「金沢まいもん寿司」を国内外に21店展開する(株)エムアンドケイ(M&K、石川県金沢市)は、2019年にマグロ卸や回転寿司店を運営する(株)いちもん(群馬県伊勢崎市)をグループ会社に加えた。いちもんは価格競争に巻き込まれ低迷していたが、新体制となって群馬の食材をメニューに加えるなど、新しい価値の提供に舵を切った。同社立て直しの陣頭指揮を執るいちもん取締役兼M&K取締役COOの木下隆介氏に聞いた。
―― いちもんの概要から。
木下 40年前に群馬県で持ち帰り寿司として創業した。創業者が一文銭1枚でも食べられるうまい寿司を、との思いで始めた。その後“海なし県”でも、当時から冷凍で美味しく届けられるマグロの卸売事業も手がけた。それを群馬県内のスーパーや飲食店に卸し、そこから回転寿司に業容を拡大した。だが回転寿司ブームで大手チェーンが進出し、経営が立ち行かなくなり、店舗数も今の3店にまで削減した。19年、M&Kに事業譲渡した。いちもんの創業者とM&Kの社長とは付き合いがあり、信頼できる会社ということで、M&Kから声をかけた。
―― 立て直しの道すじは。
木下 群馬に縁のないM&Kがどう経営するか。金沢まいもん寿司が支持される理由のひとつに屋号を「金沢」としていることが挙げられる。北陸の新鮮で美味しい寿司を出すのは言うまでもなく、内装に石川県の伝統工芸の九谷焼や、加賀友禅のしつらいを用いて非日常を体感できることがある。この手法を踏襲した。いちもんは群馬に根差してきたことから、屋号を「鮨いちもん」から、「群馬を握る、まぐろ問屋いちもん」に改称した。併せて地域の生産者や企業とコラボして商品開発した。そのひとつがテレビの情報番組にも取り上げられている下仁田納豆。そのほかに群馬ミートとも協業した。地域をアピールし、生産者の想いを形にする手法は、ビジネスモデルにできれば全国で展開できると考えた。
―― 店づくりは。
木下 全店舗で1年前に内装を変えた。カウンターメインからテーブルにし、外装も赤を基調とした。
―― 価格競争に巻き込まれていました。
木下 従前、客単価は1500~1600円だった。大手チェーンに対抗して大特価や値引き競争に巻き込まれたが、100円では勝てず、マグロ問屋の価値も落としていた。値引きするのではなく、いかに価値を上げるかに主眼を置いた。例えば、単に醤油でなく、トリュフ塩で食べていただくなど、新しい価値を提供した。その結果、顧客満足度が上がり、客単価も2400~2500円前後に上がった。
―― 新規出店の予定は。
木下 9月末に群馬県内に出店する。新体制となってから初出店となる。
―― 外食産業は厳しい状況が続いています。
木下 グループでは、ピンチはチャンスと捉える。M&Kは創業して22年だが、今年が最も出店数が多い。埼玉・吉川美南に4店、関西エリアに2店、広島県初進出のほか、地元石川にも複数の出店を計画している。
いちもんもコロナ禍でマネジメントを一から見直し、今年数年ぶりの新規出店を行う。さらにチャンスがあれば東京都内も視野に入れる。ブランド、業態を変更する可能性もある。加えて海外出店を果たしたい。金沢まいもん寿司では、台湾、ベトナムへの出店を考えているが、いちもんはそれ以外の国への進出を検討する。
―― 何か新たな事業を想定していますか。
木下 昨今、冷凍技術が飛躍的に向上している。最新のアルコール凍結技術では、冷凍した寿司を解凍しても、普通に握った寿司と味に遜色がない。これを用いて加工センターを新設し、中食ビジネス参入を想定している。おにぎり専門店やサンドイッチ専門店などを1~2坪で全国の百貨店やショッピングセンターに展開したい。
―― 最後に一言お願いします。
木下 外食に携わる人の価値を高めたい。外食産業に携わる人は、良いものを安く提供している裏で買い叩かれ原価割れしている生産者もいる。例えば回転寿司で、お茶とガリは無料で出すのが当たり前となっているが、生産者の方々の仕事がきちんと評価されていない面がある。ガリとお茶がなければ寿司文化は成り立たない。お茶でも価値を取れる提供の方法をつくっていきたい。
日本の外食産業はすばらしく、海外に行っても日本の食が一番おいしいと感じる。それは強いこだわりがあるからだと思う。生産者が届ける各種食材、それを素手で調理して、素手で食べることで、価値が高まる料理は寿司しかない。こうした日本の文化を通じて生産者の思いを形にし、外食に関わる産業全体の価値を高めていきたい。
(聞き手・特別編集委員 松本顕介)
※商業施設新聞2404号(2021年7月20日)(8面)
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