者は、これまでの建物自体が病んだ『病院』に代わって、健康を司る健全な『健院』の建設を提唱しています」。
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