高島屋グループで、商業施設開発や街づくりを担当する東神開発(株)は、ASEANを中心とした海外市場での不動産開発に注力する方針を掲げており、中でもベトナムへ集中的に経営資源を投下している。高島屋ブランドを活用した商業・オフィス・住宅、教育施設などの複合開発を推進し、海外事業において2023年までに380億円を投じる計画だ。東神開発代表取締役社長の倉本真祐氏に海外事業戦略を聞いた。
―― ベトナムでの開発に注力されています。
倉本 ベトナムについては07年からリサーチを開始した。当時、私自身が担当者として、ほぼ毎月のように現地に赴き、案件形成に注力した。そして16年にはホーチミン市中心部の大型プロジェクト「サイゴンセンター」を開業するに至った。百貨店の高島屋を核に、オフィス、賃貸住宅からなる複合施設で、規模は42階建て延べ20万m²におよぶ。商業部分の面積は5万5000m²で、そのうち1万5000m²を高島屋が専有する。オープン以降、順調に売り上げを伸ばしており、日系百貨店として初となるベトナム進出を果たした。この「サイゴンセンター」が現地で強く支持されたことにより、ベトナムにおける高島屋グループのプレゼンスが飛躍的に向上するとともに、東神開発としても新たなビジネスチャンスにつながっている。
さらにサイゴンセンターにほど近いオフィスビル「A&Bタワー」の持ち分を17年に取得するなど面的拡大を進めており、引き続き積極的に経営資源を投下していく。
―― 海外事業の難しさはどこにあると感じていますか。
倉本 1つの国で確固たるビジネスができるようになるには、現地の商慣習や法体系を理解し、ネットワークを創り上げることが重要だ。特に不動産開発の場合は、相当なエネルギーと時間を要すると実感している。そして、基幹となる事業拠点ができればプレゼンスが高まり、ビジネスチャンスは拡がっていく。当社はこれに10年を要したが、現在では優秀な人材、経験値・ノウハウの蓄積など事業を推進するインフラが整っている。これを最大限に活かし、さらなる事業拡大につなげることで、高い効率をもって成長循環を生み出していく。
―― 今後は。
倉本 「サイゴンセンター」には増床計画がある。実現すると総面積は倍増し、商業だけでも10万m²超となる予定だ。ベトナムは近代的かつクオリティの高いショッピングセンターがいまだ少なく、競合もそれほど激しくはない。
―― 他のアジア諸国など外資系の参入は。
倉本 外資も数えるほどで、日系ではイオングループが積極的だが、我々とはターゲットが異なり競合しない。東急グループはかつての東急多摩田園都市構想を彷彿とさせる大規模な街づくりに取り組んでいる。日系以外では韓国のロッテグループ、タイのセントラル・グループが挙げられる。また、地元のビングループが都心・郊外での展開を加速している。
―― ハノイでも大型の開発を進めています。
倉本 ハノイでは19年の進出以降、精力的に開発を進め、すでに3つのエリアで展開している。1つ目はカウジャイ区にある商業・オフィスの複合施設「インドチャイナプラザ」で、これを清水建設と共同取得した。現在、商業部分のリニューアルによるバリューアップを計画中である。
2つ目は、将来ハノイの副都心となる不動産開発事業「スターレイク・プロジェクト」だ。これは市中心部近郊のタイ湖西側地区、面積186haの大規模タウンシップ開発で、当社は計画地内の2区画を取得している。1つは現地企業エデュフィット社とのアライアンスによるもので、当社が開発した教育施設にエデュフィット社が運営するバイリンガルスクールが21年2月に開校した。
もう1つの区画では商業、オフィスなどからなる大規模複合施設を当社主導で開発する。街の成熟に合わせ段階的に開発する計画で、第1期の商業部分は25年の開業を目指す。
―― 3つ目は。
倉本 不動産開発事業「ランカスター・ルミネールプロジェクト」に参画している。これは現地のTTG社との共同出資で進めている住宅・オフィス・商業から成る複合開発で、その規模は1期7万7000m²、2期を含めると10万m²を超える。
―― 他国において。中国では。
倉本 当社は直接的に関与していないが、高島屋が上海に出店している。
―― シンガポールは。
倉本 「シンガポール高島屋S.C.」を1993年に同国最大の繁華街オーチャードロードに開業した。「シンガポール高島屋」と約130の専門店で運営しており、同国においては極めて高い評価をいただいている。ただシンガポールは不動産価格が高く、建設費、人件費も高い。地場に強いデベロッパーが多く、新たな不動産開発は難易度が高いため、拡大を志向するよりも現施設に磨きをかけ、収益性を高めることに注力する。
―― 成熟したエリアで収益性をどう確保しますか。
倉本 当社の場合、百貨店核という強みがある。「シンガポール高島屋S.C.」は、百貨店と専門店の組み合わせという高島屋グループの強みを最大限発揮した施設だ。また、日本ほどECが普及しておらず、リアル店舗を利用される消費者も多い。
―― ハノイで核店舗に高島屋を誘致することは。
倉本 検討課題だ。事業として成立するかどうか検証中である。
―― 日本では百貨店離れが進んでいますが、海外では百貨店のブランド力、吸引力は強いと感じますか。
倉本 ベトナムでは、高島屋が出店する前からマレーシアのパークソンやロッテ、地場企業による専門店の集積などはあったが、現在でも十分なクオリティを提供している百貨店はない。日本のようなアイテム集積や自主編集売り場、高品質なサービスを提供しているのは、唯一高島屋だけであり、それが吸引力につながっていると認識している。ベトナムも富裕層が増え、高島屋は高い支持を得ている。クオリティの高い商業や複合施設は、成長分野であると確信しており、今後も開発を進めていく。
(聞き手・特別編集委員 松本顕介)
商業施設新聞2430号(2022年1月25日)(3面)