国立循環器病研究センター(国循、大阪府吹田市)は、11月18日、「5センター設置で国循が目指す新しい循環器医療の姿」と題し、記者懇談会を開催した。弁膜症(SHD)、成人先天性心疾患、不整脈、先進心不全、メディカルゲノムの計5つのセンターを設置する。
左から大津欣也氏理事長、飯原弘二院長
大内秀雄氏、草野研吾氏、泉知里氏
山口修氏、山本一博氏、藤田知之副院長
現在の国循は、大津欣也氏理事長の下に研究所(望月直樹所長)、病院(飯原弘二病院長)、オープンイノベーションセンター(OIC)(宮本恵宏センター長)を設置し、ニューズウィーク誌『World’s Best Specialized Hospitals 2023』の心臓血管内科部門で世界15位、アジア1位、心臓外科部門で世界25位にランクされるなど、世界トップクラスの評価を得ている。
大津理事長は、従来の診療の枠組みでは十分な対応が困難な病態の患者が増えており、また、循環器領域においてもゲノム医療が期待されるが、スタートしたばかりであり、社会実装を見据えた一段の取り組みが求められているとし、今回の5センター設置の意義について、(1)高い専門性を持つ各診療科が横断的に連携することにより、世界をリードする医療を提供する、(2)研究所、オープンイノベーションセンターといった資源を生かし、新規医療技術を積極的に開発する、(3)国循初のエビデンスにより、将来の新たな診療指針の提案および構築に繋げる、(4)教育、人材育成を行い、ナショナルセンターの使命である循環器医療の均てん化に貢献する、(5)専門性の高いメディカルスタッフ(コメディカル)を育成し、自立したチームづくりに繋げる、(6)循環器領域のゲノム医療を、がん領域と並ぶゲノム医療のトップランナーとすることを説明した。
弁膜症(SHD)センター(山本一博センター長)には、小児循環器内科、心臓外科、冠疾患科、心不全科(病院)、メディカルゲノムセンターが参加する。弁膜症は、日本における心不全の原因の25%を占め、65歳以上の約10人に1人が罹患し、また、カテーテル治療といった低侵襲治療法が急速に進歩・普及している領域である。国循にではすべて(6種類)の低侵襲治療が可能で、これは全国に4施設がある。また、国循では透析や人工弁不全患者へのTAVIも可能である。
弁膜症センターでは、これまでの最先端医療を取り入れることで低侵襲治療の可能性を探ることを継続し、また、治療効果予測シミュレーションに基づく個別化医療の確立、治療戦略の提案、さらに、新規素材、設計により抗凝固薬を不要とする人工弁の開発(特許申請中)など新しい治療デバイスの開発に取り組む。
成人先天性心疾患センター(大内秀雄センター長)には、小児循環器内科、小児心臓外科、産婦人科、不整脈科、肺循環科、心不全科、移植医療部(病院)、メディカルゲノムセンターが参加する。先人先天性心疾患(ACHD)とは、先天性心疾患をもちながら成人(18歳以上)した患者で、国内の患者数は100万人超と目される。国循のACHD外来の20年の患者数は成人が5118人、小児4172人で、この受診者数は欧米の主要施設と同等である。また、ACHD患者の妊娠・出産が増加傾向にある。センター設置により、関連診療科や領域と連携し、ACHD診療を統一化するとともに、腸内細菌叢と病態の解明や脂質異常と病態といった研究(ACHD病態の解明、多施設共同研究、研究所との共同研究)、診療(移行期医療と診療科の連携円滑化、カテーテル治療・新規薬物治療・移植医療といった先進医療の促進、治療と管理の質向上)、教育(全国からの研修医の受入れ、看護教育)を加速する。
不整脈センター(草野研吾センター長)には、小児循環器内科、小児心臓外科、心臓外科、不整脈科、心不全科、移植医療部(病院)、メディカルゲノムセンターが参加する。かつては不整脈のみを治療していたが、近年は、様々な病気が不整脈の原因となり、また、不整脈が様々な病気を引き起こすことから、不整脈は『治療の時代から、心不全予防及び重症化予防の時代』にシフトしており、そのため、関連診療科とのセンター化が重要となった。ここ数年は700件以上と、日本有数のアブレーション症例数を誇り、日本最多級の専用室3部屋を保有し、施行医は約20人在籍している。
心臓植え込みデバイスの埋込み数は全国トップを誇り、センター化により各専門家の綿密に連携した確実な診療が可能となるとしている。また、若年突然死に関連した遺伝子検査の施行、迅速な現場へのフィードバックなど、遺伝学的検査によるPrecision Medicine(個別医療)の時代を先取りする。不整脈・心筋症に関する国内最大級の遺伝学的検査、最先端医療を提供するとともに、日本人のエビデンスの構築、世界中の研究者との共同研究、国内外最先端施設との共同研究を進める。
先進心不全センター(泉知里センター長)には、小児循環器内科、小児心臓外科、心臓外科、冠疾患科、不整脈科、肺循環科、心不全科、移植医療部(病院)、心不全病態制御部、人工臓器部(研究所)、メディカルゲノムセンターが参加する。新規心不全患者は、高齢化とともに増加し、現在では年間35万人に上るとみられる。また、心不全患者の平均年齢は81歳(男性52%)で、入院日数17日、入院費用は約90万円であり、心不全は社会全体で取り組まなければならない課題となっている。国循では、薬物治療からデバイス治療、移植医療、緩和ケアまで包括的な心不全診療が可能である。センターの展望として、高スループット薬剤スクリーニングを活用し、iPS細胞由来の心筋細胞を用いた新規治療薬の探索のほか、体外設置型空気圧駆動拍動流補助人工システム(NCVC VAD)、対外設置型遠心血液ポンプ連続流補助人工心臓システム(BIOFLOAT-NCVC)といった人工心臓、T-NCVC coating(ヘパリンコーティング)、BIOCUBE(膜型人工肺)といったECMOなど、今後もデバイスの開発を進める。
メディカルゲノムセンター(山口修センター長)は、病理部、移植医療部、心臓ゲノム医療部、血管ゲノム医療部、内分泌代謝ゲノム医療部、ゲノム医療支援部(病院)、分子生物学部、病態医学ゲノム部、心不全病態制御部、先端医療技術開発部、医学統計研究部(研究所)、バイオバンク、創薬オミックス解析センター(OIC)が参加する。ゲノム医療は、予測、予防、診断、治療まですべてをカバーすることができる。センターの目標として、臨床診療における精密医療の推進(早期診断:予防・発症・予後、未診断疾患の原因同定)、基礎医学・臨床開発への貢献(基礎・病態解明、新規診断法・治療法の開発)、ワンストップ型システムの構築(先進的システム:機器・インフォマティクス、効率的システム:部局間ネットワーク連携)を掲げ、全ゲノム医療の推進に貢献するとしている。また、ナショナルセンターバイオバンク・全ゲノム解析実行計画への参画や循環器領域ゲノム診療コンソーシアム・解析プラットフォームを構築する。
(編集長 倉知良次)