(株)Hi-stand(東京都目黒区)は2013年の設立以来、飲食店の運営や商品開発、人材紹介と飲食にまつわる事業を総合的に手がけてきた。そして、7月に通例の飲食街の作り方とは異なる戦略をとった「浅草横町」が誕生した。空中階ながら集客に成功し、初動は見込みの約2倍の売り上げを達成し、今後のインバウンドの集客にも期待を寄せる。同社代表取締役の戸田博章氏に話を聞いた。
―― まず事業概要から。
戸田 主には飲食にまつわることを行っている。運営や経営をはじめ、コンサルティング、商品開発、人材紹介など多岐にわたる。“地域活性プロジェクト”とも表現できるかもしれない。
―― 7月に浅草横町がオープンしました。
戸田 東京・浅草にある商業施設「まるごとにっぽん」4階の約300坪に8店を構える横町として開業した。焼き鳥、寿司、鰻、韓国などの業態があり、若者やインバウンドを意識した内装や店を誘致したのが特徴。これまで飲食街を作っていく際は、ターゲットを決め、単価を決め、場所を決めるのがセオリーだった。しかし、浅草横町は全く逆のセオリーで作り上げた。
まず、駅から距離のあるビルの4階に出店依頼があった。従前、少し苦戦していたと聞いており、目の前には場外馬券場があるなど他社は断るような案件だと思ったが、この条件で成功できれば面白いと思い引き受けた。ここから誰に向けた店づくりにするかを考えた。街を見渡して気づいたのは、着物を着て歩く女性が多いこと。彼女たちは浅草に写真を撮りに来ている。そこで彼女たちをターゲットにフォトジェニックな場所にし、食だけで集客を見込まないスポットとした。
そのため、横町内で着物レンタルや写真が撮れるフォトジェニックな場所が揃うようにした。こうすることでSNSに上げる写真が横町内で完結する仕組みを作った。また、SNSに投稿したくなる動きがあるメニューや韓国料理を誘致した。この方法は本来のロジックと異なるやり方となった。
―― 店づくりのこだわりについて。
戸田 本来16店が誘致できるスペースに8店の誘致を行った。内装はネオンなどを使用し、若者が立ち寄りたくなる雰囲気を重視した。「店舗数を増やすべき」「内装も少し落ち着かせては」などの声もあったが、ターゲットがはっきりしていたのでそのまま進行した。結果として狙いどおりの客層を集客することができた。飲食なしでも来店したくなる内装としてフォトジェニックな場所を作ったのもこだわりの一つ。
―― とはいえ空中階です。どのように発信したのですか。
戸田 インフルエンサーを100人呼んで「#浅草横町」を付け、SNS投稿して一番フォトジェニックに撮れた人にアンバサダーを務めてもらう企画を行った。この企画を経てアンバサダーに選ばれた人力車の女性車夫が、人力車で街を案内する際に浅草横町を勧めてくれ、より周知につながった。アンバサダー誕生も重要だが、100人のインフルエンサーが浅草横町のことを拡散した場合、どうなるかを実験してみる目的もあった。実際に、インフルエンサーの投稿を見た人がまたSNSに投稿してくれるなどと想定以上の広まりに驚いた。
―― 様々な施策が功を奏しました。
戸田 オープン前に見込んでいた初動売り上げは3500万円だった。だが、蓋を開けてみると来店者は初動2万6000人、売り上げは7500万円を記録し、予想を上回るスタートとなった。実は約60%が飲食なしの来店で写真のみを撮りに来る。写真のみを撮りに訪れた人を含めると来店者はもっと多い。浅草横町の場合、写真のみの来店でも十分だと考えている。飲食してもらうことが重要ではなく、「浅草横町」という場所を広めてくれることが重要なのでSNSなどでの拡散が行われれば、投稿を見た他者の来店につながるからだ。
今後、インバウンドの占める割合は全体の3割を想定している。オープンから数カ月経ち、来場者は約2万人と若干客足は落ち着いてきたが、10月からインバウンドの集計が加わるので期待したい。
―― SNSの活用が成功したのですね。
戸田 ただ、飲食で集客することも大切なのでインバウンドに向けては寿司や鰻を、若者に向けては韓国料理を誘致した。客単価は約2500円とちょい飲みでの来店が多い。そこで、他の横町では数回の来店を見込んだメニュー設定だが、浅草横町はメニュー数を絞り、より多くのメニューを一度に注文してもらい、SNSに上げてもらえるように工夫した。
また、常連が集まる場所ではなく、常に新規の来店を呼び込む施設を意識した。これまでの集客は口コミなどの「耳で伝え聞く」ものだったが、今はSNS投稿を見て「目でおいしいを感じる」ことが来店動機になるからだ。0から1を作り出すことが重要で、外に情報が回れば1から100はおのずと見えてくると考えていたため、このような戦略に至った。
―― 今後の抱負を。
戸田 今回、空中階で集客できたことは大きな成果だと考えている。通常と異なる方法で着手した横町は前例がない分、難しくも楽しんで進めることができた。飲食店・空中階・広いテナントで成功できた事例はまだあまりないからこそ、新しいビジネスモデルを構築できたと思う。このパッケージが商品価値の向上につながり、ほかの案件にも生かしていけたら。今後は、浅草横町のパッケージを横展開していきたい。
(聞き手・編集長 高橋直也/鈴木さやか記者)
商業施設新聞2473号(2022年11月29日)(8面)
経営者の目線 外食インタビュー