電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第493回

日本勢から「3D LiDAR」へMEMSミラーなど新たな動き


直近の国内展示会からLiDAR最新動向をリポート

2023/3/3

 2023年に入り、Withコロナの機運が世界的に高まり、国内にもやっと海外から渡航者が訪れる日常が戻ってきた。こうした状況下、23年1月下旬~2月上旬にかけて、リアル会場での展示会イベントが相次いで開催された。

 個人的に、日頃から追いかけているいくつかのテーマについて関心を持ちながら回っていた中で、LiDARに関して3つの動きを感じた。ひとつは、クルマをテーマとした展示会は外資系LiDARメーカーの展示が中心であり、中には国内外の往来がやっと解禁になったことを象徴するように、各社コアメンバーが来日して説明にあたっているケースもいくつか見受けられた。もう一つは、では実際に立ち寄って話を聞いてみると、展示企業の大半は海外を中心に自動車OEMへの採用が決まっているが、日本では産業機器向け、セキュリティー向け、ピープルカウンティングなど車載以外の用途での引き合いや商談が多い実態も見えてきた。ただしこれは、自動車メーカーやティア1メーカーとの商談は本社マター、かつ水面下で進められているケースが多いことも想像され、代理店ベースや日本法人ベースで関連するビジネスが少々異なることも推測される。そして3つ目は、センサー関連の展示会から、日本勢の息吹が感じられたことだ。今回は直近で出向いた展示会の中から、LiDAR関連に焦点を絞って振り返ってみる。

日本勢もLiDAR関連で健闘

 ここ数年、自身がこのLiDARをテーマに本コラムを執筆させていただく際、外資系LiDARメーカーのトピックが中心になりがちであったことに気付く。実際に、車載関連展示会では外資系LiDARメーカーの展示品が目立ち、後述のとおり、自動車OEMメーカーに3D LiDAR採用が決まったことをアナウンスしているLiDARメーカーは海外勢がほとんどだ。日本では、22年2月にパイオニアが3D LiDAR開発から撤退を表明する動きがあり、筆者も直接取材をさせていただきながら、その活躍を楽しみにしていただけに、この報を耳にした時は非常に残念だったことを思い出す。

 ところが今回、「MEMSセンシング&ネットワークシステム2023」((株)JTBコミュニケーションデザイン主催、23年2月1日~3日開催)で、2020年までパイオニアグループだったYITOAマイクロテクノロジー(株)(旧パイオニア・マイクロ・テクノロジー(株))が、「電磁駆動型MEMSミラー」を展示しているブースに遭遇したのだ。思わず立ち寄り、お話をお聞きしてみると、パイオニア製の3D LiDARにも搭載されていた実績を持つMEMSミラーの後継モデルであることがわかった。

YITOAマイクロテクノロジーの「電磁駆動型MEMSミラー」展示品
YITOAマイクロテクノロジーの
「電磁駆動型MEMSミラー」展示品
 同社は2軸ミラーの大型サイズ(ミラーサイズ:Φ3.6×4.0mm/パッケージサイズ:24×22×6.6mm)と小型サイズ(同順にΦ0.9×1.0mm/12×10×6.6mm)をラインアップしており、両者とも二次元に光をスキャンすることができるため、ディスプレーや計測などに幅広い活用が可能という。特に、前者は3D LiDARなどの計測用途向け、後者はHUD(Head Up Display)などの映像用途向けへの搭載を想定している。2軸ミラー大型サイズ品の対象波長は905~1550nmで駆動周波数は1100Hz、光学的振れ角は±33°、2軸ミラー小型サイズ品は対象波長400~700nmで駆動周波数2万7000Hz、光学的振れ角は±27°が基本仕様としている。すでにサンプル品の出荷を開始しているといい、元パイオニアグループで車載グレードにも精通している点も強みとなりそうだ。

 そして日本勢でもう1社、京セラが「大口径MEMSミラー」として圧電式MEMSミラーの開発品を展示している場面に遭遇した。隣りには、京セラ独自開発の「カメラ-LiDARフュージョンセンサ」(開発品)も設置されていた。「LiDARを作るためにMEMSミラーを開発した経緯がある。光学系制御から回路までサポートや提案が可能」(説明員)だという。

京セラの「大口径MEMSミラー」展示品
京セラの「大口径MEMSミラー」展示品
 世界最大サイズと自信を見せる大口径MEMSミラーサイズはΦ7.5×4.0mmを誇り、共振周波数はH2500×V500Hz、ラスター走査時で機械振り角はH±4×V±1.25°。その他、Φ5mm品(同順にH2000×V800Hz、H±8.5×V±1.25°)、Φ6mm品(同順にH2000×V800Hz、H7.5×V±1.25°)も展示披露していた。いずれも駆動電圧は30V未満、駆動モードはラスター走査に加え、V軸の振り角が向上するリサージュ走査があり、使用温度範囲はマイナス40℃~+105℃(2024年には最大温度125℃へ向上予定)。ミラー材料はAl(アルミニウム)、Au(金)のいずれも可能だという。また、京セラのお家芸のセラミックパッケージでMEMSミラーを封止することで、耐久性も高いとする。高速高精度な圧電2軸走査、独自のMEMS加工プロセス、ハーメチック技術採用なども特徴としている。


 ちなみに京セラは、2023年1月20日に同社中山事業所(横浜市)内の中山テストフィールドで、展示の「カメラ-LiDARフュージョンセンサ」など京セラの車載関連開発技術搭載車両を用いたデモンストレーションを実施するなど、自動運転に向けて着々と開発を進めている。

 先ほどのYITOAマイクロテクノロジーといい、京セラといい、車載グレードのLiDAR開発に精通したMEMSミラーを国内外に展開できる実力を有し、かつその関連技術まで含めた提案・サポートも可能であることが把握できた。

 こうした展示品に出会い、日本勢で3D LiDARを製品化、もしくは開発中のメーカーの顔ぶれは現在どうなっているのだろうか、と思いながら自身で把握できている範囲でリスト化してみたところ、表のような陣営が開発や取り組みを推進中であることを改めて認識した。


 車載向け以外の産業機器向けや監視セキュリティー、AGVなど様々な用途へ展開している(展開を見据える)メーカーも含まれるが、日本勢も健闘していることがわかる。LiDAR向けデバイスでも、今回はMEMSミラーに遭遇したが、これまでの電子デバイス産業新聞本紙や本コラムで報じてきたとおり、受光素子でソニー、東芝、浜松ホトニクス、車載向けLiDARではデンソーがSPAD LiDARの開発を推進しており、今後の展開が注目される。

重要デバイス自社内製で躍進の外資系LiDARメーカー

 一方、「オートモーティブワールド2023」(RX Japan主催、23年1月25日~27日開催)では、外資系LiDARメーカーの展示品が目立った。筆者が目にした範囲では、Continental Autonomous Mobility Japan /AEye Japan(以下、Continental/AEye)、米Luminar(コーンズテクノロジーの展示ブース)、米Ouster(岡谷鋼機の展示ブース)、Innoviz Technoloties(イスラエル)、LS LiDAR(カンタム・ウシカタ取り扱い)が展示披露されていた。ちなみに、昨秋に名古屋で開催された「オートモーティブワールド2022」(RX Japan主催、22年10月25日~27日)では、米Cepton、RoboSense(中国)も展示披露していた。これらの外資系LiDARメーカーは、従来の報道のとおり、すでに24~25年あたりから各自動車OEMメーカーへの搭載シナリオが見えているグループが大半であり、前回の筆者執筆の本コラムから大枠の動向に劇的な変化はない。

 ただし、Innoviz Technolotiesは海外のコアメンバーが来日し、2023年年明けに米国ラスベガスで開催のCES2023で初披露した「Innoviz 360」(23年前半のサンプル出荷予定)、最新の「Innoviz Two」を日本で初披露していた。「Innoviz Oneでは4つのレーザーによるスキャニングでイメージが4つに分かれがちだったが、Innoviz Twoでは統一イメージが可能になり、圧倒的なレゾリューションを実現できる」とアジア地域のVPであるDavid Oberman氏は力強く語っていた。角度分解能が、Innoviz Oneの0.1°×0.1°に比べて4倍の0.05°×0.05°まで向上したことがこのレゾリューションの背景にあると感じた。

 FOV(Field of View)のV(垂直)がInnoviz Oneの25°から43°に向上したことで従来の250m先から300m先まで検知距離が延伸。技術は維持しつつ部品点数を減らすなどの工夫により値段も6割ほど下がる見込みだという。同氏は、信号処理ASICチップ「Maui」、ミラー、ディテクターをすべて自社で開発・設計している点も強みとして挙げた。なお、チップ製造は外部委託しているもよう。Innoviz Oneはティア1の米Magnaとも連携しているようだ。ちなみに、日本では建設関連大手の大林組が最新のクレーンシステムにInnoviz製LiDARを採用したほか、日本郵便の配達車両にInnoviz Oneを搭載する計画が22年7月にサンフランシスコで公表されている。

 Luminarもまた、2022年第2四半期に買収したCivil Mapsの代表者が来日し、他社のようにGPSなどを介することなく、Luminar製LiDAR搭載車から取得される点群データを自動的に更新しながら高精細3Dマップを構築できる優位性を説いていた。以前から筆者の記事でも触れているが、同社は製造まで含めて内製化の動きを強めていることで知られる。

 2017年にカスタム信号処理チップを得意とするブラック・フォレスト・エンジニア社を買収、21年にInGaAsチップ製造を担うOptoGrationを買収、22年には高性能レーザーメーカーの米フリーダム・フォトニクス社を獲得、そしてCivil Maps獲得により3Dマップの領域も自社でマネージできる体制が整ったことになる。最大検知距離は600mを誇る。Volvo Carsの最新車両「Volvo EX90」がルーフラインに「Iris LiDAR」を標準装備するほか、上海汽車集団(SAIC)がRising Auto R7にLuminar製LiDARの搭載、Mercedes-Benzとも将来の乗用車向け高度自動運転技術開発でパートナーシップを締結するなど着々と車載向けでの採用事例が公表されている。ちなみに、日本でも日産自動車がLuminarと共同開発中の次世代LiDAR開発を2020年代半ばまでに完了させ、2030年までにほぼ全新型車搭載を目指していることも明らかになっている。

会場でデモ実演し日本市場へアピールの動きも
 これらの事例は自動車向けに採用シナリオがある程度見えているグループであるが、日本でビジネス展開することを想定した場合、各ブース説明員に話を伺ってみると、引き合いの多くは産業機器向けや監視セキュリティー用途などとの声が聞こえてくる。車載向けは自動車メーカー、ティア1本社との間で進められる商談であることや、実際の搭載までにどうしてもタイムラグが生じることから、手堅いビジネスを模索する動きと推察することもできる。今回の展示でも日本での新規需要開拓に向けて、3D LiDARの使用メリットを来訪者にわかりやすくアピールする事例も見られた。

Continental製「HRL131」使用のデモ実演画像
Continental製「HRL131」使用のデモ実演画像
 たとえばContinental / AEyeブースでは、従来公表済みのContinentalが24年量産に向けてAEyeと共同開発中の長距離MEMSスキャニングLiDAR「HRL131」を展示ブース上部に設置したデモ実演も日本で初披露していた。発信部1個/受信部2個構成で広角125°×25°、ROI(望遠レンズ)25°×8°、角度分解能が最大0.05°(水平)×0.075°(垂直)という性能を可能とするHRL131で展示会場をセンシングした点群データ画像をリアルタイム表示した。写真のように、フォーカスしたい部分をより詳細にイメージングできていることがわかる。なお、HRL131では最大検知距離を500mとするが、今回のデモ実演では画角120°とし、距離レンジ200mとしていた。

 同様に、AEye単独で製品展開する3D LiDAR「4Sight M60」も同様に展示ブース上部に設置し、Seoul RoboticsのLiDAR向け認識ソフトウエアを用いて人間の部分をよりわかりやすく表示したり、移動の軌跡を点線で追うなどの絵作りができることを示していた。同社LiDARは受光用チップに日本メーカー品を採用するなど日本も重要なパートナーとして重視しており、コンチネンタルの車載向けの動きとは別の角度で幅広い用途へ拡販活動を進めている。ちなみに、コンチネンタルは「HRL131」のルーフ組み込みタイプ品も日本初公開していた。

 別の事例では、中国のLSLiDAR製LiDARも独自開発の1550nm光ファイバーレーザー器を用い、最大測定距離500m(反射率10%時で測定距離250m)の3D LiDAR「LS128シリーズ」を展開しており、駐車場の管理や、高速パーキングなどで活用され始めているようだ。カメラよりも視野角が広く、夜間や悪天候でも数百m距離の検知が可能なため、カメラ台数が減らせるなどの利点もあるという。

 今回は直近の国内展示会で展示されていた各社展示内容を紐解きながらレビューを含めて振り返ってみた。前段で触れたとおり、国内勢から部品・デバイスを含めた新たなアプローチが出てきていることは注目される。一方で、海外勢では自動走行を見据えた技術革新が進み、徐々に採用シナリオが表面化すると同時に、産業機器向けや監視セキュリティー、交通監視、ピープルカウンティングなど、様々な用途開拓を探る動きも激化している。そこにはLiDARのみならず、各種赤外線、レーダー、可視光カメラの技術進化などあらゆる製品群との競争も待っている。それぞれの技術が優位性をどのように発揮し、全体最適の中で技術進化を遂げていくのか。日本勢の動きにも注目しながら、今後の動向を注視していきたい。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 高澤里美

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