ロボット支援手術装置は、2000年にIntuitive Surgical社のダビンチ外科手術システムによる泌尿器科外科手術、一般的な腹腔鏡手術、婦人科腹腔鏡手術、一般的な非心血管胸腔鏡手術、胸腔鏡支援心臓切開手術が米国食品医薬品局(FDA)の認可を受けて以来、25年が経過した。この間コロナ禍の一時期を除き、多くの国でロボット支援手術装置の導入と同装置による適用症例数は増加し続け、また、それを背景に多くの装置メーカーが参入している。そこで今回は、ロボット支援手術装置について最新動向を調べてみた。
ダビンチは累計1万台突破
Intuitive Surgical社の20年度と24年度の決算資料(12月期)を比較すると、同社システム導入数は20年度936台(マルチポートのみ)、24年度1790台超(マルチポート1430台超、シングルポート95台超、Ion270台超)、累計システム導入数は20年度5989台(同)、24年度1万1040台超(各9890台超、290台超、850台超)、実施症例数は20年度120万件、24年度268万件超、累積症例数は20年度850万件、24年度1767万件超に達している。
地域別の導入数は、20年度のデータがなく21年度のデータであるが、全世界で5989台(米国3720台、欧州1059台、アジア894台、その他316台)、これに対し24年度は各9902台(5807台、1867台、1745台、483台)と全世界、各地域ともに増加しており、増加率は全世界65.3%(56.1%、76.3%、95.2%、52.8%)とアジアの伸びが最も高い。
日本においては、09年11月に保険適用を受け、12年に前立腺悪性腫瘍手術が最初に保険適用となり、その後、16年に1術式、18年に12術式、20年に7術式、22年に8術式と増点3術式が追加され、拡大している。
日本では3社のロボットが保険適用
日本で保険適用となっている手術支援ロボットを製造するメーカーは、Intuitive Surgical社、(株)メディカロイド、Medtronic社の3社である。
Intuitive Surgical社は、18年に米国FDAからDa Vinci SPの認証を受け、日本では22年9月にPMDAの認証を受けた。これは、1本のポートに3本のインストゥルメント(鉗子など)と1本のカメラが収納されており、それを体内に通す1つの切開創のみで、あるいは経口、経肛門などにより体内に挿入してのロボット手術が可能であり、またアームの干渉に制限されない様々なサージカルアクセスが可能である。
ダビンチSP_コンポーネント((c)2025 Intuitive Surgical)
ダビンチSPサージカルシステム_ロボットアーム((c)2025 Intuitive Surgical)
続いて19年には、米国でIon(イオンロボット気管支鏡)の薬事承認を得ている。肺がんの早期診断のために開発したもので、Ionは超薄型、超可溶性カテーテルを備え、末梢肺にある小さくて届きにくい結節の生検が可能である。末梢肺には、がん性肺結節の70%以上が存在するとされている。
さらに、フォースフィードバック(手術中に組織にかかる力を感じ取ることができる)機能を備えたDa Vinci 5が24年3月にFDAの承認を得た。Da Vinci 5は、既存のda Vinci Xiに比べて1万倍もの拡張された計算能力とデータ機能、次世代3Dディスプレイと画像処理、カスタマイズ可能なサージョンコンソールなどを備えている。
hinotoriは欧州市場と遠隔医療にチャンレンジ
日本の(株)メディカロイドの製造する手術支援ロボット「hinotoriサージカルロボットシステム」は、国内で泌尿器科、消化器外科、婦人科に加え、24年6月に呼吸器外科を対象に保険適用となった。海外では、23年9月にシンガポール、24年9月にマレーシアでの販売承認を得ており、さらに25年3月には、EU域内での販売を目指し、欧州医療機器規則に基づくCEマーク認証取得に向けた申請を行った。
同社では、hinotoriを活用した遠隔医療にも力を入れている。21年4月に、神戸大学、(株)NTTドコモ、神戸市とともに、世界で初めて商用5Gを介した国産手術支援ロボットの遠隔操作実証実験を開始した。5Gに関しては、同じメンバーにNTTコミュニケーションズ(株)を加え、23年2月に東京-神戸間(約500km)で商用の5Gを活用し、若手医師のロボット手術を熟練医師が遠隔地から支援する実証実験に成功している。さらに、同じ4者は24年6月に国内で初めて、「5Gワイド」を用いて、遠隔ロボット手術支援の実証実験に成功した。
また、22年11月には、日本電信電話(株)とともに、ネットワークから端末まですべてにフォトニクス(光)ベースの技術を導入したIOWNオールフォトニクス・ネットワーク(APN)とhinotoriとを接続することで、物理的に離れた環境を1つの環境のように統合し、手術室の状況をよりリアルに伝送でき、コミュニケーションがスムーズに行える場の共有を目指した共同実証を開始した。
IOWN APNに関しては、25年2月に、日本電信電話(株)、東日本電信電話(株)、弘前大学医学部附属病院、鹿島建設(株)とともに、IOWN APN接続による離れた2つの病院間(同附属病院と約30km離れたつがる総合病院)での遠隔手術支援を実証した。その結果、遠隔地にいる術者が、ネットワークを介さずに行うロボット支援下手術と変わらない形で遠隔手術支援を行えること、また、APNを用いた大容量・低遅延・ゆらぎなしでの音声信号、映像信号の伝送、立体音響スピーカー「OPSODIS1」、バイノーラルマイク、高精細4Kリモートカメラ、大型モニターを用いた高品質な空間の創出などにより、まるで同一の手術室にいるかのような臨場感のあるコミュニケーション環境の実現を確認した。
これら国内での遠隔医療にとどまらず、23年10月には、hinotoriを用いて約5000km離れたシンガポールと愛知県の2拠点間での遠隔手術の実証実験に成功した。実証実験は、シンガポール国立大学にhinotoriのサージョンコックピットを、愛知県の藤田医科大学内にあるトレーニング施設「メディカロイド インテリジェンス ラボラトリー 名古屋」にhinotoriのオペレーションユニットとサージョンコックピットを設置し、国内の実証実験として初めてシンガポールから操作を実施し、模擬臓器を用いた手技の実施に成功した。
手術支援ロボットを使用して行う遠隔手術支援については、地方外科医師数の減少による地域医療格差といった社会課題の解決、地域医療支援と若手外科医の教育・育成による医療レベルの向上(医療の均てん化)に寄与することが期待されている。日本外科学会が中心となって社会実装に向けた遠隔手術ガイドラインの策定を推進しており、25年度には遠隔手術ガイドラインの改定が予定され、今後、遠隔手術支援の社会実装が進められる。
米国Medtronic社の「Hugo手術支援ロボットシステム:Hugo RASシステム」は、日本において22年12月に泌尿器科および婦人科、23年7月に消化管外科(胸部食道操作を除く、上部および下部)が保険適用となった。Hugo RASシステムは、現在EUではCEマークが付与されており、米国では治験用医療機器として使用されている。
Medtronic社は、24年時点で日本、台湾、香港、タイ、インド、マレーシア、シンガポール、オーストラリア、EU、カナダ、パナマ、チリ、ブラジルで保険適用となっている。