半導体製造装置国内最大手の東京エレクトロンが次期成長に向けて投資を拡大させている。2025年だけで国内3カ所(宮城、九州、岩手)で新棟が竣工、筆者も竣工式にあわせて現地に足を運んだ。一企業で1年間に3つの竣工式を経験するというのはもちろん初めてで、今後もおそらくないだろうと思う。
同社は24年度(25年3月期)からの5カ年で研究開発費1.5兆円、設備投資7000億円、人材採用1万人(毎年2000人)を計画している。過去の平均値と比べると水準感としてはかなり高くなっている。25年度は研究開発費3000億円、設備投資額2400億円といずれも過去最高。東京エレクトロン宮城(株)で第3開発棟が25年4月に竣工したほか、東京エレクトロン九州(株)でも新開発棟が10月に竣工した。また、東京エレクトロン テクノロジーソリューションズ(株)でも東北生産・物流センターが11月に竣工。まさに25年は新棟竣工ラッシュと呼べる状況だった。
■大型装置に対応
3月に竣工式を開催した東京エレクトロン宮城(株)(TEL宮城)は、エッチング装置の開発・生産を手がける、東京エレクトロングループの主要拠点の1つ。11年10月の操業開始以来、年々事業規模を拡大しており、今や九州や東北など他の生産・開発拠点と肩を並べる存在になった。
竣工した第3開発棟は23年6月から着工。建築面積約1万6300m²、延べ床面積は約4万6000m²の地上3階建て。第1開発棟、第2開発棟の既存開発棟の開発・評価用CRは平面構造だが、今回の第3開発棟は半導体工場と同じ2層式のCR(クリーンルーム)を採用。サブファブ(補機エリア)をメーンファブ直下に設けることで、CRスペースを有効に活用できる。CR面積は既存棟(第1/第2開発棟の合算)に比べて1.5倍のサイズを誇る。第3開発棟の稼働により、開発・評価量の増加や評価時間の短縮を図り、現行の2倍以上のアウトプット量の実現を目指していく。
第3開発棟建設の狙いについて、TEL宮城代表取締役社長の神原弘光氏は、「装置の大型化に対応する必要」があったという。同社のエッチング装置は、これまで「Tactras」が主力機種であったが、近年は次世代PFとして「Episode UL」の展開に力を入れており、第3開発棟は同PFの開発・評価体制の拡充を目指したものとなっている。「Episode UL」は最大12チャンバーに対応していることもあり、フットプリントや装置高さも従来機種に比べて大型化している。
■CR面積約2倍に
塗布現像装置(コーター/デベロッパー)や洗浄装置などの開発・製造を手がける東京エレクトロン九州(株)(TEL九州)は、建設を進めていた新開発棟「プロセス開発棟」が完成した。TEL九州ではおよそ20年ぶりとなる新棟建設で、これによりCR面積は約2倍に拡張。開発効率も2倍に高めることで開発アウトプットを4倍に引き上げていく。
新開発棟は4階建てで、1階が補機室(サブファブ)、2階がCR、3階がプレナムチャンバー、4階がオフィスで構成されている。CRはクラス1000の超ロングスパン設計が特徴であるほか、CRとサブファブの間に設備展開スペースを設けることで、装置レイアウトをフレキシブルに変えられることも大きな利点となっている。
また、既存エリアの第2工場棟と新開発棟をつなぐ連絡通路も設置。普段着で行き来するゾーンとクリーンスーツで行き来するゾーンを分けた二重構造の連絡通路となっており、これも開発効率向上における大きな仕掛けとなっている。CRは26年春からの稼働開始を見込んでおり、オフィスエリアは11月末から業務を開始していると見られる。
■ハイブリッド型物流拠点を志向
成膜装置の開発・生産を手がける東京エレクトロン テクノロジーソリューションズ(株)の東北事業所(岩手県奥州市)では、建設を進めていた「東北生産・物流センター」が完成、11月に竣工式が執り行われた。新拠点は既存の東北事業所の北側の工業団地「江刺フロンティアパークⅡ」内に建設。24年に着工し、建設費用は約240億円。延べ床面積は約5.8万m²を誇る。生産と物流を掛け合わせた「ハイブリッド型物流センター」をコンセプトとし、1階は物流エリア、2階は生産フロアとなっている。
東北事業所では従来、「モジュールアウト(MO)生産方式」と呼ばれるものづくりを進めている。自社工場で最終組立を行わずに、モジュール単位で出荷、顧客側ラインで初めて最終組立を行うことで、納期短縮を図っている。東北事業所一体にはサプライヤー企業が集積し、同企業が組み立てたモジュールの一部も東北事業所を介さずに、直接顧客側に出荷されるケースもある。
MO方式のカギを握るのが物流だ。これまで、東北事業所およびサプライヤー企業で生産されたモジュールは、県内の大型物流拠点に集結する仕組みとなっており、顧客から発注があった場合、そこから出荷されるという流れとなっている。LT(リードタイム)の短縮ならびに、自社拠点に倉庫や資材エリアを用意せずに済むというメリットもある。
東北事業所では今回、この生産システムをさらに高度化すべく、外部倉庫主体だった物流システムを自社で一部負担していく転換を図っている。
この背景について、まずはトラックの配送などによる手間や時間を、自社の生産拠点に限りなく近づけることで、LTの短縮やドライバーの人手不足解消に対応できるメリットがあるという。またCO2削減など環境問題に対処する目的もあったとしている。
■強さの源泉
また、注目すべきは今回の新棟がいずれも単なる「生産能力アップ」を目的としたものでなく、開発や調達・物流の体制強化に主眼を置いたものとなっている。これこそが東京エレクトロンの独自性・強さの源泉ともいえるところで、他の製造装置メーカーとは一線を画す部分ともいえる。同社はサプライヤーとの強固なパートナーシップをベースに、実際の装置生産は外注企業を積極的に活用するファブレスモデル(特にウエット系装置を主力する東京エレクトロン九州はその傾向が顕著)を志向しており、自社で投資を行うのは近年、開発や調達・物流といった領域が増えている。
電子デバイス産業新聞 編集長 稲葉雅巳