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第476回

欧米で太陽電池の生産回帰、中国依存からの脱却模索


米国が50GW体制構築、欧州はPSC量産で先行

2022/10/28

 欧米で太陽電池(PV)の生産回帰が鮮明になってきた。米国では、IRA(インフレ抑制法)の成立に伴い、PVの市場拡大と製造業への投資加速が期待されており、欧州はPV需要の7割以上を地域内で生産する戦略を打ち出している。インドもPLIスキーム(生産連動型のインセンティブスキーム)を導入するなど、国内生産を後押ししている。
 現在、PVの生産は中国が大きなシェアを維持しているが、PVの市場拡大やサプライチェーンの強化、さらには、エネルギー安全保障といった観点から、中国への過度な依存から脱却し、自国でPVを生産する動きが加速している。

中国が導入&生産を牽引

 中国は現在、PVの導入および生産で世界市場を牽引している。IEA(国際エネルギー機関)の調査によると、20年のPV導入量は48.2GW(シェア35%)だったが、21年は54.9GW(同31%)まで増えた。22年はさらに導入が増える見通しで、CPIA(China Photovoltaic Industry Association)は最大90GW、Solar Power Europeは87GWの導入が見込めると予測している。

 中国はPVの生産でも市場を牽引している。IEAの調査によると、21年における中国のポリシリコン(ポリSi)の生産量は62万tで世界シェアは79%だった。また、Siウエハーのシェアは97%(生産量は226GW)、セルは81%(同198GW)、モジュールは75%(同182GW)となっている。PVモジュールの出荷でも上位を独占しており、21年のPVモジュールの出荷上位5社(IEA調べ)は、LONGi(38.5GW)、JA Solar(25.5GW)、Trina Solar(24.8GW)、Jinko Solar(22.2GW)、Cnadian Solar(14.5GW)で、すべて中国企業だった。

 そして、各社は出荷量の拡大およびサプライチェーンの強化を図るため、生産能力増強やポリSiメーカーとの協業を進めている。21年末のモジュール生産能力は、LOINGiが60GW、Jinko Solarが45GWだったが、22年にはLOINGiが85GW、Jinko Solarが65GWになる。Trina Solarも22年のモジュール生産能力は65GWを計画している。

 Jinko Solarは21年にポリSiメーカーのTongweiおよびXinte Energyとの協業を発表した。出資や投資で連携することで、原料の安定確保を図るのが狙いだ。さらに、22年9月には、Tongweiと4年間で38万tの長期契約を締結した。Trina SolarもTongweiと合弁事業契約を締結している。共同でプロジェクト会社を設立し、ポリSi、インゴット、セルの各プロジェクトに投資する。

 ちなみに、20年末の中国のセル生産能力は200GW、モジュール生産能力は244GWだったが、22年末にはセル&モジュールの生産能力がいずれも500GWを超える見通しだ。

米国はIRAがPV生産を後押し

 こうしたPVの中国依存に危機感を抱いているのが米国である。米国は現在、PVモジュール、インバーター、トラッカーを生産しているが、インゴット、ウエハー、セルの生産拠点はない。21年の米国のPV導入量は26.9GW(IEA調べ)だが、モジュールの生産能力は7GW前後、生産量は5GW弱で、インバーターは1GW未満、ポリSiの生産能力は6万tとなっている。現状、米国のPVサプライチェーンには大きな需給ギャップがあり、このギャップを埋め、生産能力を拡大することが大きな課題となっている。

 こうした背景から、エネルギー安全保障や気候変動への対策を盛り込んだIRAが22年8月に成立した。総投資額は3690億ドル(約51兆円)で、その4割以上がクリーンエネルギーに対する税額控除になるという。PVモジュールの生産も対象になっており、PVの国内生産を後押しすると期待されている。

 SEIA(米国太陽エネルギー産業協会)は21年6月、30年までに米国内に50GWのPV生産能力を構築する計画を発表したが、IRAの一環として、SEMA(米国のための太陽エネルギー製造法)が可決されたことから、この目標を実現するため、新たなロードマップとなる「Catalyzing American Solar Manufacturing」を発表した。

 ロードマップによると、工場は23年に着工し、25年から生産が始まる。セル生産は25年から立ち上がり、26年には生産能力が20GWを超える。インゴット/ウエハーも26年には生産能力が20GWとなる。現在、結晶Siモジュールの生産能力は5GW以下だが、24年には10GW超、25年には30GWを超える。そして、27年には、ポリSi、インゴット/ウエハー、セル、モジュールのいずれも、生産能力が45GWを超える見通しだ。

 さらに、PVモジュールの生産能力増強は、PV用ガラスやフレームなどの主要部材の新規投資が期待できる。こうした部材を国内で大規模に生産することは、米国のPV製造の長期的な競争力強化につながる。例えば、PV用ガラスやフレームの輸入には、完成モジュールの出荷と同等の高い配送コストがかかるが、国内で製造することで、モジュールコストの低減が期待できるとしている。

 米国の大手PVメーカーのFirst Solar(米国アリゾナ州)も米国内で投資を加速している。同社は現在、米国、マレーシア、ベトナムに生産拠点がある。21年末の生産能力は8.4GW(米国2.6GW、その他5.8GW)で、21年の生産量および出荷量はそれぞれ7.9GWだった。22年には、生産能力が9.5GW(米国2.8GW、その他6.7GW)になるが、米国(オハイオ州)およびインド(タミル・ナードゥ州)で新工場(いずれも生産能力は3.3GW)を建設しており、23年に一部稼働を開始する。

米国で相次ぎ新工場を建設(First Solar)
米国で相次ぎ新工場を建設(First Solar)
 さらに、米国の新工場に総額12億ドルを投資することを決めた。10億ドルを投資して米国南東部に国内4番目の新工場(生産能力3.5GW)を建設(25年稼働予定)するほか、オハイオ州の2つの既存工場(ペリーズバーグおよびレイクタウンシップ)では、1億8500万ドルを投資して0.9GWを増強する。今回の投資により、25年には米国の生産能力が10GW超となり、グローバルでは20GWを超えるが、将来はさらなる生産拡大も計画している。

インドも自国生産を強化

 米国以外でも、自国でPVを生産する動きが活発化している。インドは現在、モジュール生産能力が約12.4GW、セル生産能力が3.3GWだが、インド政府はPVの生産能力を大幅に増強する計画を持っており、21年11月には、450億ルピー(6億ドル)のPLIスキームの入札を実施した。Reliance(ムンバイ)など3社が落札し、3社はそれぞれ、年産4GWのモジュール工場の建設を計画している。

 Relianceはインド最大の民間企業で、21年10月には、RECグループ(ノルウェー)およびNexWafe(ドイツ)に相次ぎ投資した。Relianceの100%子会社であるReliance New Energy Solar Limitedは、RECの全株式を取得し子会社化したほか、NexWafeに対して戦略的な投資を行った。RelianceはNexWafeの技術を活用して、インドにGW規模のカーフレス・ウエハーの工場を建設する計画を持っている。

 Saatvik Solar(ハリヤナ州)は16年からPVモジュールを生産しているが、生産能力を倍増(1GW)するほか、23年にはインド北西部のグジャラート州に1.2GWの新工場建設を計画している。
 Waaree Energygies(ムンバイ)は、100億インドルピー(約1億2200万ドル)の資金を確保し、PVモジュールの生産能力を従来の2GWから9GWに引き上げる計画で、23年初頭の稼働を予定している。また、同社は22年5月にPVセルメーカーのIndosolarを買収し、セル生産能力を5.4GWに拡大するほか、米国のIRAに対応するため、米国に2GWのモジュール工場を建設する計画も進めている。

欧州はSHJ技術で勝負

 欧州は21年末のPV累積導入量が207GWで、世界シェアは22%となっている。地域別では、中国およびAPAC(アジア・パシフィック)に次ぐ市場規模だが、PVの生産は少ない。欧州のPV業界団体であるSolarPower Europeによると、欧州ではPVグレードのポリSiの生産能力は23.2GW(22年現在)だが、インゴット&ウエハーは1.7GW、セルは0.8GW、モジュールは8.1GWにとどまる。貿易収支で見ると、20年末の段階でセル&モジュールは100億ユーロを超える赤字(独Fraunhofer ISE調べ)となっている。

 そこで、欧州でも地域内でPVバリューチェーンを完結する動きが加速している。欧州委員会は25年までに欧州域内で年間30GWのPV生産を目標とする業界の取り組みを後押ししており、22年10月には、これを実現するためのアライアンスの設立を承認したことが伝えられている。また、ESMC(European Solar Manufacturing Council)は、欧州のPV需要の少なくとも75%は欧州域内で生産し、欧州で生産するPV製品の3分の2は輸出するべきと主張している。

 Fraunhofer ISEは、大きくて重いPVモジュールをアジアから遠く離れた場所に輸送することは、コストや環境負荷の増加につながるとしており、欧州で大規模なPV生産拠点を整備することは、コスト削減や持続可能性、さらには、エネルギー安全保障の観点からも重要だと説明している。

 欧州の大手PVメーカーのMeyer Burger Technology(スイス)は、SHJ(ヘテロ接合)とSmartWire技術を組み合わせた高性能PVモジュールを生産しており、ドイツにあるセル&モジュール工場の生産能力は各400MWだが、順次生産能力を増強しており、23年には各1.4GWになる。米国アリゾナ州でも23年の稼働を目指してPVモジュールの新工場(400MW)を建設で、24年には1.5GWまで拡大し、全体の生産能力が3GWになる。

 同社はグローバルなマルチソーシング戦略の一環として、セル&モジュールの製造に使用されるガラス、フォイル、セルコネクター、化学薬品、プロセスガスなどの主要コンポーネントの一部を欧州で調達している。さらに、22年8月にはNorwegian Crystals(ノルウェー)とSiウエハーの供給契約を締結したと発表した。欧州内でSiウエハーを調達することとで、サプライチェーンの安定強化を図るのが狙いだ。

 Enel Green Power(イタリア)もSHJの開発に注力しており、19年8月から、イタリア・カターニアにある3Sun Gigafactoryで両面発電型SHJモジュールを量産している。これまでにSHJセルで変換効率24.63%を達成している。現在の生産能力は200MWだが、欧州のイノベーション基金の支援を受けて、生産能力を3GWまで拡張する計画を発表している。

 3Sun Gigafactoryは、Enel Green Power、シャープ、STMicroelectronicsの3社が出資し10年8月に設立したが、15年にEnel Green Powerが全株式を取得した。当初は薄膜Siモジュールを生産していたが、17年末で生産を終了し、現在はSHJモジュールの開発および生産を行っている。23年には、新型の両面発電型SHJモジュール(出力680W)の生産を開始する予定だ。

PSCの量産は欧州がリード

 欧州では、現在主流の結晶Siに加えて、色素増感太陽電池(DSC)、有機薄膜太陽電池(OPV)、ペロブスカイト太陽電池(PSC)といった次世代PVの開発および生産に取り組む企業が増えている。Valoe Oyj(フィンランド)はIBC(バックコンタクト)技術を用いた高出力結晶Siモジュールを開発しており、電気自動車(EV)メーカーのSono Motorsと協業するなど、車載用PVの開発に力を入れている。

 有機系では、ARMOR(フランス)とHeliatek(ドイツ)がOPV、Exeger Operations(スウェーデン)はDSCを開発している。Heliatekが開発したフィルム型OPV「HeliaSol」は様々な素材の設置面に直接貼り付けることができるため、耐荷重の低い屋根や穴を開けられない屋根、さらには壁面にも設置が可能といった利点がある。最近では、Looop(東京都台東区)と独占的パートナーシップを締結した。

 Exegerはソフトバンクグループ(東京都港区)が商業化を支援しているが、22年1月には、日本ガイシとの技術協力を発表。日本ガイシの小型リチウムイオン電池「EnerCera」と組み合わせることで、メンテナンスフリーのIoTデバイスの開発に取り組んでいる。

 PSCはOxford PV(英国)、Saule Technologies(ポーランド)が商業化を開始している。Oxford PVはPSC/Siタンデムセル(156mm角)を開発しており、20年12月に変換効率29.52%を達成。21年夏には生産能力100MWの量産工場をドイツに建設し、22年の本格生産を予定している。

23年にPSCの生産能力増強(Saule Technologies)
23年にPSCの生産能力増強
(Saule Technologies)
 Saule Technologiesも21年5月、100MWの量産工場をポーランドに建設し、IoT分野向けのPSCモジュールを印刷プロセスで生産している。21年9月には、PSC活用の第1弾として、PSCを組み込んだPVブラインドをポーランドの工場のファサードに設置した。現在は量産技術の開発と販売活動を強化しているが、23年には新ラインを導入し、生産能力を年間72万m²に引き上げる計画だ。

 Evolar(スウェーデン)はCIGSの開発で培った技術を応用し、PSCベースのタンデム型を開発している。実証試験で2000時間以上の耐久性を達成するなど、タンデム型が25年以上の寿命があることを確認している。Tube Solar(ドイツ)は円筒型PVモジュールを開発・製造しているが、Ascent Solar Technologies(米国)と協業してPSC/CIGSタンデムを開発している。Solaronix(スイス)は、19年末から欧州の研究開発コンソーシアム「UNIQUE project」に参画し、カーボンベースのPSC技術の開発に取り組んでいる。


電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松永新吾

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