三大都市圏を中心に約70の商業施設を運営する東急不動産SCマネジメント(株)。少しずつ街に人が戻り始め、各施設にも賑わいが戻りつつある。東急プラザ銀座では様々な改装を行うほか、キューズモールでも地域の集いを育む“ギャザリング”を進めるなどして、オンリーワンの施設として運営していく。代表取締役社長の木内伸好氏に聞いた。
―― 足元の動向から。
木内 まん延防止等重点措置の解除後、都心の施設にも人が戻ってきた。当社の施設がある渋谷、表参道、銀座を歩くと人の戻りを如実に感じるし、当社施設の売上高も昨年と比べて戻っている。国内ではラグジュアリーブランドが好調と言われており、「東急プラザ銀座」でもそうした店舗が好調だ。
―― 東急プラザ銀座はここ最近、施設の改装を進めています。
木内 21年7月に「ZUKAN MUSEUM GINZA powered by 小学館の図鑑 NEO」を導入した。デジタルとリアルが融合したミュージアムで、家族連れや三世代などを集客している。また、21年11月には晴海通りに面した6階にナイトクラブ「RAISE」をオープンした。総面積740m²と広い空間で音楽やシャンパンなどのドリンクを楽しめる。天井高約27mは、世界のナイトクラブでも類を見ないスケールとなっている。
施設の差別化には集まって何かをして、感動を持ち帰っていただくことが必要だが、これの実現は物販店だけでは難しい時代になった。いまや体験型、コト消費、リアルに体感してもらうのがSCの意義になっており、新たな機能を導入した。
―― 東急プラザ銀座では東急百貨店が運営していた区画の行方が注目されています。
木内 3~5階に出店していたうち、5階には4月22日から8月28日の期間、体験型コンセプトショップ「ADA LAB」がオープンした。ガラスケースとLEDで植物を育てる「パルダリウム」の楽しみ方を提案する体験型ショップだ。3、4階はまだ決まってはいないが様々なことを考えている。対象区画のある晴海通りに面した区画は、1、2階でもリーシングを進めているため、例えば1~4階の4層をまるごと使うという提案もできる。
―― コロナ禍で来館者の変化などは。
木内 遠出がしにくくなり、地域密着型の施設は改めて足を運んでいただく機会が増えた。これまでターミナル駅まで出ていたが、コロナ禍で足元にある施設を訪れたところ「実はこんな良い店舗・商品があるんだ」と感じていただけたのではないか。
―― 地域密着型施設ではキューズモールの改装を行いました。
木内 「あべのキューズモール」(大阪市)と「あまがさきキューズモール」(兵庫県尼崎市)をリニューアルして、21年11月末までに2施設合計53店をオープンした。生活密着業態を拡充するなどしており、反応は良い。例えばあべのではこれまでエリアになかった店を誘致して、より地元の方に使っていただけるようになった。
また、今回のリニューアルでは店舗誘致だけでなく、それぞれの施設に「キューズパーク」として人工芝の広場、子供の遊び場などで構成する屋外空間を設けた。
―― 広場を整備した狙いは。
木内 もともとキューズモールは各施設で『ギャザリング』として、街の人々が集まり、コミュニティをつくれる取り組みを行っている。これを強化したいという思いもあったし、せっかく足を運んでいただけたならお子さんたちに遊んでほしいという思いもある。
ギャザリングとしてはコロナ禍でも様々な取り組みをしており、例えばキューズモール4施設合同でキッズのダンスコンテストを行った。コロナ禍で発表の場がなくなったキッズダンサーたちに発表の場を提供するため、各キューズモールで代表決定戦を行い、決勝戦、表彰などをしたイベントで、親御さんを含めてものすごく盛り上がった。我々はナンバーワンというより、オンリーワンの施設を目指して運営しているが、その意味でもこうした集うこと、ギャザリングは非常に大事になる。
―― 東急不動産ホールディングスグループ以外の施設受託は。
木内 増やしていきたい。約70施設を受託しているうち、約3割が外部案件になる。例えば名古屋市栄地区にある「オアシス21」を受託しており、以前は空きテナントもあったが、受託後はほぼすべての区画を埋めた。地元のスポーツチームのグッズ販売店舗を誘致したほか、イベント広場も積極的に活用するなど、その地域ならではの賑わいも創出できた。こうした案件や、都心部・郊外など多様な施設の営業実態を見て運営を依頼したいとお声かけいただく機会が増えた。
―― 今後の方向性は。
木内 やはりオンリーワンでありたいと思っている。そのためには都心の施設では一つ上の商品・体験を提供することがカギになるし、地域密着型ではギャザリングが求められる。渋谷、銀座、表参道など都心型でもギャザリングの思想を持ち込めるか考えていきたい。ECに負けないためにも、リアルな場で様々な取り組みをしていくことが求められるだろう。
(聞き手・編集長 高橋直也)
商業施設新聞2446号(2022年5月24日)(1面)
デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.375