(株)産業タイムズ社 代表取締役社長 泉谷渉
「国内半導体産業は2012年段階で5兆円しかなく、内訳は国内1.6兆円、輸出3.4兆円となっている。GDPのたった5%しか占めていない。しかしながら、半導体を活用したサービス産業、ハード産業、さらにはITを通じた生産性向上まで含めた下流部分まで拡げれば、実に半導体の経済効果は100兆円はあるといってよいのだ!」
かなり強い口調で斎藤昇三氏(NEDIA会長、東芝常任顧問)がこう語り始めると、静かであった会衆の眼は一様に輝き出した。11月20日、京都テルサにおける関西NEDIAキックオフ・セミナーの講演会場でのことである。NEDIA(日本電子デバイス産業協会)は9月30日に200社弱で旗揚げし、この運動論に賛同する人たちが、その後続々と入会を決めている。わずか1カ月ちょっとの間で40社の新規入会をほぼ確定させ、まずは2013年度内の会員300社達成に向けて順調な滑り出しを見せているのだ。
「それにしても、国内半導体産業の後退ぶりはすさまじく、今や世界市場約30兆円のうちわずか17%程度しかない。米国は圧倒的に強く、世界の53%シェアを握り、次いで台頭著しいアジア・パシフィックが21%、そして落ち続けている欧州は9%にとどまっている。日本の巻き返し作戦はもはや待ったなしであり、草の根的に成長アプリへの道を探り、材料~装置~電子デバイス~成長セット産業という一気通貫プロジェクトを揚げるNEDIAの思想が今こそ求められているのだ」(斎藤氏)
世界のIT事情に詳しい斎藤氏は「アメリカの製造業復活」は本物であり、アップル、インテル、GEなど名だたるIT企業が、こぞってアメリカ本土に新工場建設を決めている、と指摘した。中国をはじめ新興国に向かっていた設備投資が米国内に回帰しているのは明らかなのだ。ニューヨーク州はインテル、IBM、グローバルファウンドリー、TSMC、サムスンの5社に対し、次世代半導体開発への補助金48億ドルの投入を決めているほどなのだ。それにしても、この計画に日本勢が1社も選ばれていないことの意味は大きい。
これまでひたすら立ち遅れていた欧州においても復活劇への動きが始まっている。「HORIZON2020」というプロジェクトがそれであり、現状でEU域内における半導体産業は世界の7%しかないが、これを2020年までに20%まで引き上げるというアクションプランなのだ。予算規模は当面800億ユーロであるが、このプラン達成のためにはいくらでも金を出す、と各国首脳は息巻いているという。
こうした動きに対し、日本政府および日本の半導体業界は(小規模な投資のプロジェクトは少しあるものの)ただ立ちつくすだけ、フリーズしているだけと世界各国からは見られている。米国においてはTICというプロジェクトも動き始めており、セキュリティー保証、軍事機密の漏洩防止、重要なIP保護を謳い文句に、こうした分野の半導体は必ず米国内で生産することを義務づけていくという。
「半導体が世界的に見ても成熟産業になってきたことは疑いを入れない。しかし、各国とも新たな成長に向けて様々な準備を打ち出してきている。我が国がこうした動きに遅れをとっているのは残念だ。しかして、私たちも今からでも必要な新たな挑戦に臨むべきなのだ。NEDIA発足の基本要因はまさにそこにある。オールジャパンで草の根的に有機的なネットワークを作り、新成長アプリを創り出す。何としてもやる!」(斎藤氏)
ちなみに東芝半導体が考える次世代半導体のキーワードは「スマートコミュニティを実現するチップの開発」にあるという。「半導体は今や社会の米」、斎藤氏は多くの社会問題を解決するためにこれからの半導体は存在するのだ、と位置づける。それは社会インフラの整備、エネルギー問題の解決、安全・安心社会の実現、健康で文化的な生活の確立などに貢献する半導体チップを作れ、ということを意味する。具体的なロードマップは今すぐには見つからないかもしれない。しかし、手をこまねいている時ではない。一歩ずつ踏み出しながら、ニッポン半導体および電子部品でしかできないことを探していくことから始めるべきであろう。