電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第631回

AI向け次世代メモリーに注目


SOCAMM、HBFの登場

2025/12/5

 先端AI半導体の発展に伴い、メモリー市場では「SOCAMM」という新しい市場に注目が集まっている。SOCAMMは、エヌビディアが独自標準で設計したメモリーモジュール。低電力DRAMをCPUの周りに配置し、大規模演算を効率的に処理するように設計された。効率を高めながら費用負担を減らすことが可能で、経済面で合理的として評価されており、HBM比で約2~3割の価格帯で高性能を満たすことができる。高帯域幅ではないが、大容量メモリーの構成が可能で、AI推論、企業用AIサーバーなどでの活用度が高い。

 また、従来のDDRベースのサーバー向けモジュールより電力消費を1/3まで減らすことができると言われる。HBM(高帯域幅メモリー)に続き、LPDDR(Low Power Double Data Rate)の市場拡大が予想され、大手メモリー3社の動きが加速している。直近には各社が低電力DRAMモジュール「SOCAMM2」を公開し、市場参入を本格化している。

 エヌビディアは現在、先端アーキテクチャー「Blackwell」を用いたGPUと、CPUとして「Grace」を組み合わせて提供しており、次世代品には新アーキテクチャー「Rubin」を用いた先端GPUと、「Vera」を組み合わせて提供する。2026年リリース予定で、次世代CPU「Vera」にSOCAMM2を搭載する計画となっている。

 当初はエヌビディアのGB300にSOCAMM1を適用する予定だったが、技術的な問題で新しい規格であるSOCAMM2の導入を推進している。当時SOCAMM1では、マイクロンがエヌビディアの品質テストをクリアし、多くの量を確保したものの、SOCAMM2の導入によって白紙となり、韓国メモリー2社にも大規模供給の機会が生まれた状況となる。

 こうした状況のなか、マイクロンは10月末にサンプルを顧客企業に出荷したと発表した。メモリー3社のなか、SOCAMM2に関する出荷について対外的な公表したのはマイクロンが初めて。

 韓国2社は10月末に韓国ソウルで開催された「SEDEX 2025」でSOCAMM2を公開した。各社SOCAMM2の仕様をみると、マイクロンは容量が192GBで、最大動作速度9.6Gbpsを実現した。韓国2社は、容量はマイクロンと同様で、最大動作速度がサムスンの場合8.5Gbps、SKハイニックスが7.5Gbpasから最大9.6Gbpsまでとなる。動作速度が高くなるほど工程難易度と原価負担が大きくなるため、各社の歩留まりがカギになるとみている。

マイクロンのSOCAMM2(出典:マイクロン)
マイクロンのSOCAMM2(出典:マイクロン)
 現時点ではマイクロンがリードしているとみられるが、サムスン電子も業界最大のLPDDR5Xのキャパを持っており、SKハイニックスもHBM領域での先端技術を生かした発熱制御技術など強みを持っている。これから本格的な市場形成が見込まれており、今後のシェア確保の競争も一層激しくなるとみている。


 AI時代の本格化でHBM市場が好況である一方、HBMの価格高騰や容量限界などの問題を補完するため、HBF(High Bandwidth Flash)という存在も新たに注目を浴びている。HBFは、DRAMを積層したHBMと同様に、NANDフラッシュを積層したもの。HBMの積層技術の限界で大容量チップの製造が難しいという問題から開発が始まった。HBMの場合、速度と帯域幅でAI演算をサポートするが、積層技術の限界で容量拡大が容易ではない。一方、HBFの場合HBMに使われるシリコン貫通電極(TSV)ベースの積層をNANDに適用して帯域幅を高め、容量を拡大する。だが、データ伝送の向上に技術的な限界も存在し、HBMを補完する存在で今後成長していくとみている。

 現在、市場参入に最も早く動いているところはSKハイニックス。SKハイニックスは8月にサンディスクとHBFの仕様を確立するために協業することを発表。SKハイニックスはHBF市場に参入し、競合他社に比べてより早く研究開発に着手し、技術標準を確保することでHBMの成功体験を再現する方針。27年初頭の量産を目指している。また、10月に米国で開催された「OCPグローバルサミット2025」でAIN(AI-NAND)という次世代NAND製品ファミリーを初公開し、AI推論とLLM(大規模言語モデル)など今後のAI活用の拡大に対応するための次世代NAND製品群を準備していると発表した。

 AINは、性能(Performance)、帯域幅(Bandwidth)、容量(Capacity)の側面に最適された様々なNAND製品で今後のAI市場の要求に対応する。特にAIN B(帯域幅)製品群にHBF技術が導入され、AI推論の速度向上と大容量AIデータ処理に適するなど、AIN製品群でAI向けに最適化されたNANDラインアップの競争力を強化している。

 サムスン電子もHBFの研究開発など初期段階に入ったとみられる。NAND市場で圧倒的なシェアを確保しており、市場支配力を背景にHBF領域に本格参入する場合、大きな市場変動が起こると予想される。まだ市場は形成されていないが、高い性能を実現する次世代NAND開発の必要性が高まっていることから、今後技術開発に加速させるとみており、今後の動きに注目が集まる。


電子デバイス産業新聞 編集部 記者 嚴 智鎬

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