新型コロナの感染が落ち着きを見せ、アフターコロナの時代に入った。こうした中、三井不動産(株)は2023年に国内で都心型商業施設の「東京ミッドタウン」、RSCの「三井ショッピングパークららぽーと」と「三井アウトレットパーク」(MOP)の複合型施設を開業する計画で、商業施設開発の手を緩めない。今後の取り組みを商業施設本部上席主幹の黒田耕弘氏に聞いた。
―― コロナ禍の状況から。
黒田 近隣型の「ララテラス」などの業績が安定しており、社内でもNSC型が見直された。ここ最近では郊外型が回復した感があり、特にMOPの戻りが早かった。ららぽーともコロナ前の19年比まで、あと一歩のところまで来ている。
一方都心型は戻りが鈍かったが、オフィス出勤が戻り、これに伴い22年秋以降は特に飲食店の客数の回復が顕著。物販ではラグジュアリーが好調だ。低価格品でもお客様に訴求しているものは受け入れられているが、中間の価格帯のものはやや苦戦が目立つ。お客様のニーズを捉えて訴求ポイントを定めていくことが重要で、それがコロナでより明確になったと思う。
ECは引き続き好調だが、コロナが収まりつつある中で、リアル施設の体験価値をお客様には求められていることを肌で感じる。
―― 昨年ららぽーと福岡を開業しました。
黒田 我々は街づくりにおいてスポーツに力を入れているが、「福岡」では「パーク」を施設内に9つ設け、その1つをスポーツパークとした。一例として200mトラックを設置し、平日は近隣の中学校の部活などに使っていただいているほか、昨年秋には小学生を対象としたかけっこ教室(限定100人)を実施したところ、大変好評だった。スポーツは、人と人を結びつける力があると改めて実感した。買い物だけならECで済ませられる時代において、いかに来館動機をつくり、長い時間楽しめるか。スポーツは重要な要素だ。
―― コト消費の内容が重要です。
黒田 そのとおりで、コト消費をどう体現していくか。22年11月にオープンした「ららぽーと堺」は屋内型スタジアムコートを設けた。本格的な音響設備やデジタルサイネージを備え、ジャズの演奏やブレイクダンスの大会、eスポーツなどスポーツとエンターテインメントにも対応できる。平日は一般の方の習い事の発表の場としてもご利用いただいている。天候に左右されずイベントが開催できるため大変好評で、予約が先まで埋まっている。
―― 今年も有力な商業施設が開業します。「東京ミッドタウン八重洲」から。
黒田 東京ミッドタウンブランドの3施設目となるもので、オフィス、商業施設、バスターミナル、小学校、ビジネス交流施設、ラグジュアリーホテルなどの機能を有する。
商業施設の特徴のひとつとして、2階に「ヤエスパブリック」という約820m²のパブリックスペースを設けた。11個のコンテナ型店舗などを配置し、その間を自由度の高い共用席が緩やかにつないでいる空間。当社側で基本的なキッチン設備を用意するので、店舗は初期投資を抑えて出店できることから、商業施設に馴染みがないような個性的なテナントを誘致しやすい。
―― 商業はオフィス誘致のカギになりますか。
黒田 ただオフィスに来て働くのではなく、出社すると色々な体験ができることは出社する動機のひとつになるし、選ばれるオフィスとして強みとなるだろう。
―― 「門真」は、初のRSCとアウトレットの“ハイブリッド”型となります。
黒田 近隣に先日、営業を終了したMOP大阪鶴見があり、このエリアにアウトレット需要があることを認識しており、MOP大阪門真に拡張移転することを決めた。一方、RSC立地としてポテンシャルがあることから、ハイブリッドにすることで集客力を高められると考え、名称も「ららぽーと門真・三井アウトレットパーク大阪門真」のWネームとした。規模は全体で251店、うちアウトレットが約100店となる。
―― 第2弾は。
黒田 双方が成り立つ立地であれば可能性はある。
―― JR南船橋駅前で商業開発が活発化しています。
黒田 23年冬開業を目指し「(仮称)南船橋駅前商業施設」に着工したほか、「ららぽーとTOKYO-BAY北館」の一部建て替えを決めた。さらに隣接する「ビビット南船橋」を取得した。これまで「ビビット」との相乗効果を得る取り組みは行ってきたが、今後は「北館」の建て替えに伴う、テナント移転の候補地にもなる。それだけにとどまらず連携をさらに高めることでより施設、エリアの価値が上がる。
―― いずれ面的な開発も。
黒田 その可能性はある。当社の物流施設「MFLP」もあり、(株)MIXIとの共同事業となる大型多目的アリーナも建設中だ。「TOKYO-BAY」も開業して40年以上が経ち、我々が標榜している経年優化がより深化する。この地は我々の聖地でもある。当社は街づくり会社として、住宅も含めて整備していく。
―― 今後の抱負をお聞かせ下さい。
黒田 リアルの価値が再認識され、それを加速させるのが今年。当社はEC事業「&mall」を展開しており、リアルと連携したオムニチャネルの推進を目標に掲げる。&mallで購入された商品は店頭から出荷され、実店舗との相乗効果を発揮している。リアルの価値を発揮できるオムニチャネルに磨きをかけ、商業施設事業をさらに成長させたい。
また、ファッションに関するSDGsへの取り組みを強化する。ファッション業界に対し無関心ではなく、デベロッパーもテナントと共に、そういうことを解決していく姿勢が重要だ。
(聞き手・特別編集委員 松本顕介)
商業施設新聞2489号(2023年3月28日)(1面)
デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.402