(株)産業タイムズ社 代表取締役社長 泉谷渉
「サムスン西安の新工場は様々な意味で注目されている。1つにはスマートフォンにおける世界チャンピオンの座をさらに固め、他社に水をあけるという意味で最新鋭のNANDフラッシュメモリーが必要になるからだ。もう1つは、西安新工場は世界初の3D構造を採用した300mmウエハーのNAND量産といわれていることだ」
こう語るのはスマートフォンに重要な一般電子部品を納入する日本の大手幹部である。サムスンにとって最大のライバルである東芝もまた、3D構造セルを計画しているといわれ、最先端市場での新技術の戦いが注目されるところだ。
さて、NAND型フラッシュメモリーの2012年の市況は、カード向けなどで値崩れし、厳しい局面もあった。スマートフォンなどは好調であったが、期待以上には拡大しなかったといえよう。NANDフラッシュメモリーマーケットは、現状で2兆5000億円に乗ってきたといわれており、金額ベースでDRAMをキャッチアップし、メモリー盟主の座へ着こうとしているのだ。
7月31日付の半導体産業新聞でも報じているが、NANDフラッシュ業界はウエハー投入能力の増強に向けた投資を本格的に再開するようだ。東芝が四日市工場Y5の第2期棟建設を発表したほか、サムスン、SKハイニックスの韓国2社、さらにはマイクロンテクノロジーが増産投資を2013年~2015年にかけて行う計画だという。
現在のNANDの需給関係は非常に安定している。主力の32ビット品は3ドル前後、64ビット品は5ドル強で推移し、NAND各社の収益も安定している。東芝の場合、2013年1~3月期にNANDフラッシュメモリーで250億円前後の営業利益を確保したといわれている。他社も10~20%の営業利益は確保できているようだ。
供給サイドでいうところのビット成長率は、2012年に60%前後となり、2013年については需要サイドベースで40%前後成長と予想されている。足元だけでいえば、必ずしも需要が大きく拡大しているわけではない。加えて、微細化によるビット供給増にも陰りが見え始めており、もはや各社ともウエハー投入能力自体を増強しなければならないと判断している。何しろ、微細化を進めれば工程数が増加するわけであり、投資効果が必ずしも出てこない環境になっているのだ。
様々な議論はあるものの、スマートフォンは現状においても爆発的成長を続けている。このメーンメモリーはDRAMではなくNANDフラッシュメモリーに置き替わっている。これを反映してファンドリー最大手の台湾TSMCは、スマートフォンに使う半導体の生産能力を2013年に前年の3倍に拡大し、年間設備投資も過去最大の1兆円に積み増している。こうなれば、スマートフォン向けのメーンメモリーであるNAND業界も動かざるを得ない。
プロセスは1Xnm時代に突入し、ArF液浸+多重露光を最有力に量産ラインを構築する流れが出てきている。一方で、歩留まり向上には苦労しているが、3D構造セルのNANDフラッシュメモリーも離陸する状況にあり、サムスンの西安新工場はこれで先行しているといわれる。東芝もまた、四日市工場で3D構造導入のNANDフラッシュをスタートさせるのは時間の問題ともいわれている。
こうした状況下で待望のソリッドステートドライブ(SSD)の本格拡大も見え始めてきた。まずは超薄型軽量ノートパソコンに搭載されていくが、やはり大本命は電力関連の大型サーバーに搭載されていく動きだろう。現状で世界の発電所をはじめとする電力施設においては、記憶部分はほとんどがHDDである。コスト面で問題はあるが、キャッシュのスピードが速いだけに、価格は高くともフラッシュメモリーモジュールであるSSDを採用しようとする動きも加速してきた。国内においては、こうした電力関連や大型データセンターの市場において、まずは10%ぐらいがHDDからSSDに置き替わるのは確実と見られている。
スマートフォンで先頭を走るサムスンは、ベトナムに本格進出し、巨大工場建設に走っている。今年のスマホの世界市場は9億台といわれており、サムスンのベトナム工場はこの2割を生産するというのだから驚きだ。一方のライバルであるアップルは、中国でiPhoneの量産に走っているが、人件費高騰の影響を受け採算は悪化している。NANDフラッシュメモリー業界は、当面の巨大マーケットであるスマートフォン向けを徹底的に増強する一方で、SSDという新需要を育成・強化していくことになるだろう。