電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第500回

CESで注目集めるXRデバイス


VRは高精細化、ARは製品化に向け開発進む

2023/4/21

CES 2023も盛り上がるXRデバイス

 これまで幾度となく「今年こそは」と言われてきた、アップルのXR(VR/AR/MRの総称)デバイスが、2023年には登場しそうだ(すでに24年かも、という声も聞こえるが)。同社が市場投入したいのは、メガネタイプのARデバイスでは、と長らく噂されてきたが、どうやら最初の「アップルグラス」はHMD(ヘッドマウントディスプレー)タイプのMRデバイスになるようで、筐体としては「グラス」よりもごついイメージが伝わってくる。ともあれ、アップルの新デバイスが発売されれば、市場のゲームチェンジャーとなることは間違いなく、そうなれば、23年はXRデバイスが普及拡大する契機の年となるだろう。

 23年の年明け早々に米ラスベガスで開催されたCES 2023では、22年に引き続きXRデバイスの発表が相次いだ。国内からは、パナソニック・Shiftall(シフトール)とシャープがVRデバイスを出品して話題となった。

 シャープは自社技術を集結した、スマホ接続型のVR用HMDのプロトタイプを開発。VR用の超軽量ディスプレーや、超薄型で明るい近接用レンズといった独自の最先端デバイスを採用するとともに、スマホで培った小型化技術やノウハウを駆使したという。これにより約175gの超軽量を実現し、長時間使用しても疲れにくいようにした。

 これを将来的に製品化していくかは未定だが、発表された画像を見ると、攻めたデザインで近未来的な様子を醸し出しており、同社の遊び心を感じさせる見た目となっている。

 パナソニックは、引き続き「MeganeX(メガーヌエックス)」を出品した。子会社のシフトールが開発を手がかけ、もともと22年中での発売開始を目指していたが、コンシューマー用途(MeganeX)と産業用途(MeganeX Business Edition)の2機種に分け、23年3~4月ごろに発売すると発表した。

 コンシューマー、産業用途も基本性能は同様で、米Kopin(コーピン)社の5.2K(片眼2560×2560=両眼5120×2560ピクセル)/10bit HDR(約10.7億色)対応のマイクロ有機ELディスプレーと、独自開発したパンケーキレンズ(ガラス2枚、樹脂1枚の3枚構成)を搭載し、有機ELならではの黒の表現と、世界最高水準の映像体験を提供するという。

シャープの近未来的なVRデバイス
シャープの近未来的なVRデバイス
 このほかパナソニックでは、スペインのスタートアップのBiel Glassesと共同で開発した視覚情報をサポートするスマートグラスのプロトタイプも公開。使用者が持つ視覚障害に合わせた支援を行うことができるという。

中国TCLはARグラスに注力

 メガネタイプのARグラスの開発は、海外勢が熱心だ。中国のテレビ製造大手TCLは、新しいARグラス「TCL RayNeo X2」をCES 2023に合わせて発表した。23年第1四半期に開発者プロジェクトを開始し、その後商用化を進める計画だ。また、ウエアラブルグラスの「TCL NXTWEAR S」を、23年1月末日から販売開始した。米国では399ドル(推奨価格)、日本では5万9800円(税込み)程度。

 同社は、22年に開催されたCES 2022でも、①ARグラスのコンセプトモデル「LEINIAO AR」と、②ウエアラブルディスプレーグラス(メガネ型端末)の「NXTWEAR AIR」を発表している。

 ①のARグラスは、詳細は不明ながら、光学ホログラフィック導波管技術と、2つのフルカラーマイクロLEDを搭載し、電話やビデオメッセージ、スケジュールやリマインド、ホームセキュリティーなどにアクセスでき、複数の仮想ディスプレーを映ししての作業も可能としていた。「TCL RayNeo X2」は、これをベースにしたもののようだ。

TCLのARグラス「Ray Neo X2」
TCLのARグラス「Ray Neo X2」
 ②は、AR機能は搭載しておらず、スマホなどと接続して大画面で映像を視聴するウエアラブルグラス。1080pのマイクロ有機ELディスプレーを2つ搭載し、4m先に140型のスクリーンを映す。機種の重さは75gで、前機種よりも30%軽量化していた。「TCL NXTWEAR S」は同機種の後継機との位置づけだ。

米Vuzixの超軽量スマートグラス

 米Vuzixも、38gと超軽量な「ウルトラライトスマートグラス」を発表し、CES 2023イノベーションアワードを受賞している。機能は、言語の翻訳、字幕表示、メッセージの交換、作業指示やステータスの表示などだ。スマホもしくはスマートウォッチと無線通信で連携するアクセサリーデバイスという位置づけで、単眼用のウェーブガイド光学系を搭載し、マイクロディスプレーで画像を表示する。1回の充電で約2日間動作可能だ。

 同社では、スマートグラスプラットフォームとして広くOEM展開していく計画で、すでにコンシューマー向けに製品展開するブランドとの協業も開始したという。「主要なコンシューマーテクノロジー企業の、ARスマートグラスソリューションの展開と大衆化加速に役立つ」(同社CEOのPaul Travers氏)と自信を見せている。

イスラエル企業が小型モジュール発表

 ARグラス向けの反射型導波路技術を持つイスラエルのLumusも、「まるで眼鏡」の実現に貢献する小型軽量化した光学系をCES 2023に合わせて発表した。

 同社はこれまでに、Thalesのフルカラーヘッドマウントディスプレー「Scorpion」、外科医向けの「Augmedics xVision」システム、レノボの「ThinkReality A6」、Thirdeyeの「X2 MR Glasses」などに採用され、AR製品の中核となる反射型導波路技術の主要設計者としての地位を確立している。430以上の特許を保有し、さらに540以上の特許を申請中で、AR向け光学系では世界トップクラスの特許保有者となっている。

Lumusの小型モジュール搭載
Lumusの小型モジュール搭載
 新しく発表したのは、第2世代の「Z-Lens2D導波路アーキテクチャー」だ。高解像度で屋外対応輝度を持ち、小型軽量なARグラスの開発を可能にするもので、従来製品の「Maximus 2Dアーキテクチャー」の画質と高輝度効率の利点は維持し、光学エンジン全体を50%小型化した。大幅にコンパクトなAR光学系を実現したことで、眼鏡メーカーが映像の入り口開口部を様々な位置に配置できるため、重量や厚みを削減して自然な外観のARグラスの実現に貢献するという。

VRは次フェーズ、ARは開発着々

 XRデバイス、なかでもVRデバイスは先行して市場を形成しており、主にゲーム市場で確立した地位を築いている。対して、一緒に語られることが多いARバイスは、果たして市場が形成されるのか否か、といった状況だ。

 VRデバイスはゲームを主戦場とすることから、これまでにない超高精細なディスプレーが求められ、開発が進められている。また、パナソニックの発表に見られるように、今後はゲーム以外の市場でどのように普及していくか、といったフェーズに移行している。

 ポストスマホと位置づけられるARデバイスは、「まるで眼鏡」を目指して開発が着々と進められている。しかし、コンシューマー向けに広く普及するためには、顔に乗せても違和感がないものにしなければならないため、デバイスの肝となる光学系だけでなく、バッテリーやドライバー、通信チップなどすべてが小型、軽量、低消費電力化する必要があり、他のXRデバイスよりも開発ハードルが高いと言われている。

 世界で最も普及しているARデバイスを展開するのが、中国のNRealだ。同社が展開するARグラスの「Nreal Light」、「Nreal Air」は、スマホとの有線接続によって映像などを視聴することができる。これを無線化しなければ「まるでメガネ」には到達できないのだが、同社が収集した購入者アンケートでは、意外にも無線化のプライオリティーは高くないという。それよりも、スマホとARデバイスを別々に動作させたいとか、スマホを充電したいといったニーズが高く、それらを実現すべく製品開発を進めている。ARデバイスは、少なくともあと数年は有線で活用の場や市場を広げていくことになりそうだ。

 近い将来、スマホを代替する新デバイスになるかは未知数だが、ウオッチがスマホとの連携品として定着したように、ARデバイスも「身に着けることが当たり前」のデバイスになる日が来ると期待され、各社の開発に余念がない。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 澤登美英子

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