次世代の太陽電池(PV)としてペロブスカイト太陽電池(PSC)が注目されている。変換効率は単接合型で27%に迫っており、結晶シリコン(Si)を組み合わせたタンデム型では34%を超えている。量産工場の建設も具体化しており、2025年以降、商業化が加速する見込みだ。
一方、次世代PV技術としては、PSCよりも歴史が古い有機薄膜太陽電池(OPV)も近年は発電性能が向上しており、事業化に取り組む企業が増えている。CIGSもフレキシブル基板を使用することで、PSCと同様に「曲がるPV」が実現できる。さらに、PSCとCIGSを積層したタンデム型では、30%以上の変換効率が狙える。
PSCの量産工場建設
PSCの変換効率は0.1cm²以下の小面積セルで26.95%(SoochouU/UNSW)、1cm²では25.2%(NorthwesternU)を達成するなど、小面積とはいえ、すでに結晶シリコン(Si)に匹敵する変換効率を実現している。
単接合型ではすでに理論限界効率に近づくなど、これ以上の大幅な効率向上は難しいが、発電層を2つ重ねたタンデム型では30%以上の変換効率が狙える。PSC/Siタンデムでは、24年にLONGi(中国)が2端子構造のタンデムセルで34.6%の世界最高効率を達成したが、量産用のM6(166mm)サイズのタンデムセルでも30.1%、4端子構造のタンデムモジュール(2054cm²)では25.8%の変換効率を実現している。
工業用の大型タンデムモジュールの開発も進んでいる。Oxford PV(英国)が1.68m²のタンデムモジュールで25%、GCL Perovskiteは1.71m²で26.36%を実現している。Trina Solar(中国)は3.1m²で最大出力808Wを達成し、工業サイズのPVモジュールでは世界で初めて800Wの壁を突破した。
PSCの商業化も始まっている。Oxford PVは24年9月にPSC/Siタンデムモジュールの商業販売を開始し、ドイツで生産したタンデムモジュールを米国市場向けに出荷した。PSC/Siタンデムモジュールの商業化は世界初になる。もっとも、PSCの量産は中国が先行しており、多くの企業が量産工場を整備し、生産を開始している。
Microquantaは22年に浙江省衢州市内に100MWの量産工場を建設し、PSCモジュールの出荷を開始しており、Renshineも常熟市で建設していた150MWの量産工場が24年から稼働を開始した。
UtmoLightは22年に生産能力150MWの試作ラインで生産を開始したが、23年に無錫市でGW規模の量産ラインを建設。24年11月から試作生産を行い、25年2月から量産を開始している。
GCL Perovskiteは21年に年産100MWの量産ラインで試作を開始したが、23年末に江蘇省昆山市のハイテク工業団地で新工場の建設を開始した。新工場は25年の稼働を予定しており、変換効率27%の大型タンデムモジュールを生産する予定だ。
国内でも量産工場の建設が進んでいる。積水化学工業が堺市にあるシャープ本社工場を活用し、フィルム型PSCの量産ラインを整備する。27年度に100MWの生産ラインが稼働するが、30年までに1GWの生産体制を構築する計画だ。倉元製作所もUtmoLightからPSCの量産設備および生産方式を導入して、花泉工場(岩手県一関市)の一角に量産工場を建設しており、25年5月の稼働を予定している。
パナソニックは大阪府守口市に1×1.8mサイズの大型モジュールが生産できる試作ラインを導入済みで、29年の量産開始を目指している。エネコートテクノロジーズは23年秋にはパイロットプラントを立ち上げ、25年にはIoTセンサー電源用の小型モジュールの販売を予定しているが、量産工場建設の準備を進めている。
OPVも負けていない
商業化が目前のPSCだが、次世代PV技術としてはOPVの歴史は古い。PSCの爆発的なブームに押されて、研究が低迷した時期もあったが、最近では、欧州でもOPVの開発が活発化しているという。
OPVは00年代にp型ポリマーのP3HTとn型可溶性フラーレン誘導体(PCBM)を組み合わせた素子の開発が活発化し、その後、分子内でドナーとアクセプターが共重合したD-Aポリマーが登場したことで、長波長の吸収が改善した。そして、近年は高価で大気安定性が低いPCBMの代替材料として、ITICやY6、IT-4Fなどのノンフラーレン型アクセプター(NFA)が注目されている。
変換効率の改善も進んでおり、上海交通大学(SJTU)が1cm²以下の小面積セルで19.2%の変換効率を実現しており、ドイツのFraunhofer ISEとFreiburgUの研究グループは1cm²のセルで15.8%を実現している。もっとも、OPVの短絡電流密度(Jsc)は理論値に対して7割程度、解放電圧(Voc)も8割程度にとどまるため、変換効率の伸びしろはまだ多い。
OPVの商業化に取り組む企業も増えてきた。GSIクレオスは、世界最大のOPV製造企業であるブラジルのPHD(Power Harvesting Dynamics Semiconductors Impressos LTDA)と戦略的事業提携契約を締結し、28年以降にOPVフィルムの国内生産を開始すると発表した。
GSIクレオスはカナダのBrilliant Matters(GSIクレオスが筆頭株主)を通じて、無機・有機材料の分散/インク技術を開発しているが、5年間にわたる独自調査でOPVの需要が大きいことを確認し、かねて取引関係にあったPHDと戦略的事業提携を締結し、日本およびアジア市場でOPV事業を立ち上げることを決めた。
事業化に先立ち、25年からOPVの実証実験も開始する。実証実験は27~28年ごろまでを予定しており、事業化が可能と判断すれば、PHDから製造ライセンスを獲得し、28年以降に国内でOPVフィルムの生産を開始する計画だ。OPVフィルムは自社もしくは国内ファンドリーに委託して生産する予定で、30年以降には、アジア全域に販路を拡大する。
塗料、接着剤などを販売する熊野屋(東京都中央区)もOPVの販売に乗り出した。欧州のOPV企業であるHeliatek(独)、Dracula Technologies(仏)の販売代理店となり、屋外用ではHeliatekのOPV、室内用途ではDracula TechnologiesのOPVをそれぞれ提案している。現在、自社建物の壁にHeliatekのOPVを貼り付けて実証実験を進めている。
高耐久技術の開発進む
OPVは軽量&フレキシブルで製造コストも安価だが、結晶Siと比較すると耐久性は低い。そこで、名古屋大学はカーボンナノチューブ(CNT)電極を用いたOPVを開発した。CNTは酸化されないため、裏面電極に銀を用いた従来のOPVよりも耐久性が高い。また、透明な膜を形成できるため、両面発電が可能といった利点がある。同大は大阪メトロと共同で、CNT-OPVの耐久性を確認する実証実験を行っている。
金沢大学もCNT電極を用いた全有機OPVを開発した。電極を別々に形成し、それを貼り付けることで、変換効率が従来の2倍以上に改善したという。
OPVは活性層が伸縮性に優れ、柔軟な生体組織に追従することから、生体に埋め込む発電デバイスとして有望である。そのためには高い耐水性が必要で、伸縮性やバリア性、透明性に優れた封止技術が不可欠となるが、東京大学は皮膚埋め込み型OPVの実現に向けて、透明性、伸縮性に優れた封止膜を開発した。
PBS(リン酸緩衝生理食塩水)を接触させた実験では、封止膜がない素子は1時間で発電が停止したが、50μmの厚膜PIB(ポリイソブチレン)を用いた素子は6時間後でも67%の性能を維持するなど、耐水性が向上したという。
現在の宇宙用PVは高効率で陽子線耐性の高いGaAsが広く利用されているが製造コストは高い。結晶シリコンSiは安価で変換効率が高いが、重い、セルが割れやすい、陽子線照射耐性が低い、という課題がある。こうした背景から、University of Michigan(米国)はOPVの宇宙利用を検討している。低分子材料と高分子材料で作成したOPVに陽子線を照射したところ、高分子OPVは効率が半分に低下したが、低分子OPVは3年分に相当する陽子線の照射後でも大きな劣化はなかったという。
軽量CIGSも量産フェーズ
CIGSや薄膜Si(a-Si)など、無機材料を用いた薄膜PV技術の開発も続いている。20年設立のPXPはCIGSに代表されるカルコパイライトをベースとした次世代PV技術を開発している。これまでに、4端子構造のPSC/CIGSタンデムセルで26.5%の変換効率を実現しており、メートルサイズの大型CIGSモジュール(出力200W)も作製している。
24年末には、ソフトバンクをリードインベスターとするシリーズAラウンドで総額15億円の資金を調達した。順調に行けば、25年秋に量産工場の建設に着手し、26年の完成・稼働を予定している。最近では、長野県白馬村でトレーラーハウスの屋根と壁面にkW級のCIGSモジュールを設置した実証実験を開始した。
日揮も横浜市で大面積のCIGSを用いた実証実験を実施している。独自のシート工法を活用し、折板屋根を模した屋外環境に10m²のCIGSモジュール(PXP製)を設置した。大面積CIGSモジュールのシート工法の適用可能性や発電性能、耐久性などを評価する。
東洋製罐グループホールディングスは、ガラスと同等の水蒸気バリア性を有する高機能フィルム「MiraNeo」を展開しているが、同フィルムの事業拡大を図るため、ベルギーのEnfoil BVに出資し、同社の主要株主になった。
EnfoilはTNO(オランダ応用科学研究機構)、IMEC(ベルギー半導体研究所)、Hasselt Universityからスピンオフしたスタートアップ企業で、フレキシブルCIGSを開発している。Enfoilが製造するフレキシブルCIGS向けに「MiraNeo」を提供することで、Enfoilの事業成長を支援し、フレキシブルCIGSの市場拡大を目指す。
薄膜Siは90年代後半から00年代前半にかけて開発や生産が活発化したが、発電性能やコストの優位性を示すことができず、その後、事業撤退が相次いだ。ただ、特定の用途では需要があるとし、最近ではLIXILが薄膜Siを用いたロールスクリーンシステムを発表している。
同システムは配線が不要で、15~60W対応のUSB Type-CやDCジャックなどを備えており、窓の室内側から容易に後付けできる。開閉することで、必要な時に視界を確保することができるほか、全閉した場合には、窓との間に中空層ができることで、断熱性能が向上し、省エネ効果が期待できるという。
電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松永新吾