電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第480回

日系電子部品の土壌は万全


高付加価値・高信頼領域で世界に先行の底力

2022/11/25

 11月上旬に舞い込んだ、2nm世代以降の最先端プロセス半導体国産化へ新会社「Rapidus株式会社」が設立されたという一報。現状、国内では40nm世代品の生産にとどまっている日本(TSMCの熊本進出時には20nm世代品生産も実現予定)にあって、5年後に世界最先端プロセスで量産化を実現することは至難の業と思えもするが、日本でも本腰を入れた半導体強化策が動き始めた事実は大歓迎であり、素直にエールを送りたい。

 さて、このニュースを知った際、半導体が最先端へ挑戦し、それを成し遂げるにあたり、日本にはその半導体の活躍を支える電子部品の土壌が万全に整っていることに思いが至った。半導体と電子部品は一心同体の関係にあり、どんなに最先端の半導体が製造されたとしても、その半導体が最大限の能力を発揮するには周辺で支える電子部品が不可欠なのだ。この国権をかけた最先端プロセスの国産化には、電子部品の技術進化もカギを握る。日頃の取材活動を通じて、日本の電子部品メーカー各社は半導体の進化を支え続ける土壌がしっかりと確立されていると実感できるものがある。

日系電子部品メーカーは世界で存在感

 半導体が注目されがちだが、JEITA(電子情報技術産業協会)公表資料では、21年電子部品世界生産額に占める日系企業割合は約34%(9.5兆円)を占めており、世界の中で一定の存在感を堅持し続けている。ちなみに、同公表資料における21年半導体生産額に占める日系企業割合は約9%(5.2兆円)である。

 電子デバイス産業新聞の調べでは、国内主要一般電子部品メーカー30社の2022年度設備投資総額(電子デバイス産業新聞調べ)は1.6兆円強、このうち上位4社のTDK、村田製作所、京セラ、日本電産が各1000億円超の投資、上位7社(TDK、村田製作所、京セラ、日本電産、太陽誘電、アルプスアルパイン、日本航空電子)合計で1兆円超という大型投資を断行しているのだ。中長期を見据えて、半導体の進化に追随すべく企業努力を自ら進めており、先端半導体を支え続けていく電子部品各社の覚悟が再認識される。

「高付加価値・高信頼」領域で先行

 電子部品と一言で言っても幅広く、コンデンサー、インダクター、抵抗器、コネクター、水晶デバイス、モーター、センサー、ヒューズ、各種センサーなどなど、その種類は枚挙にいとまがない。そのため、日頃の取材活動はあらゆるジャンルに及び、浅く広くになってしまうわけであるが、しかし日系電子部品各社の目指すべき方向性、差別化点で共通のキーワードとして挙がるのは「高付加価値・高信頼領域で勝負し続ける」であることは確かだ。そして、「常に先行し続ける」という言葉も各社から共通で聞かれる。こうした気概が、日本の電子部品メーカー各社には強く根付いている。

 半導体の歴史が物語るように、技術や製品で先行しても、常にアジア勢などの台頭で気が付けばシェアが塗り替わるという構図が繰り広げられてきた。半導体のみならず、電子部品でも中国が国策で動き出しているというような話も耳にする。こうした中、当然、電子部品各社もアジアを筆頭に海外勢の動向も注視しているわけであるが、そうした中でも「圧倒的に技術で先行し続ける」という各社の強い信念は揺るがない。

材料から装置まで各社各様のノウハウが強みの秘訣

 では、その強さ、その自信の背景は何なのだろうかということが、電子部品メーカー各社の取材にも携わるようになってからずっと気になっていた。電子部品は奥が深く、まだその核心にはたどり着けていない段階ではあるが、明らかに現状でわかったことは、材料段階から各社各様のノウハウがあること、そして製造装置も各社各様にオリジナルで設計・製造しており、製造工程も各社各様という事実だ。材料設計・配合はまさに匠の世界であり、ほんのわずかの配合差でまったく違う性能に様変わりしてしまうなど、容易に真似のできるものではない。

 積層セラミックコンデンサー(MLCC)を例に取れば、1μm以下の非常に薄い層を数百層も積層する、それも微妙な調整が加わっていたりするという、もはや理解の領域を超えるノウハウが詰まっているのだ。水晶デバイスでもインゴット育成段階からノウハウの塊である。さらに製造工程も全体最適の中で構築されるという独自性が肝となっている。

 そこに介在する装置・設備メーカーも、半導体のように各分野で大手製造装置メーカーが確立されているのと異なり、時には地方に根差した製造装置・設備メーカーが電子部品メーカーと二人三脚ですり合わせながらカスタムの製造装置・設備を創出するという世界なのである。電子部品メーカー各社が、独自の装置・設備、独自の生産工程を確立している事実はほぼ共通と言える。この各社の実力値をもってすれば、数の論理で価格勝負の領域にアジア勢が台頭しようとも、高付加価値・高信頼領域で先行し続けていける日本勢の強さの秘訣を垣間見ることができる。

中長期を見据えた研究開発も強化

京セラ「きりしまR&Dセンター」3階「ほとり」の自由な交流環境
京セラ「きりしまR&Dセンター」3階
「ほとり」の自由な交流環境
 一方、最近では自ら新市場創出に挑もうと、自治体や異業種を含む各企業、大学などとコラボレーションし、長期的視点で研究開発を推進しようとする姿勢も目立つ。筆者が直接関与した事例だけでも、2020年12月に内覧会に参加した村田製作所の新研究開発拠点「みなとみらいイノベーションセンター」(横浜市みなとみらい21地区)、2020年11月に業務を開始した太陽誘電の新研究開発拠点「新川崎センターの『SOLairoLab(そらいろラボ)』」(かわさき新産業創造センター「AIRBIC(エアビック)」内)、直近では2022年10月上旬に訪問した京セラ鹿児島国分工場の新研究開発施設「きりしまR&Dセンター」など大型事例が目白押しだ。未知なる未来に向けて、他社・他機関・自治体などとの協業・共創を通じて、まだ見ぬ新規市場を創出していこうとする電子部品各社の姿勢には学ぶべきところも多い。

各ソリューションへ訴求する製品提案

 実際に、久方ぶりにリアル開催となったCEATEC2022(10月18~21日開催/幕張メッセ/JEITA主催)でも、そんな各社の積極姿勢を垣間見ることができた。1つは各社が各領域で各ソリューションへ訴求した展示を披露していること。もう1つは、独自の強みからエンドユーザーニーズをくみ取って自ら新たな技術を創出、デモ展示して市場に問うている姿勢などである。

展示会には電子部品各社ソリューション展示も満載(CEATEC会場より)
展示会には電子部品各社ソリューション
展示も満載(CEATEC会場より)
 たとえば、太陽誘電ブースでは、「おもしろ科学で より大きく より社会的に」をミッションに、同社推進中の各ソリューションのキーワードを頭文字にカルタ形式で同社社名「た」「い」「よ」「う」「ゆ」「う」「でん」と紐づけて展示。具体的に「でん」では、「電(でん)気を貯めながら走れるのだ」として、環境・健康に貢献するスマートモビリティー事案として「回生電動アシストシステム」を搭載した自転車を展示披露していた。前輪搭載のモーターで発生する運動エネルギーを回生ブレーキで電池に戻して再利用する仕組みを特徴としているようだ。コネクター大手の日本航空電子工業も同様に、「今回は社会価値の創出を目指す5つの重点領域で技術価値を提供している」(小野原勉社長)として、①Connected Society、②Safe Mobility、③Clean Energy、④Industrial Innovation、⑤Air, Space and Oceanの各領域で協業の成果や開発品などを披露していた。

 22年夏に開催されたテクノフロンティア2022(7月20~22日/東京ビッグサイト/日本能率協会)でも、村田製作所が「多様化する社会課題を解決に導くムラタのイノベーション」として各ソリューションに適する製品群を披露していたり、KOAも街全体の模型を用意し、社会課題解決に貢献できるソリューションごとに旗を立てて各展示パネル・デモに誘導する仕組みなど、各社様々に各領域で創出できる価値を提案するスタイルが目立ってきた。

 また、エンドニーズをくみ取った各社独自技術の応用展開では、TDKが圧電アクチュエーターを活用して様々な触覚を表現する皮膚感覚フィードバックと統合センサー機能を備える「PowerHap」を未来の移動車をイメージして展示。アルプスアルパインもハプティック技術を活かした「ハプティックコマンダ ロータリータイプ」「ハプティックリアクタ ワイドバンドタイプ」などを様々なデモとともに披露してていた。その他各社ブースでも、様々な触覚を体感するデモ展示に遭遇した。

 これらはシーズからニーズを探す取り組みではあるが、具体的に想定する活用イメージを形にして提案し、来訪者とともに議論しやすい状況を創出する工夫を感じた。その他、とても紹介しきれないが、電子部品から社会課題に、再生可能エネルギーに、と積極的に貢献していこうとするアクティブな熱意が伝わってきた。

真に電子デバイスで勝負を挑める日本へ

 今回の先端半導体の国産化が実り、世界をリードする日系電子部品メーカーの高付加価値・高信頼な電子部品とのシナジーが日本の未来に実現すれば、真に電子デバイスで勝負を挑める日本の姿が現実のものになる。今回は紹介しきれていない水晶デバイス、抵抗器、コネクターなど様々な電子部品分野で、日系各社が活躍している。半導体が今回の新会社設立で注目を集める中、電子部品も先端で勝負しながら、世界で存在感を堅持し続け、未来を見据えた様々なチャレンジに挑んでいることを再認識する好機となった。日本の半導体、電子部品がともに世界で存在感を示す未来を楽しみにしながら、各社の歩みを今後も報道し続けていきたい。


電子デバイス産業新聞 編集部 記者 高澤里美

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