電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第505回

23年の中国エレクトロニクス製品市場を予測


新エネ車はいいが、スマホはまた前年割れ

2023/6/2

 2023年の中国経済はゼロコロナ政策の解除を受けて急回復すると期待されていたが、1~2月は低迷し、3月に大幅な回復が見られたものの4月は緩やかな伸びに減速した。1~3月期のGDP成長率は4.5%増と力不足で、政府目標の5%前後を下回った。このように中国の足元のマクロ経済の回復はもたついている。この現況をもとに23年のエレクトロニクス製品市場の動向について、新エネルギー車(NEV)やスマートフォン(スマホ)、テレビ市場などについて解説する。

クーポン券でドーピング!

 23年4~6月期はコロナ明け後のリベンジ消費によって旅行業などで大幅な回復が始まった。しかし、それでも23年の中国の国内旅行者数はコロナ前(19年)の80%程度、中国から海外への旅行者数は70%、海外から中国への旅行者数は45%の水準にとどまると予測されており、完全回復するとはいえない(中国社会科学院観光研究センターの予測)。

 中国の消費者物価指数(CPI)は3月に0.7%増に下降し、4月は0.1%増と水面スレスレまで落ちた。このままのペースで行くと、ゼロを切ってデフレにならないか心配する声も出ている。これに対して、中国の中央銀行はあえて「中国はデフレでない」と発表した。7月まで低い水準が続いて、その後反転すると予測しているが、つまりは4~6月期はまだ忍耐が必要な時期だということだ。

人気の外食店は行列できるようになったが、物販はイマイチ
人気の外食店は行列できるようになったが
物販はイマイチ
 その中で「618」(6月18日のネット商戦)の日に期待が集まる。5月下旬から先行予約販売を始めるフライング手法も駆使して、消費回復に必死だ。中央政府が音頭をとって全国で進める消費クーポン券との合わせ技で、6月の消費は急増するだろう。とくに、中国政府が重点的に政策を進めたい分野にはクーポン券が大量に出回るので、省エネルギーやスマート関連、環境関連の製品には神風が吹くだろう。しかし、その後の反動で7月以降に消費が減速しないか心配だ。

新エネ車、次は農村で売りまくれ!

 23年の中国の新エネ車販売は1月に42万台でスタートした。新エネ車の購入補助金がまだ受給できた前月の81万台から、補助金終了とともに急落した。その後の2~4月は各月とも50万~55万台規模に回復したが、4月は前月よりも2万台近く落ちて右肩上がりとはいかなかった。中国の自動車協会は23年の新エネ車販売は900万台と予測している。これを実現するには、月平均で75万台の販売が必要だ。1~4月の販売状況は好スタートを切ったとはまるで言えない。

 中国の自動車メーカーは、新エネ車販売を底上げする政策誘導に期待を寄せている。1つは、前述の消費クーポン券で、新エネ車普及が遅れている都市や新エネ車メーカーの城下町の都市がこれを積極的に実施する。湖北省や陝西省など内陸都市の名前が目立つのも特徴だ。中国全国で1~4月上旬までに6億元(約115億円)の消費クーポン券がすでにバラまかれている。3月には100万円以上の値引きがあった事例なども報告されている。しかし、これも一種の劇薬なので、クーポン商戦後の反動で年後半の新エネ車の販売が減速しないか要注意だ。

 もう1つは、農村市場での販促策の「新能源汽車下郷」(農村部での新エネ車の普及キャンペーン)だ。今の中国は、経済成長速度が減速している沿海都市よりも内陸都市や農村市場などに消費拡大のチャンスが多い。中国国家発展改革委員会と国家エネルギー局は5月中旬、「農村部での新エネ車の普及に向けた実施意見」を発表し、地方政府が農村住民を対象に新エネ車購入に使える消費クーポン券を発行するように奨励した。

上海の商業施設で家庭用EV充電設備を販売(設置費用込みで6.5万円)
上海の商業施設で家庭用EV充電設備を販売
(設置費用込みで6.5万円)
 上海や北京、天津などの沿海大都市は現在、地方の内陸都市や農村部などよりも自動車に乗っている人が多い。しかし、日本でも東京よりも地方在住者の方がマイカー保有率が高いように、いずれは北京や上海よりも中小規模の都市の県や郷の方が自動車普及率が高くなる。これらの地域にはまだ数億台の普及余地がある。農村住民の新エネ車を含む自動車需要は5000億元以上(約10兆円以上)の巨大市場になる。そのためには、農村都市にも充電設備を普及させる必要があり、中央政府は今春から地元の工業専門学校などに充電設備のメンテナンスに必要な技術を教えるよう指導し始めた。「目的が定まったら、一丸となって取り組む」のが中国の強みであり、そのスピード感覚は他国では追随できないものがあり、農村EV市場の急拡大が一気に始まりそうだ。

北京と上海は人口減、地方新興都市は増加

 中国経済の中心地でもあり、これまで人材が放っておいても集まって来た沿海部大都市で人口が減少し始めている。北京や上海、広州、深センの4都市(1級都市)では、22年末時点の常住人口(戸籍登録数ではなく、他省からの転入者を含む住民登録数)は前年末比で減少した。そのかわりに、中西部の都市では人口が増加している。増加が多い順にみると、1位は湖南省長沙市、2位は浙江省杭州市、3位は安徽省合肥市、4位は陝西省西安市、5位は貴州省貴陽市、6位は江西省南昌市。これらの都市は東京や大阪のような1000万人前後の人口を抱えている。

 これらの地方都市はこの数年間のインフラ建設により交通アクセスが改善し、生活環境が一変した。地元には長沙の三一重工(建設機械)や杭州のアリババ(ITプラットフォーマー)、合肥のBOE(京東方科技、FPDパネル)などのような大企業があり、雇用も増えた。不動産取得費用は、長沙市の場合は1m²あたり1.1万元で上海の20%の費用で済む。

高速鉄道チケットを5月は満席で予約が難しくなった
高速鉄道チケットを5月は満席で
予約が難しくなった
 住宅購入費用を年収で換算する「年収倍率」では、日本は全国平均で年収の8.4倍。東京は13.4倍、首都圏だと10.8倍、低いエリアの四国や中国地方は6倍前後となる。中国は不動産が高騰し、全国平均で12.4倍と日本よりも50%多い。都市別では深センの36.5倍、上海の35.2倍、北京の29.4倍と、1級都市はおおむね30倍もかかる。単純にいって、30年分の給料すべてを不動産取得費用にあてる(実際は共働きなので15年程度)必要がある。2級都市は13.3倍で東京並み(東京は日本では不動産が高いと言っても、中国では2級水準)。3~4級都市は9.1倍で、日本の地方都市よりは50%増だ。しかし、1級都市と3~4級都市は大きな隔たりがあり、これが地方Uターン就職の人気の原動力になっている。

二極化するテレビ市場

 23年4月の中国のテレビ出荷台数は281万台で、前年同期比で12.9%増加した。22年4~5月は上海などでロックダウン(都市封鎖)があって経済活動が停滞していたので、23年4月の2桁増は当たり前だろうと指摘する方も多いでだろう。しかし、4月は3月比で2.4%増えており、回復傾向が認められたのは明るい兆しといえる。業界トップのシャオミー(小米科技)は4月に販促効果で65万台を売り、回復幅は業界平均を大きく上回った。4月には86型Mini LEDテレビ(1万4999元、約29.4万円)、5月には90インチのゲーミングテレビ(ネットショップとのキャンペーン価格で9999元、約19.6万円)を売り出すなど、スマホが売れない穴を埋めようと必死だ。

 ハイセスやTCLなど中国大手が販売を回復したのに対して、ソニーやシャープ、サムスン、フィリップスなどの海外ブランドが低迷している。中国ブランドの性能と品質が向上し、海外ブランドは以前ほど差別化要素が見当たらなくなった。自動車業界でも日系自動車が中国市場で苦戦していると言われるが、テレビ市場はもっと厳しい事態に追いやられている。

 テレビ市場の回復を受けて、液晶パネル価格も上昇に転じた。21年8月からのパネル価格は1年間ずっと下がり続け、そこから半年間も停滞した。それが23年3月に65型と55型でパネル価格が上昇に転じた。65型パネルは21年8月の293ドルから107ドルに落ちて停滞したが、23年5月には145ドルまで回復。55型も228ドルから81ドルに下落していたが、5月に105ドルに回復した。

 しかし、32型は89ドルから27ドルに落ちて、5月でもまだ32ドルにしか回復していない。43型も139ドルから48ドルに落ちた後、5月は57ドルと回復幅が小さい。ハイエンド製品は価格が回復してきたのに対して、ローミドル製品はまだ停滞している。これはテレビ市場、もしくは中国の消費自体が二極化していることを示している。

 私が上海の自宅近くでよく行く足裏按摩店で聞いた話だが、「昨年(22年)はロックダウンで生活支出よりも収入が少なく、貯金を崩しながら生活していた。今年(23年)は、まず貯金を貯め直さないと...」。いわば、23年はマイナスからのスタートなのだ! 徹底した節約に努めていて、旅行にも行かないという。

15万円台のシャオミーの86型LCDテレビ.jpg
15万円台のシャオミーの86型LCDテレビ
 マクロ経済アナリストの解説では、ゼロコロナ後の中国経済は旅行などの「コトの消費」にお金が使われ、「モノの消費」にお金が回ってきていないということだった。最近は、「日本に旅行に行けるようになったら、為替で割安に美味しいものも食べられるし、買い物もできるから、今はお金を貯めておく」という「理性的な消費」の傾向が認められるという。しかし、これもホワイトカラーを対象にした話で、サービス業従事者たちや低収入層によっては本当に消費の余力がなくなっている。これが今の中国経済の実態なのだろう。

今年も!スマホを買い替えない

 中国の4月のスマホ出荷台数は前年同期比34.4%減の1769万台だった。ロックダウンがあった22年同期よりも下がることは、ほとんどの人が予測できなかった。調査会社カナリスのデータによると、中国の1~3月期のスマホ出荷は前年同期比11%減の6760万台。1位のアップルは3%減の1330万台(ハイエンドは相対的に売れている)。2位のOPPOは10%減の1260万台、3位のvivoは7%減の1130万台、4位のオナーは35%減の970万台、5位のシャオミーは20%減の850万台。

 中国の小売り総額は1~3月期に5~6%増加しているので、スマホのダメさ加減がよくわかる。ファーウェイから分離したオナーは、かつてのファーウェイのユーザーを取り込んで増えていくと思われていたが、独立初期の値引き販売を止めた途端に売れなくなってしまった。シャオミーは格安携帯の販売で伸ばしてきたが、昨今のトレンドは「上層は地味消費、下層は節約と貯蓄」なので、シャオミーの買い替え需要にはつながっていない。

 OPPOはスマホ事業の業績悪化から半導体の開発費負担ができなくなり、5月中旬にスマホ用IC設計から撤退した。中国は国を挙げて半導体の国産化を加速しているが、その最中にスマホ大手が半導体開発から脱落してしまった。それだけスマホ業界がどうしようもない状況にあるということだ。

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シャオミーの低価格スマホ(2.4万円)
 世界のスマホ市場は22年に12.3億台(9%減)に落ち込んだ。その中でもロックダウンを経験した中国は13%減とマイナス幅が過去になく大きかった。23年はその反動もあり微増すると当初は思われたが、毎月の出荷状況は予測を下回り、23年は11.5億台(当初予測から4000万台の下方修正)まで落ち込むのではないかと不安が漂う。「中国市場は22年に2.7億台と落ち込み、23年は回復すると予測していた。しかし、1~5月の状況からみて最終的に何億台になるのか具体的な数字は言いにくい。なんとか2.6億台を死守して欲しい」(中国のスマホ業界のアナリスト)という厳しい状況だ。

 今の中国経済は高度成長が終了し、世界的な景気後退と中国を取り囲む国際情勢の変化に挟まれ、2000年以降の20年間と置かれている立場がまるで変わってしまった。ただし、ゼロコロナ後の消費の回復は期待と比べて不十分だが、巨大な内陸市場と技術力をつけたエレクトロニクス企業が育っているのも事実だ。20~25年の混乱期を乗り越えられない企業は多いだろうが、厳しい時代を超えて強い企業が育っていくだろう。

 新エネ車業界は政策支援があるものの、長年の赤字負担に耐えられるのか? テレビやスマホなどのコンシューマー製品業界は生き残りをかけたイス取りゲームに強制参加させられる。どれだけが生き残れるか? そのためには、中国の内陸市場を囲い込んでいく必要がある。日本企業にとっては23年の中国市場も厳しいが、その先も茨の道が続いていきそうだ。

電子デバイス産業新聞 上海支局長 黒政典善

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