商業施設新聞
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第329回

大阪地下街(株) 常務取締役 辻川哲男氏


シームレスな商業空間を創出
テナントの世界観で差別化

2022/5/10

大阪地下街(株) 常務取締役 辻川哲男氏
 大阪市内で6つの地下街を管理・運営する大阪地下街(株)が大きな転換期を迎えつつある。地下街として通路を確保しながら、店舗を集積してきたが、新型コロナウイルスの感染拡大で、そのバランスが崩壊した。「コロナ禍で地下街のあり方を大きく考え直す機会になった」と語る常務取締役の辻川哲男氏に、今後のテナント構成や地下街づくりについて話を聞いた。

―― コロナ禍の施設状況について。
 辻川 感染拡大が始まった2020年と翌21年は、緊急事態宣言の発令に伴い、大阪府の休業要請を受けて2回の全店休業を実施した。そのような状況下でも、地下街は通路として開放しなければならず、警備や清掃のコスト負担は休業中も発生した。また、休業要請に加え、営業時間の短縮要請も度々あり、この2年間のテナント売上高は激減し、会社としても大変厳しい結果となった。
 施設別では、天王寺の「あべちか」は影響が少なかったものの、難波の「なんばウォーク」や「NAMBAなんなん」はミナミエリアの行動制限が影響した。20年7月に子会社化した堂島の「ドーチカ」は、テレワークの普及もあり飲食需要が落ち込み、京橋の「コムズガーデン」も宴会需要が激減して厳しかった。泉の広場エリアを中心に飲食・食物販35店を集積し、19年12月にリニューアルオープンした「ホワイティうめだ」も、20年1月までは好調であったが、その後は厳しい状況が続いている。このコロナ禍において、当社は地下街のあり方を大きく考え直す機会となった。

―― 具体的には。
 辻川 元来、地下街は地上交通の緩和を目的に、車は地上、人は地下を通り、その通路を維持・管理するために店舗を設置して賃料収入で運営してきたが、それだけではコロナ禍は乗り越えられない。安心・安全は従来よりも厳しくCO2センサーなどで数値管理をするとともに、店舗をお貸しする方法も多様化する必要がある。加えて、DXを活用したマーケティングを導入することも検討している。
 安心・安全面では、なんばウォーク内の柱の耐震補強工事を順次進めている。広場にはCO2センサーや消毒液を設置した。また、階段手すりなどを抗菌・抗ウイルスコーティング施工した。

―― 店舗は。
 辻川 鮮度が大事だ。一定の入れ替えは必要であり、店舗が入れ替われば、お客様も変化する。テナントミックスも重要で、これまではアパレルが中心であったが、これからは食住に比重を置いていく。中でも食は、家族構成の変化や働く人の増加に伴い、中食需要がますます増えるだろう。外食も2~4人で食べる楽しさへのニーズは変わらずあり、地下街は商店街と同じく通路なので流行のフードコートやフードホールは馴染まないが、横丁のような飲食ゾーンなら形成できる。

―― 飲食ゾーンとしては「NOMOKA(ノモカ)」を整備した。
リニューアルした「泉の広場」
リニューアルした「泉の広場」
 辻川 ホワイティうめだの改装時にバル街として開業しており、個性豊かな17店に出店していただいた。難波の名店や大衆酒場の「わすれな草」、新業態や関西初の店舗などを誘致したほか、泉の広場を一新し、奥の突き当たり壁面には廃品でサルベージアートを施すなど、従来の地下街にはない一味違った空間を創出した。このノモカの経験は、他の地下街にも生かせると考えている。

―― テナントミックスに関してはどうですか。
 辻川 店舗区画の大型化には規制があるものの、集客の核になるテナントの誘致や世界観を表現できるテナントを導入していく。例えば、なんばウォークはこれまでレディースブランドが多かったが、最近はメンズもレディースも取り扱うユニセックス店の導入を進めている。また、なんばウォークには「salut!」という雑貨店を誘致したが、同店は男性も女性も来店するので、売り上げは好調に推移している。このsalut!の隣では既存の3区画を使い、大型の輸入食品雑貨店が7月にオープンする予定だ。新たに、エンタメ要素を取り入れたリテールテイメントと呼ばれるコト+物販店の誘致も検討している。このように、店舗数は減らしても、テナントの世界観を出すことで、他施設との差別化を図っていきたい。

―― 貴社はOsakaメトログループに属していますが、親会社との連携は。
 辻川 18年4月にグループの一員となり、第1弾の連携として、メトロのOsakaポイントシステムを地下街の200店に導入した。今後は地下街から駅までをシームレスな商業空間でつなぐことで相乗効果を発揮し、より一層の活性化を図る。Osakaメトロは駅ナカ商業施設「ekimo」を展開しており、こうした施設と地下街がうまく買い回りできるような仕組みも構築していきたい。

(聞き手・副編集長 岡田光)
商業施設新聞2443号(2022年4月26日)(1面)
 デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.373

サイト内検索