2021年4月1日、(株)JR東日本リテールネット、(株)JR東日本フーズ、(株)JR東日本ウォータービジネス、(株)鉄道会館が合併し、(株)JR東日本クロスステーションが誕生した。エキナカ商業施設運営を担うデベロップメントカンパニー マーケティング戦略部部長の菅野研也氏に聞いた。
―― 概要から。
菅野 昨年4月に新会社が発足した。リテール、フーズ、ウォータービジネス、デベロップメントの4カンパニーで構成されている。デベロップメントカンパニーは旧JR東日本リテールネットのデベロッパー部門と旧鉄道会館が合併したもので、東京駅のエキナカ商業施設「グランスタ」や、品川駅などに展開する「エキュート」などを運営し、店舗数は約800店に上る。
―― グランスタやエキュートについて。
菅野 エキュートは大宮駅など7施設、カテゴリー編集型の「エキュートエディション」が新橋駅などに5施設、「マーチエキュート」が1施設ある。
東京駅は異なる名称で運営してきた複数の商業施設を段階的にグランスタブランドで一本化し、商業施設同士のシナジー効果を狙う。すでに「エキュート京葉ストリート」は「グランスタ東京 京葉ストリートエリア」とした。八重洲側にも「グランルーフ フロント」「グランルーフ」「グランアージュ」があり、時機を見て統一する予定だ。
―― 昨年7月「リエール藤沢」を藤沢駅にリニューアル開業しました。
菅野 同施設はデイリーやクイックニーズに応えている。当社が運営する店舗が多く出店し、結果的に4カンパニー揃い踏みとなり、そのメリットを生かせる格好となった。
―― コロナはエキナカ商業をどう変えましたか。
菅野 根底から覆され、すべての前提を見直す必要に迫られている。コロナ前までは、朝早くから夜遅くまで長時間営業だったが、お客様がいなくなり、売れる時間帯も狭まった。これまでトラフィックに頼っていたが、今後はトラフィックを生み出すような業態や商品、サービスをつくらないと、生き残れない。
―― 具体的には。
菅野 東京駅土産は出張需要などで箱菓子が売れ筋だったがコロナで売れなくなった。ただ、これについてはコロナ前から危機感を持ち、20年8月に拡張し、グランドオープンした「グランスタ東京」では生に近い商品、自家需要やギフトにシフトし、毎日駅を利用するお客様に訴求した。惣菜なども家呑みのために串ものを強化したところヒットするなど、地道にデイリー需要を追求した。
―― 物販よりも食ですか。
菅野 エキナカの特性上、どうしても食の割合が多くなるが、すべて食にすればいいのかというとそうではない。雑貨は施設に楽しさを与えるなどのプラスアルファの役割がある。
―― 非食系の傾向は。
菅野 グランスタではアート的な商品に着目した。例えば、比較的コンテンポラリーな作家の作品を展示販売していたり、100万円超の青磁の壺が売れたりしている。気軽にアートを見て触れてもらうことも駅の使命といえる。
―― DXの取り組みは。
菅野 Suicaを使ったキャッシュレスやバーコード決済を行っている。また「グランスタ東京」開業時に東京駅構内と周辺施設へルート案内する「東京ステーションナビ」の運用開始や、スタートアップの(株)バカンと提携して、トイレやレストランやカフェの店舗の空き情報がスマホやサイネージでわかるようにした。そのほかレストランの行列状況がリアルタイムでわかり、Webから順番待ちができる「VACAN Noline」も導入した。混雑状況を伝えるシステムでコロナのため本来の機能を活かせていなかったが、密回避で効果を発揮するなど、怪我の功名もあった。
―― 今後の取引先誘致のポイントは。
菅野 ひとつにSDGsの取り組みがある。20年8月にグランスタ東京に近畿大学が運営する養殖魚専門店が開店した。今後の食糧需給を考えると、天然資源を減らさない完全養殖の重要性を伝えていくことはデベロッパーの使命。また「北出TACOS」という店舗のトルティーヤの材料は緑肥用に栽培された北海道のとうもろこしを使用する。土地を肥やせるし、農家の収入にもなる。その精神に共感して出店いただいた。押しつけがましくならず、「美味しさの裏にこんなストーリーが」のようなものがいい。
―― ますますSDGsの取り組みが求められます。
菅野 そうでなければ生き残れない時代。SDGsに取り組む取引先を誘致することで、社会的使命を果たし、我々の存在意義も高まる。これまでは圧倒的立地の優位性があったが、今は取引先が出店先を選ぶ時代。選ばれるデベロッパーとは何か。SDGsへの姿勢もそのひとつだし、またテナントに丸投げするのではなく、お互いの強みを活かして売り場をつくる、ウィンウィンの関係構築を愚直にやっていきたい。
(聞き手・特別編集委員 松本顕介)
商業施設新聞2457号(2022年8月9日)(1面)
デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.383