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座間市、急性期総合病院240床をキャンプ座間跡地に誘致、JMAを選定


遠藤三紀夫市長「基地転じ市民の病院を実現し、国有地開発の新事例提示」

2013/11/19

遠藤三紀夫市長
遠藤三紀夫市長
 JPI(日本計画研究所)主催の特別セミナーで、神奈川県座間市長の遠藤三紀夫氏が講演「平成25年8月 誘致病院事業決定 『キャンプ座間』跡地を医療環境の場へ~座間市の課題克服詳細と今後の取組について~」を行った。2008年の遠藤市長初就任の当時、座間市では、まさしく病院が減り、医療の万全な提供ができない状況が続いていた。そのようななか、遠藤市長は市民や有識者、行政とともに、斬新なアイデアと行動力で病院新設に向けた誘致に成功し、さらに、米軍キャンプ返還地の有効活用と融合させた。そのプロセスを紹介した講演は、地域医療再生の示唆に富み、また、新たな地域づくりの手法としても非常に意義の高いものとなった。

◇   ◇   ◇

◆内科・外科・小児救急は輪番広域化でしのぐ
 座間市では、内科・外科2次救急医療において、06年度当初には市内5病院と、綾瀬市3病院の計8病院が輪番体制を採って対応していた。しかし、座間市内の座間中央病院が湘陽かしわ台病院となって海老名市へ移転、ひばりが丘病院が廃院となり、いずれも07年に輪番から脱退した。6病院では輪番体制の維持が困難となり、隣接する海老名市内の2病院の協力を得て、8病院体制を維持した。
 次いで、座間厚生病院が療養病床へ転換し08年に輪番から脱退したため、隣接する厚木市2病院、大和市3病院の協力を取り付けて体制を維持したものの、09年になって綾瀬市の3病院のうち2病院が輪番を脱退した。座間市の2病院(相模台病院、相武台病院)と綾瀬市の1病院(綾瀬厚生病院)では、輪番の日数を大幅に減らさざるを得ず、所管である厚木・大和両保健福祉事務所、各市域の病院協会、医師会の協力の下に、海老名市3病院(海老名総合病院、湘陽かしわ台病院、さがみ野中央病院)、厚木市3病院(湘南厚木病院、東名厚木病院、仁厚会病院)、大和市4病院(大和市立病院、中央林間病院、大和徳洲会病院、桜ヶ丘中央病院)を加えて、輪番体制をかろうじて維持している。
 また、小児2次救急においても不安定な体制が続いており、現在は、座間市(相模台病院)、綾瀬市、海老名市(海老名総合病院)、大和市(大和市立病院)の4市広域化で厳しいながらも輪番を維持している状態である。
 さらに、遠藤市長は「座間市から市外への救急患者の流出は厚木市への50%を筆頭に計74%に上る。また、救急車が遠方の医療機関へ向かうことが多いため、救急車不在に備えて救急車の増設、救急隊を24時間体制で配備すると年間1億~2億円もの経費が増加することになる」と現状を説明する。
 08~12年度の第5次保健医療計画において、座間市を含む5市1町1村で構成する県央2次保健医療圏は、基準病床の4750床に対し病床過剰エリアであったため、新たな病院を設置することが困難であった。13年度からの第6次保健医療計画では、基準病床数が上乗せされ5252床とされた。

◆チャペル・ヒル住宅地区5.4haの返還合意
 座間市では、昭和12(1937)年に当時の座間町に建設された陸軍士官学校が、「基地のまち」としての第一歩であった。以来、第二次世界大戦を経て、米陸軍第8軍司令部の施設名称「キャンプ座間」が設置された。市では、総合計画に「基地の整理・縮小・返還」を掲げ、米国による03年からのキャンプ座間強化の動きに対し、市、市議会、自治会連絡協議会、市民は一体となって「キャンプ座間米陸軍第一軍団司令部等移転に伴う基地強化に反対する座間市連絡協議会(協議会)」を組織し、基地強化への反対を続けた。そのなかで、07年12月19日にキャンプ座間に米陸軍第一軍団(前方)司令部(約30人)が発足。08年7月28日には国から基地恒久化解消への方策として「確認書」が示され、この確認書を協議した結果、同年8月7日に協議会を解散した。
 基地の敷地の部分返還は、72年の富士山公園から段階的に実施されている。国に「返還」された土地を市が時価総額で買い取って、富士山公園をはじめ駐車場、小中学校、市民体育館といった公共施設の整備に活用してきており、11年10月31日の日米合同委員会により、チャペル・ヒル住宅地区5.4haの返還について基本合意に達した。
 06年に同地区返還の予定が示されたことを受け、08年8月8日に座間市は、防衛省地方協力局長との間でキャンプ座間恒久化解消への方策となる「確認書」を締結、設立した「座間市基地返還促進等市民連絡協議会」で返還に向けた協議を進めるとともに、「座間市基地返還促進委員会」を設置して、利用計画の検討を開始した。

◆国有地の定期借地と不足病床発生で急展開
10年6月18日に「新成長戦略における国有財産の有効活用について」の財務省通達が出され、同年11月28日に、座間市は県を通じて厚生労働大臣に圏内の病床数の不均衡解消への「病床規制の弾力化」を民主党幹事長に提出した。こうした一連の活動が実り、同年12月21日に座間市の要望を受け入れて、財務省が「新成長戦略における国有財産の有効活用」についての枠組みに「国有地の医療施設を対象とした定期借地権の活用」を認めることを発表した。
 県知事に対し、11年5月には「県央2次保健医療圏における病床数の確保に関する要望書」を提出。県では、13年3月29日に同医療圏に242床の不足病床があることを発表した。これは、13年4月にスタートした第6次保健医療計画において、県央2次保健医療圏の基準病床数4838床に唯一、救命救急センターのない同医療圏での2次救急病院設置分と、また、優先的に医療機能強化を行う地域として病床が加算されたことから発生した不足病床である。

◆ジャパンメディカルアライアンスを選定
 4月には、病院事業者の選定活動を本格化させ、8月26日に、応募4事業者の中から社会医療法人ジャパンメディカルアライアンス(JMA)を選定した。事業者には10年間、土地を無償貸与する。募集には、ほかに、社会福祉法人相模更生会、医療法人沖縄徳洲会、医療法人社団葵会が応募した。
 公募条件では、病床数は同医療圏の不足病床242床を基本とし、一般病床150床以上、総病床数240床(療養病床を含めることも可)を予定すること、同医療圏において、新たに不足病床数が示された場合は、増床対応を検討することを挙げた。
 診療関係においては、(1)堅実な運営により、長期的に安定した診療体制を維持すること、(2)内科・外科・小児科の2次救急診療機能を有し、救急病院としての告示を受けること、(3)診療科目については、内科、外科、小児科、眼科、耳鼻咽喉科など、総合的病院としての機能を有すること。なお、病院事業者が特徴ある診療機能(脳梗塞、心筋梗塞の急性期対応など)を付加する場合は、提案すること。(4)医師、看護師およびその他の医療スタッフなど、十分な診療体制を確保すること。ただし、医療従事者の確保については、県央2次保健医療圏内医療機関からの採用は避け、既存医療機関の運営機能を損なうことがないよう十分配慮することとした。

◆新病院は16年4月開院が目標
 12年1月にまとめた返還跡地の利用構想では、病院1.5ha、新消防庁舎0.5ha、公園1.0ha、陸上自衛隊家族宿舎2.0ha、道路・歩道0.6haの計5.6ha(既存駐車場0.2haを追加)で、遠藤市長は「陸上自衛隊の宿舎は、13年度末に用地造成、道路、擁壁工事が完了、14年から宿舎に着工し、16年度から入居開始が決まっている。病院も同じ16年4月の開院を目指しており、年内にめどをつけ、年度内に確定したスケジュールを公表したい。また、隣接して消防署があるため救急車の使いまわしが便利になる。また、救急車は近隣2市と共同運用を図る」と話す。
 基地返還、返還用地の定期借地や病院用地としての活用の可否、新病院の病床確保、病院事業者の誘致、陸上自衛隊家族宿舎建設と米軍宿舎建設など、遠藤市長は「多元連立方程式のようなところからスタートした」と述懐しながら、「時価総額数十億円の土地を借地とすることによる財政負担の極小化、財務省の国有地の有効活用として大規模な事例を提示できたこと、つまり『売るだけでなく貸すのも手。それにより時代に合った活用が可能となる』こと、これまで市民に負担を強いてきたキャンプ座間を、(病院実現などで)逆に市民の益に供することができる」と総括した。
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