(株)うかい(東京都八王子市)は、首都圏を中心に飲食店や物販店を展開している。各店とも「本物のおもてなし」を提供し、客単価は高水準を維持。2023年3月期は過去10年の中で最高益である営業利益7億6300万円を達成し、飲食業界の大きな課題である人手不足も新たな取り組みで打開する。同社代表取締役社長の紺野俊也氏に聞いた。
―― 会社概要から。
インバウンドの団体客も多い
「うかい鳥山」(東京・高尾)
紺野 鉄板料理(「うかい亭」)、豆腐料理(「とうふ屋うかい」)、洋菓子販売(「アトリエうかい」)などの業態を持ち、国内外で23店を展開している。およそ60年前に高尾山のふもとで開業した「うかい鳥山」が始まりだ。
今でこそ高尾山は有名な観光名所になったが、当時は人が多く来る場所ではなかった。しかし創業者は「登山ではなく、うかいを目的に高尾まで来てもらうのだ」と言い続けた。その思いは今でも変わらず、うかいを目的に郊外まで足を延ばしてくれる人を増やしたいと思っている。また、わざわざ足を運んでもらうために「本物のおもてなしを提供する」という思いも、当社の原点になっている。
―― その後の展開は。
紺野 創業者のこだわりから、03年に「銀座うかい亭」をオープンするまで長らく都心には出店していない。銀座うかい亭は、創業者が「銀座の中心から少し外れている」という立地を気に入ったことで出店が決まった。それ以降は「東京 芝 とうふ屋うかい」など、都心でも店舗網を広げている。
―― 足元の状況は。
紺野 23年3月期の売上高は126億5200万円と、コロナ前の比較可能な期(19年3月期)と比較してすでに約9割まで回復。客足が戻り好調に推移している。コロナ以降は大きな店舗でも客の入れ替えをなくし、その分1組1組を目いっぱいもてなすようにしている。その結果、客単価が2割ほど上昇し、これが最高益につながったと考えている。
―― インバウンドは。
紺野 コロナ前は「表参道うかい亭」のお客様のうち3割がインバウンドで、鳥山でもインバウンドの団体客が多かった。いずれもコロナ前までとは言わないが、徐々に戻りつつある。
―― 需要回復による人手不足感はありますか。
紺野 やはり人手不足感は否めない。コロナで飲食業から去る人材が多く、また中途人材もなかなか集まらなかった。そのため、新卒入社の新人育成に心を砕いている。
当社はおもてなしを重視する飲食業だからこそ、“人財”の育成が成長戦略の最大の柱だと認識している。私が社長に就任してからは、和食・洋食・食物販といった業種をまたいだ研修を行うなど、人財力の強化に力を入れている。この取り組みは、これまで完全に分業していた業態ごとの垣根をなくすことにもつながった。
―― 働き方の改善にも取り組まれているようです。
紺野 22年に「銀座 kappou ukai 肉匠」で、日曜日と月曜日を定休日とする週休2日制を取り入れた。売り上げも利益も確保できたことから、今は5店で週休2日を実施している。
営業日には従業員全員が稼働するため、万全の状態でお客様をお迎えできている。予約時に調整すればお客様に特別不便な思いを強いることもない。なにより、働く環境を整えることで従業員のQOL向上と人材獲得につながると期待する。
―― 今後の展開は。
紺野 コロナ禍を経て、それまで当たり前だったものが当たり前でなくなってしまった。もう1回創業するつもりで新しいことに取り組んでいく。具体的には業態の垣根を越えた、レストランとアトリエうかいのような洋菓子店を合体させた新業態を開発したい。
また、今後は食物販にも注力していく。6月1日にはオンラインサイト「うかいグルメデリ」がオープンする。お店の人気メニューや、料理長を歴任したシェフが新たに開発した商品などを販売していく。素材を生かした優しい「うかいの味」を、ご自宅でも楽しんでいただける。
―― 既存業態の出店については。
紺野 具体的な数値目標は定めていない。ただ、既存業態は私が社長でいる間は店舗を増やすことはないと考えている。アトリエうかいについても、既存の工房がフル稼働であるため、すぐには店舗を増やさない。もし工房を増設するとしても、新規出店よりも、新商品の開発など新たなチャレンジに注力する。一方で、現在丸の内のみで展開しているテーブルレストラン事業(「グリルうかい」)を1つの事業として成立させたいという思いはある。
幸いコロナによる閉店はなかったが、人手不足がさらに深刻化すると店舗数を絞る可能性も捨て切れない。おもてなしのクオリティを保つことのほうが重要だ。
(聞き手・特別編集委員 松本顕介/安田遥香記者)
商業施設新聞2497号(2023年5月30日)(8面)
経営者の目線 外食インタビュー