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第633回

2025年太陽光発電10大ニュース、導入量は過去最高水準


PSCの商業化加速、リサイクル技術の提案続々

2025/12/19

 2025年の太陽光発電(PV)の世界導入量は600GWを大幅に超える見通しで、年間の導入量では過去最大を達成する見込みだ。技術開発では、ペロブスカイト太陽電池(PSC)に代表される次世代PVの開発が活発化しており、国内でもPSCの量産工場の建設が本格化している。

 今回は25年の10大ニュースを選出するとともに、26年の市場および技術動向を展望する。

(1)25年のPV導入量は過去最高

 IEA(国際エネルギー機関)の調査によると、24年における世界のPV導入量は601GW(前年比3割増)で、前年から成長率は鈍化したものの、引き続き高い成長を維持した。25年については、上期(1~6月)で380GWが導入済み(Ember調べ)で、前年を大きく上回るペースで導入が進んでいる。

 25年もPVの最大市場は中国で、Emberの調査では、1~6月における中国の導入量を256GWと算出しており、これは世界全体の7割弱に相当する。そして、2位はインド(24GW)、3位は米国(21GW)が続いている。

 SolarPower Europeでは、25年の世界導入量を655GW(ミディアム・シナリオ)と見積もっているが、Emberも25年はPVの導入に関して歴史的な年となると予想している。

(2)PSCの量産本格化

 PSCの商業化に向けて、量産工場の建設が活発化している。積水化学工業は大阪府堺市のシャープ本社工場跡地でフィルム型PSCの量産ラインを建設中で、弾1弾として、27年度に100MWの生産ラインが稼働するが、30年までに1GWの生産体制を構築する。

インクジェットで試作したPSCモジュール(リコー)
インクジェットで試作したPSCモジュール(リコー)
 一方、NEDOプロジェクト「次世代型太陽電池実証事業」に採択されたリコー、パナソニックホールディングス、エネコートテクノロジーズの3社も30年度までにPSCの量産技術を開発し、商業生産を開始する予定だ。高スループット、高歩留まりの製造技術や材料を開発するほか、耐荷重の小さい屋根やビル壁面への設置方法や施工方法を確立することで、PSCの社会実装を目指す。

(3)PSCの市場規模、40年に4兆円

 富士経済がまとめた「2025年版 新型・次世代太陽電池の開発動向と市場の将来展望」によると、40年におけるPSCの市場規模は日本が342億円、世界では4兆円に達する見通しだ。単接合型についてはすでに商用化が始まっているが、タンデム型も30年前後から発電事業用途などでの導入が増えると予測している。

 単接合型の主な用途は、電子棚札やIoTデバイスの組み込み型電源などが中心だが、中国企業はBAPV(建物据付型太陽電池)に注力しており、40年には5割以上がBAPV用途になる見込み。
 中国では地上や屋根設置型の発電事業向けが多いため、中国企業はガラス基板のタンデム型を開発しているが、日本や欧米企業はフィルム型にフォーカスしている。

(4)次世代PV技術が競演

 PSCは次世代のPV技術として有望だが、先行技術である有機薄膜太陽電池(OPV)やCIGSも実用化に向けた開発が進んでいる。OPVは小面積セルで19%超の変換効率を実現しており、欧州で開発が活発化している。日本でもGSIクレオスがOPV事業の立ち上げを表明しており、順調にいけば、28年にも国内でOPVフィルムの生産を開始する予定だ。

 CIGSはスタートアップのPXPが商業化に取り組んでおり、25年9月に開発拠点のスペースを5倍、生産能力を10倍にそれぞれ拡大した。神奈川県を中心に様々な実証実験にも参画している。

 東洋製缶グループはフレキシブルCIGSを開発・製造するEnfoil BV(ベルギー)に出資した。自社の高機能フィルムを提供することで、Enfoilの事業成長を支援する。

 東芝は透過型Cu2Oで変換効率10.8%、結晶Siと組み合わせたタンデム型では26.4%を実現している。Cu2Oの効率が13%まで向上すれば、タンデム型で30%が狙えるとし、EVへの搭載も可能としている。

(5)PSC普及のカギは施工法の確立

 PSCの実用化には、ビルや工場など様々な建造物に対して、容易に設置&交換できる施工法の開発が重要となる。積水化学工業は固定金具を採用したフィルム型PSCの設置工法を開発しており、日揮もフィルム型PSCの施工コストが大幅に削減できる独自の「シート工法」の実証実験に取り組んでいる。

 アイシンは大林組と共同で、交換が容易な施工法を検討している。大林組が開発した「ファスナー取り外し工法」は、PSCシートと通気性に優れたメッシュシートをファスナーで固定するもので、ファスナー部分を連結することで設置面積を容易に拡大できる。今後は長期設置による耐久性の検証などを行う。

(6)タンデム型の競争活発化

 超高効率のPV技術としてタンデム型の開発が進んでいる。中国LONGiはPSCと結晶シリコン(Si)を組み合わせたタンデム型で34.85%の世界最高効率を達成しており、中国Jinko SolarもPSC/Siタンデムで34.76%を達成したことが報告されている。

 中国Tongwei Solar は、テクスチャーを形成した結晶Siセルの上に欠陥が少ないPSCを積層したタンデム型で31.4%の変換効率を実現しており、中国Trina SolarはPSC/Siタンデムモジュール(3.1m²)で最大出力808Wを達成し、世界で初めて、工業サイズのPVモジュールで800Wの壁を突破した。

 国内でもタンデム型の開発が活発化している。25年度からスタートしたNEDOプロジェクト「PV導入拡大等技術開発事業」においてPSCベースのタンデム型の開発を盛り込んでおり、NEDOが公募した「次世代型タンデム太陽電池量産技術実証事業」では、PXPが提案したPSC/CIS軽量タンデムモジュールの開発が事業採択された。

(7)PVパネルを水平リサイクル

 PVの大量廃棄時代を見据えて、PVパネルのリサイクル技術の開発が急務となっている。エヌ・ピー・シーは独自に開発したホットナイフ法(ガラス分離装置)とEVAスクレーパーを組み合わせたリサイクル技術を開発しており、大手ガラスメーカーのAGCやセントラル硝子が同社の装置を用いて分離したPVガラスで水平リサイクルを実現したことを発表している。

 トクヤマは低温熱分解法によるPVパネルのリサイクルを提案している。溶融した樹脂(EVAおよびPET)を触媒担持のセラミックフィルターで回収し、酸化反応を経て完全に樹脂を熱分解できるという。これまでに、PVパネルのアルミ枠、ガラス、銀、銅を原料化できることを確認している。

 産業技術総合研究所はPVパネルのリサイクルとして、HJTセルからウエハーを再生し、再度セル化する技術を開発した。再生ウエハーで作成したHJTセルが新規ウエハーと同等の性能を示すことを確認した。

 さらに、同研究所は水熱処理技術を活用して、PVガラスに含まれるアンチモン(Sb)を抽出する技術も開発している。

(8)インクジェット技術が脚光

 PSCの成膜方法として、インクジェット(IJ)技術が注目されている。ポーランドのスタートアップ企業であるSaule TechnologiesがIJ技術を活用したフィルム型PSCを開発しているが、近年は日本でもIJ技術の提案が増えている。

 パナソニックは独自のIJ技術でガラス基板にペロブスカイト層を均一に塗布し、カバーガラスを貼り合わせることで、ガラス建材一体型PSCを作成している。リコーは複合機で培った有機感光体技術とIJ技術を融合することで、PSCの量産技術の確立を目指している。

コニカミノルタの高耐久IJヘッド
コニカミノルタの高耐久IJヘッド
 コニカミノルタやセイコーエプソンなどのIJヘッドメーカーもPSC分野への参入を表明しており、25年には溶剤への耐久性を高めたIJヘッドの新製品を相次ぎ発表した。また、セイコーエプソンはGosan Tech(韓国)に出資するなど、PSC分野の事業成長を支援している。

 IJ技術を活用した研究開発用装置を展開するマイクロジェットは、コニカミノルタ製IJヘッドを搭載したPSC用塗布装置の販売を開始しており、PV用製造装置を手掛けるエヌ・ピー・シーはGosan TechのIJヘッドユニットを組み込んだPSC用塗布装置の販売を計画している。

(9)ポリSi業界の再編進む

 PVの原材料であるポリシリコン(ポリSi)に業界再編の波が押し寄せている。Bernreuter Research(ドイツ)の調査によると、24年末のポリSiの生産能力は325万tで、中国が93.5%のシェア(PV用では95%)を占めているが、生産能力の急増により、在庫増、販売価格の急落、ポリSi企業の業績悪化、という悪循環に陥っている。

 こうした状況を改善するため、中国の大手ポリSiおよびPV企業33社が減産に合意しており、Reutersの報道では、業界再編の一環として、ポリSiの生産能力の約3分の1を買収して閉鎖するため、中国企業各社が500億人民元(70億ドル)規模の基金創設を協議しているという。閉鎖の規模は100万t規模になる見込みだ。

 これが実現すれば、ポリSiの再編は3度目ということになるが、SolarPower Europeのミディアム・シナリオでは、29年にはPV導入量が930GWまで増える見込みで、ポリSiの生産調整が進んだ場合、28年ごろには逆に需給が逼迫する可能性があるとBernreuter Researchは指摘している。

(10)PVは宇宙でも活躍

 PVの活躍の場が地上から宇宙へと広がりつつある。人工衛星の小型化や低価格化による打ち上げ回数の急激により、人工衛星用のPVセルの供給逼迫が懸念されていることから、放射線耐性に優れ、安価で高効率なPVが求められている。

 日本企業も相次ぎ宇宙事業への参入を表明しており、三菱電機はSolestial(米国アリゾナ州)に出資し、宇宙用PVの開発・製造を強化する。さらに、同社はJAXAの事業に参画し、CIGSのスタートアップ企業であるPXPと連携して宇宙用のタンデム型PVの開発に取り組む。

 出光興産もSource Energy Company(米国コロラド州)と協業し、CIGSを活用した宇宙用ソーラーアレイを開発する。東京科学大学はJAXA、cosmobloomと共同で超小型のソーラーセイル(太陽輻射圧を利用して推進する衛星)を開発しており、セイル上に搭載する薄膜PVの発電実験などを計画している。


電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松永新吾

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