電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第422回

avatarin(株) 代表取締役CEO 深堀昂氏


21年度は普及・拡大フェーズに
実証用アバター300台はフル稼働

2021/4/23

avatarin(株) 代表取締役CEO 深堀昂氏
 avatarin(株)(アバターイン、東京都中央区日本橋室町3-3-9)は、2020年4月に設立されたスタートアップ。エアライン大手のANAホールディングス(株)で進められていたアバターロボット(遠隔操作型ロボット)に関するプロジェクトが母体となっており、アバターを人々の新たな移動手段や人間拡張手段として活用し、社会インフラ化することを目指している。今回、代表取締役CEOの深堀昂氏に話を伺った。

―― 貴社の事業について。
 深堀 アバターサービスプラットフォーム「avatarin」(アバターイン)を中核にした事業を進めている。ここでいうアバターとは、ロボティクス、AI、VR、通信、触覚技術などの先端技術を集結した遠隔操作型ロボットのことで、利用者がウェブサイトやアプリからアバターインプラットフォームにアクセスすることで、オフィスや商業施設、観光施設、学校など、様々な場所に設置されたアバターを活用でき、物理的距離や身体的限界を越えてコミュニケーションや作業が行える。つまり、アバターインプラットフォームを活用することで、世界中のどこにでも「瞬間移動」することができる。

―― プラットフォームに接続するアバターについて。
 深堀 当社のオリジナルのアバターとして「newme」(ニューミー)を開発している。高さ100~150cmの移動機能を持ったアバターで、利用者はニューミーを操作することで遠隔の目的地を自由に移動でき、見たり、聞いたり、話したりできる。人の顔にあたる位置にはディスプレーが搭載されており、利用者の顔やアニメーションなどを映し出せ、ロボットではなく、人がいるような感覚を与えることができる。ちなみに先に述べたアバターインプラットフォームはnewme専用ではなく、今後当社が認可した様々な企業のアバターが接続されていく予定だ。

―― 設立からこれまでの引き合いは。
 深堀 新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、世界各国で外出の自粛が求められるなか、アバターの必要性・重要性が世界中で高まっている。それに伴い当社にも観光、医療、ショッピング、施設の内覧・見学、オフィス、教育、エンターテインメントなど、多様な領域からお話をいただき数多くの実証を行った。20年12月には東京都大田区とDXによる地域社会発展に関する基本協定を締結するなど自治体からも多数のお話をいただき、20年度は実証用に製造したnewme300台がほぼフル稼働の状態にあった。

―― アバターの利点について。
 深堀 新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、ウェブ会議システムなどを活用したオンラインでのビジネスコミュニケーションやイベントが増えているが、リアルであれば簡単に行えるちょっとした口頭でのコミュニケーションや、イベントにおける「ネットワーキング」や「偶然の出会い」などが生まれず、コミュニケーション相手とのやり取りが単純なものになるケースも散見されている。その点、アバターはリアルのコミュニケーションに極めて近い没入感が得られることが実証において報告されており、利用者からも「現場に本当にいるような気がする」といった声を数多くいただいている。

―― 開発面での取り組みは。
 深堀 様々な取り組みが進んでおり、その1つとして20年5月にソニーグループの(株)ソニーAIと新しいアバター関連技術の開発で協力していくことに合意した。このほか、(株)NTTドコモや凸版印刷(株)などとの連携も進んでいる。アバターはロボティクス、AI、VR、通信、触覚技術などの幅広い先端技術で構成されるため、研究開発の範囲も幅広く、今後も様々な技術を持つ企業と連携したいと考えている。
 このほか、内閣府が主導する「ムーンショット型研究開発制度」のプロジェクトにも2月から参加している。人の身体的能力、認知能力、知覚能力を拡張するサイバネティック・アバター技術の開発プロジェクトに参加しており、当社は「アバターを活用するための次世代のクラウドサービスの研究開発」と「人のスキルを学習して能力を拡張する研究開発」に取り組んでいる。

―― 21年度の方向性について。
 深堀 20年度は実証フェーズであったが、21年度からは普及・拡大フェーズに入り、複数の分野でアバターが常設される事例が出てくる予定だ。目標としては21年度に1000台を導入し、それらが常時オンライン稼働するような状態を目指していくが、その数字以上に、アバターを常設された方がしっかりと効果を得られ、継続して活用していただけるようなサポート体制の構築を重要視していきたい。

―― 今後の目標などについて教えて下さい。
 深堀 当社はアバターを取り扱っている企業であるが、事業コンセプトは物理的距離をゼロにするための新たな移動手段を世界中の人に提供することであり、アバターは利用者の意識・技能・存在感を目的地で受けるための手段・ツールである。こういった考え方から見ても従来のロボット関連ビジネスと異なる部分は多いが、新型コロナによって社会が大きく変わり人々の価値観も変わるなか、従来と異なる新しいアプローチが世界中で求められており、今後も当社の事業モデルをしっかり訴求していきながら、最終的にはアバターを地球上の78億人をつなぐ新たな社会インフラにすることを目指していきたいと思う。


(聞き手・浮島哲志記者)

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