大阪・ミナミの玄関口となるなんばを起点に、大阪南部から和歌山県までの沿線を有する南海電気鉄道(株)。同社が2018年に打ち出した概念「グレーターなんば」は、なんばに新たな都市機能を誘導するとともに、なんば駅前に国内外の観光客が集まるハブ機能を創出し、この影響はなんばだけにとどまらず、周辺地域にも波及する見通しだ。まち共創本部 グレーターなんば創造部長の木原久友氏に聞いた。
―― グレーターなんばを作るに至った経緯を。
木原 18年に前中期経営計画「共創136計画」と、10年後のあるべき姿を定めた「南海グループ経営ビジョン2027」を策定した。これは当社が初めて作った長期ビジョンで、10年後のあるべき姿や方向性、事業戦略、数値目標について触れている。
当社の調べでは、今後、沿線人口が年率0.7%、沿線の生産人口は同1.2%の割合で減少し、15~30年の15年間で沿線から27万人がいなくなると試算している。これは富田林市、大阪狭山市、河内長野市の3市の人口が、ゼロになるほどの衝撃だ。この沿線人口の減少という課題を踏まえ、当社は長期ビジョンの事業戦略に「選ばれる沿線づくり」を盛り込み、その一つとしてなんばの街づくり、すなわち「グレーターなんば」を創造することを掲げた。
街づくりを遂行するにあたっては、単にハードやソフトを整備するだけでなく、その街に住む人、働く人、訪れる人が何を望んでいるのか、ニーズを探して創造する需要創造に重点を置く。加えて、まち共創という理念も掲げ、沿線の「くらす・出かける」価値を高め、そのシーンをいかに作っていくか、当社だけでなく様々な関係者と連携して取り組む考えだ。
―― 街づくりの対象エリアについて。
木原 北は「とんぼりリバーウォーク」の管理運営事業を受託している道頓堀川から、東は堺筋、西は四ツ橋、南は新今宮まで、東西1km、南北2kmの広範囲におよぶが、なんばを中心に四方へと広がる動きをイメージしている。
―― なんばにおける街づくりは。
木原 なんばは昔から歓楽街のイメージが強いが、道頓堀五座や食い倒れなどの歴史や文化を持つため、今後は観光を前面に打ち出していく。将来、訪日客が戻ってくると信じて、街にホテルの機能を付加する。また、脱・歓楽街の取り組みとして、昼間人口を増やすため、オフィスの整備も進める。これまでに「パークスタワー」や「なんばスカイオ」を整備してきたが、今後も新オフィスが開業する予定だ。
―― 具体的には。
木原 現在、「なんばパークス」の南側において、2つのホテルとオフィスの建設が進行中である。ホテルはタイの5つ星ホテルなどが出店することで、既存の「スイスホテル南海大阪」や「フレイザーレジデンス南海大阪」を選択するバリエーションが広がる。オフィスも既存のパークスタワー、なんばスカイオとともに、それぞれの役割を果たすことから、いずれも開業が楽しみだ。
―― ソフト面の整備も計画している。
将来のなんば広場イメージ
(関係者協議で変更する可能性有り)
木原 「高島屋大阪店」のロータリー部分に歩行者空間と駅前広場を整備する。駅前広場は、国内外の観光客が集うハブ機能を有し、この駅前広場から近距離、または遠距離の移動へと結びつける。これにより、街の滞留時間や滞在時間が増え、ひいては街の価値向上にもつながる。現在、行政機関などの関係者と調整中であるが、駅前広場は23年度に供用を開始する予定だ。歩行者空間も、大阪・関西万博が始まる25年春の完成を目指す。
―― 商業機能は。
木原 他の機能と違い、商業は来館者数が1桁多くなるので、今後も街の中核機能として必要になる。しかし、現状はオーバーストアのため、MDを変えることが大切だ。商業はこれまでMDを競争の領域としてきたが、昨今はよく似た施設が増えてしまい、ここにしかない店舗が見られなくなった。一方で、六本木や表参道には、依然として多くの人が集まっている。要はMDでなく、空間に視点を置き換え、街と一体になった上質で居心地の良い空間を生み出すことが、今後の商業機能には欠かせない。
―― 今後の展開は。
木原 なんばの街づくりで得た知見を基に、新今宮でも街づくりを進めていく。新今宮駅前の高架下に賑わい拠点を整備中で、22年春に開業する予定だ。グレーターなんばの概念を広げ、育て、発信する取り組みを進めていく。なんばに関しては、食、伝統、文化を重んじながら、リアルに立脚したエンターテインメントシティを標榜し、楽しく、誇れる街へと進化させていきたい。
(聞き手・副編集長 岡田光)
※商業施設新聞2409号(2021年8月24日)(1面)
デベロッパーに聞く 次世代の商業・街づくり No.355