(株)産業タイムズ社 代表取締役社長 泉谷渉
「九州は日本全体の半導体の約4割の生産を担っている。シリコンアイランドの価値は決して喪失していない。しかして、既存のLSIやメモリーの分野では苦戦が続いている。そこで考えたことは、LEDを戦略的な柱にしようということだ」
こう静かに語りながらも鋭い視線を放つのは、北九州産業学術推進機構(FAIS)にあって半導体技術センター長の任にある丸田秀一郎氏である。丸田氏は東芝半導体の出身であり、先進的な半導体さらにはエレクトロニクスのアプリケーション創出活動に全力を降り注いできた。ここにきて、九州全体の強みを活かし、かつ国内の多くの半導体企業、半導体関連産業さらには半導体応用機器産業にインパクトを与える運動論を、それこそ死に物狂いで考えてきた。
一昨年度から、ひびきのLEDアプリケーション創出協議会をスタートし、産学連携活動を行い、約20の研究会活動を展開してきた。この研究会活動を通して、高速道路照明関連事業、さらにはサッカー場などの競技場照明事業、下水道殺菌処理照明事業、船舶照明事業などの大きなマーケットに具体的に展開できることが分かってきた。
「そこで考えたことは、研究会活動にとどまっていては、実際的なインパクトがない。事業家を目指してこそのプロジェクトだと気がついた。そのために、『ひびきのライトイノベーション』というLED照明にシフトするベンチャー企業をコアとして立ち上げ、道路照明、競技場照明、漁業向け照明、下水道照明、トンネル照明、橋梁照明などに展開する道筋をつけてきた。すでにかなりのことが固まってきており、明確に事業化の道筋は確立されたといってよいだろう」(丸田氏)
LED照明という分野は、現状においては中国、韓国などのアジア勢が先頭を走っている。しかしよく考えてみれば、LEDチップそのものの世界チャンピオンは日本の日亜化学工業であり、シャープやスタンレー電気、豊田合成などのチップも品質、機能という点で高い評価を受けている。LEDはいわばニッポンのお家芸であったわけだ。
ディスプレーとしての用途もあるが、やはり照明分野での応用が進んでいる。しかして、ひびきのアプリケーション創出協議会が狙っているのは、民生的な分野よりもより公共的な分野にシフトという線であり、これはすなわち高輝度、超寿命、高信頼性のLEDを追求していくことになる。
「FAISの半導体技術センターは、この大型LEDプロジェクトの先頭に立ってコーディネートしてきた。すでに高輝度モジュールの事業化チームも編成されてきた。九州エリアだけではなく、四国などの企業も加わっている。北九州から発信して、全九州エリアを巻き込み多くの企業、多くの大学の英知を結集し、一大プロジェクトとしていく考えだ」(丸田氏)
まだ実名は出せないが、電気、ケミカル、機械、材料など多くの分野で大手企業もかなりの数が関わっているという。一方で、このプロジェクトは、LEDアプリに関係する多くのベンチャー企業を生み出していくことにある。また、多くの中小企業を巻き込んで九州におけるモノづくりの活性化を図ることにも道はつながっていくのだ。当然のことながら、リストラで仕事を失った人たちの雇用確保という効果もある。このプロジェクト拡大に伴う企業誘致活動も進めており、成果も出てきている。プロジェクト事業化という線を強烈に推進するのであるからして、具体的な目標設定も掲げている。
「北九州から発信するLEDアプリの事業化は、トータルの事業販売額100億円以上の達成を掲げている。これに関わるメンバーは本気でそれを考えている。また、どこかのタイミングで量産ラインおよび新工場建設の可能性も充分にある。ニッポン半導体がここに来て衰退気運となっているが、北九州から上げる雄たけびを聞いてもらいたい。アベノミクスも日本再生戦略を掲げており、ニッポン半導体は決して負けない、という意気込みを見せていきたい」(丸田氏)