電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第516回

東北大学 国際集積エレクトロニクス研究開発センター長(パワースピン(株)代表取締役) 遠藤哲郎氏


スマートウオッチにMRAM
スピントロニクスのArm目指す

2023/3/10

東北大学 国際集積エレクトロニクス研究開発センター長(パワースピン(株)代表取締役) 遠藤哲郎氏
 東北大学/国際集積エレクトロニクス研究開発センター(仙台市青葉区)は、スピントロニクスのメッカともいうべき施設である。MRAMに代表されるスピントロニクスデバイスは、マイコン分野にも踏み込んでおり、パワーデバイスを同時併行で応用開発することで、トータルであらゆる電子機器、さらには自動車、ロボット、AIなどに幅広い用途が期待されている。最近では、メタバース時代の端末として注目されるスマートウオッチのメーンメモリーとして、MRAM搭載が実用化されつつあり、まさにスピントロニクス時代の幕開けが見えてきた。
 今回は、同センターにあってセンター長・教授の要職を務め、大学院工学研究科電気エネルギーシステム専攻教授、電気通信研究所教授の任にもある遠藤哲郎氏にお話を伺った。

―― スピントロニクス融合半導体創出拠点として文科省から選出されました。
 遠藤 この拠点長として私が任命されており、とにかく全力を挙げて取り組んでいく。2021年度から31年度までの長期にわたることであるが、メタバース、5G/6Gの高速通信の時代を踏まえて、圧倒的な低消費電力の半導体を創出しなければならない。また、NEDO事業では、CMOSハイブリッドAIプロセッサーの研究にも取り組んでいる。フィジカル空間における高度情報処理が望まれており、同じ消費電力で100倍以上の演算性能を持つAIプロセッサー/メモリーを作り上げていく。

―― DX、SDGsさらには、メタバースの時代にスピントロニクスはマッチングしますね。
 遠藤 そのとおりだ。そうした時代が来たともいえるし、私たちが先行していた研究に時代が追いついてきたともいえるだろう。MRAMはいよいよスマートウオッチへの本格採用が見えてきた。スマートグラスなどスマホに代わる軽薄短小の次世代端末のキーワードは、とにかく電力消費が圧倒的に少ないことだ。待機電流がほとんどないということも重要だろう。ファーウェイ、サムスンなどのスマートウオッチやスマートグラスには、MRAM応用が大きく期待され、ソニーもMRAMプロセッサーを開発している。8~16MB(メガバイト)まではもう十分にカバーできる段階だ。

―― 政府の半導体支援が強く打ち出されていますが、人材育成も重要ですね。
 遠藤 台湾TSMCの熊本新工場進出で九州シリコンアイランドが再活性化しつつあり、人材育成が問題となっている。半導体産業の集積している東北エリアでも、東北半導体・エレクトロニクスデザイン研究会がスタートし、22年には半導体人材育成サミット2022が開催された。東北には多くの半導体などの電子デバイス企業が存在している。岩手北上にはNANDフラッシュ大手のキオクシアがいよいよ第2工場の立ち上げに着手した。こうした電子デバイスの集積をさらに進めていくためにも、人材育成強化は待ったなしなのである。

―― 戦略的カンパニーであるパワースピンの代表取締役に就任されました。
 遠藤 パワースピンの一大目標は「スピントロニクス時代のArmを目指す!」ということだ。とにかく世界のデファクトスタンダードを取りたい。この会社は、東北大学ベンチャーキャピタルの出資により設立され、資本金は1億円。その後、ジャフコ、三菱UFJなどの出資も相次ぎ、現在では10億円の資金調達に成功している。IPビジネスとして展開していくが、私は最高技術責任者として、また代表取締役としても、この会社の先頭に立っていく考えだ。パワースピンは今後のマーケティング、開発の拡大を狙いに、首都圏の要として、横浜のみなとみらいエリアにブランチを新設したので、優秀な技術者の幅広い集積が進み、人的交流も盛んになっている。

―― MRAMの可能性はさらに広がりますね。
 遠藤 MRAMは容量でいえば4Gb(ギガビット)を達成しており、スマートウオッチに搭載すれば1回の充電で2週間以上は持つという優れものだ。改良すれば10週間持つかもしれない。重要なことはMRAM、パワーデバイス、AIプロセッサー、システムLSIのすべてにわたって開発を重ね、スピントロニクスの力でSDGs革命、メタバース革命に貢献していくことだ。これが東北大学の重大使命であると切に思っている。

(聞き手・特別編集委員 泉谷渉)
本紙2023年3月9日号1面 掲載

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