「プレミアム・アウトレット(PO)」を運営する三菱地所・サイモン(株)(東京都千代田区)は、2022年10月以降売り上げが目に見えて回復しており、23年度は過去最高をうかがう勢いにある。さらに「京都城陽PO」の新設が控えるなど、その動向が注目される。代表取締役社長の山岸正紀氏に聞いた。
―― 足元の状況からお願いします。
山岸 新型コロナ感染拡大から一時厳しい状態となったが、比較的早い段階で回復基調を見せ、昨年10月以降、売り上げは右肩上がりで順調だ。19年11月に鳥栖POを増床、20年6月に御殿場POを4期増床、20年8月にりんくうPOを5期増床、22年10月にふかや花園POを新規開業するなど、厳しい中でも増床・新規開業により成長があった。りんくうPOはこの増床で敷地が海に面するようになったため、真の意味で“シーサイドアウトレット”になったと実感する。
施設売り上げで過去最高だった18年度と遜色ない施設もある。要因の一つとして、強みであるインバウンドが回復しており、御殿場PO、りんくうPO、空港に近い酒々井PO、観光客が増えている鳥栖POもインバウンドが多い。
―― 改めてPOの強みは。
山岸 非日常空間を作り出し、お客様にワクワクした時間を過ごしていただく空間的な特徴がある点。そこに郊外という立地戦略が加味される。昨年のふかや花園PO開業で計10施設になったが、10施設を開発から運営まで一気通貫で手がけてきたノウハウやテナントとのリレーション蓄積も大きな強みだ。
株主は三菱地所、米国最大の商業リートであるサイモンプロパティグループという日米の特徴ある企業の合弁会社であり、それぞれの強みを生かし、全世界的に知られるラグジュアリー・ハイブランドが当社施設に出店していただける。こうした店舗に出店いただける御殿場POなど旗艦施設の存在は大きいが、中規模施設、地域密着型など様々な施設を展開しているので、それぞれの特徴を発揮しなければいけない。
―― 「ふかや花園PO」は地域密着型に映ります。
山岸 今までと異なるハイブリッド型であり、我々のチャレンジでもある。レストランも充実させたので、夜は家族で食事など、地域の方に高い頻度で利用いただいており、他の施設と比べて土日の差が小さい。
いかに地域を盛り上げるか。足元だけでなく、秩父を含めた埼玉県西部全体の集客を盛り上げたい。
―― 今後の増床・新設について。
山岸 現時点で増床について公表できるものはないが、新設は「(仮称)京都城陽PO」が24年度以降に開業予定だ。関西の大動脈の新名神高速道路のスマートICからすぐの場所で、広域から多くのお客様を呼べる有望な立地だと思う。京都は外国の方にも特別な響きがある。デザインやコンセプト含めて、京都を感じていただく。我々の腕の見せどころだ。
―― 京都の増床はどこまで可能でしょうか。
山岸 増床用地は手当済みで、施設規模はりんくうPOと同程度の余地はある。
―― 23年度の見通しを。
山岸 ふかや花園POがフル稼働するので、業績に貢献する。不測の事態が起きない前提なら、18年度の3500億円強を超えて過去最高の施設売り上げとなりそうだ。
―― 日本にアウトレットが登場して30年。アウトレットはどう進化しますか。
山岸 アウトレットはブランドラインアップを常に充実させて、ショッピングのワクワク感を提供してきた。このコンセプトは今後も変らないが、それ以外のワクワク感をつくることが課題。御殿場POではホテルや温浴施設が開業し、りんくうPOでは大きな芝生公園や、グランピング施設、海の景観もある。その地域や施設の独自性を活かしながらワクワクする要素を加えていくことがカギだ。
一方で、社員のアイデアで、花火を打ち上げる「御殿場ナイト」を実施した。夜まで楽しんでいただき、花火を見て最後にもう一度ワクワクしていただく。閉館間際はお客様が少なくなっていたが、花火があると待って食事をしたり、その後再び買い物を楽しむお客様が増えるなど、滞在時間や売り上げ増につながった。
このイベントが終わってから館内スタッフへの感謝を込めて花火を上げたこともあった。
―― 横展開はありますか。
山岸 施設の特性があるので、少しアレンジして実施することはある。
―― 他の取り組みは。
山岸 OMO(Online Merges with Offline)を、三菱地所と組み静岡空港、高松空港でトレーラーハウスを活用したPOサテライトショップを出店した。富士急ハイランドでは当社単独で出店した。商品をQRコードで読み取りECとして決済する仕組み。商品は自宅に届き、一部商品は持ち帰れる。お客様にデジタルを活かし異なる買い物体験をしていただける実験場で、ここで得た知見を次に発展できるかを検討している。
―― 最後に抱負をお聞かせください。
山岸 コロナという未曽有の危機から順調に回復してきた。強みのひとつであるインバウンドも回復している。この機を逃さず、お客様にワクワクしていただく施設に磨き上げていくということが求められる。周辺環境に甘んじず、花火大会のように社員で知恵を絞ってお客様にワクワクしていただいて、また来たいと思ってもらえる施設を目指したい。
(聞き手・特別編集委員 松本顕介)
商業施設新聞2513号(2023年9月19日)(1面)
デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.417