(株)横浜岡田屋は、神奈川県内において商業施設「MORE'S(モアーズ)」を展開しているほか、横浜の地元企業とみなとみらいの複合施設「横浜ハンマーヘッド」の運営にも携わっている。地域特性を活かした施設運営を推進するほか、出店テナントのコラボレーションを計画するなど、独自の顧客接点強化を進めている。同社常務取締役の三橋一夫氏に話を聞いた。
―― 足元の状況から教えてください。
三橋 コロナ禍前の2019年度と比べると、20年度の全体売上高は約2割減となった。中でも飲食店は、横浜や川崎は例年開催していたビアガーデンを中止するなど厳しい状況が続いた。21年9月には緊急事態宣言も解除され、11月には飲食店での人数制限も解除となり、客足の戻りに期待したが、すぐに元通りにはならない。横浜駅では20時以降になると帰る人も多く、横須賀はさらに慎重な人が多かった印象だ。
―― 20年6月、JR横浜タワーが開業しました。この影響は。
三橋 JR横浜タワーに「ニュウマン横浜」と「CIAL横浜」がオープンした。これにより、横浜駅周辺に若い人たちの回遊が増えたと感じている。また、JR横浜タワーと横浜モアーズが繋がる地下通路を整備した。これから地下通路がより認知されていくと、JR横浜タワーから横浜モアーズへの往来も増加してくるだろう。
そのほか、横浜モアーズと隣接する地区において、商業・住宅・ホテルなどを展開する複合施設の建設が24年の完成予定で進んでいる。これにより駅前の居住人口が増えるなど、我々にとってもプラス効果があると考えている。
―― 川崎モアーズや横須賀モアーズシティは。
三橋 川崎駅周辺は、ラゾーナ川崎、アトレ川崎、ルフロンと商業開発が激しくなるなか、川崎モアーズは、いち早く価格訴求のテナントやサービステナントの誘致など、来店目的性の高い施設へと転換することで周辺施設との差別化を進め、ほかの施設ともうまく共存している。
横須賀モアーズシティは、18年に大型改装を実施しており、食物販を拡充した。なかでも、神奈川県逗子市に本社を置くスズキヤはモアーズの開業とともに、地域の食を支える存在として好調に推移している。物販では、20年にユニクロを増床した。横須賀モアーズシティは、1997年に開業して以来、多くのポイントカード会員様にご愛顧いただいている施設だ。これからも地域密着型の方向性を維持していくほか、新たな顧客獲得も進めていく。
―― みなとみらいの横浜ハンマーヘッドは。
三橋 桜木町駅でロープウェイが新設されたほか、臨港パークと新港ふ頭をつなぐ「女神橋」が供用開始したことで、周辺の回遊性が向上した。また、近隣にアウトドア施設が開業したこともプラス要因だ。横浜ハンマーヘッドはワクチンの集団接種会場としても活用していただき、施設を知っていただく良い機会になったと思う。
横浜ハンマーヘッドはみなとみらいという観光地に立地しているが、“週末営業”に陥らないよう、周辺住民の方が日々利用できるような店舗を集積している。ペット連れで散歩している人が多いことを受けて、ペットと一緒にテラスで食事ができるエリアなど、「ここにしかない」魅力で平日日中の利用増加につなげていきたい。そのほか、周辺施設とのコラボレーションを実施するなど、エリア一体で盛り上げていきたい。
―― デジタル活用など、施設運営面での施策は。
三橋 デジタル化の流れは、コロナ禍でより加速した。当社では、横須賀モアーズシティのポイントカードのアプリ化や、テナント用のコミュニケーションアプリの導入を進めていく。併せて、入館証や通達物のデジタル化も推し進める。今後は、施設利用の研修を動画化するなど、より効率化を図る方針だ。
施設運営面では、大変な時期でも営業を続けてくれた従業員の方たちへ、横須賀モアーズシティでは海軍カレーやネイビーバーガーを提供したり、ほかの施設でもプレゼント配布などを行った。今後もテナント企業を大切にしていきたい。
―― 今後の抱負は。
三橋 我々は、出店テナント様のスペシャリティの発揮を後押しするのが、大事な仕事と考えている。そのなかで、今後はテナント同士のコラボレーションにも力を入れていきたい。例えば、大型店のレシートを持っていくと、同フロアの小型店で割引を受けられたりするといった施策を常々行っている。また、メニュー開発や商品開発の相談にも対応できればと考えている。
我々は直接お客様と接する機会がないため、テナント企業のサポートを行うことが、我々の顧客接点につながっている。昨今はなかなか施設に来館しづらいが、それでもやはりリアルの価値を高め、お客様とテナント企業を大事にする精神を忘れずにいきたい。
(聞き手・特別編集委員 松本顕介/新井谷千恵子記者)
商業施設新聞2431号(2022年2月1日)(1面)
デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.368