総合不動産会社である東京建物(株)(東京都中央区八重洲1-4-16、Tel.03-3274-0111)は、2018年から物流施設開発事業に参入し、「T―LOGI」ブランドの展開を開始した。20年6月には第1弾となる「T-LOGI久喜」が竣工し、今後も横浜や千葉、埼玉といった関東圏や地方主要都市圏での施設開発を計画するなど、積極拡大の姿勢だ。同社のロジスティクス事業部長の川添有一氏に事業の動向や、今後の展開を聞いた。
―― 18年から物流開発に参入しました。
川添 18年当時は、すでに不動産業界の中でも物流マーケットが存在感を増しており、我々も基礎調査などは行っていた。しかし具体的に取り組む案件はなかなかなかったが、路面型商業施設など郊外の土地の情報を仕入れていくなかで、物流施設に適した土地の情報が入った。それが第1号物件のT-LOGI久喜の土地であり、拡大するマーケットの背景なども相まって、物流事業の参入に至った。
―― 現在の物流マーケットをどのように捉えていますか。
川添 昨今の新型コロナウイルス感染拡大の影響について懸念していたが、T-LOGI久喜も20年6月の竣工時点で75%稼働、3カ月後には満床稼働となるなど、物流施設に対するニーズを感じている。
物流施設は年々増加しているが、Eコマース(EC)の拡大や、古い施設を利用している物流企業がトータルコスト削減を目的に新しい施設へ入居することなども見込めることから、マーケットのパイはまだしばらく伸びると思っている。我々も他社との差別化を図り、テナント企業様から選ばれる物流施設を目指している。
―― どのようにして差別化を図っているのでしょうか。
川添 他社の最新の施設を見ても、耐荷重や柱スパンなどの物流ハード面での差別化は難しい。そのため、休憩室のグレードを上げるなど、共用部分の魅力向上に注力している。テナント企業様の先にある従業員の方々の働きやすさを、建物側で何かサポートできないかと模索している。
また、当社はテナント企業様の意見も、適宜施設運営に反映している。例えば、最近では新型コロナウイルス感染拡大防止に向けて、日常清掃に手すりなどへのアルコール消毒を加えたり、トイレの便座を抗菌仕様にするなどした。T-LOGIの基本コンセプトは「安心・安全・快適」。この3つのワードにプラスになることは、物流施設の前例にとらわれずにチャレンジしたい。
―― 最近では東京ガスとの取り組みを発表しました。
川添 T-LOGI久喜では、太陽光パネルを屋上に設置し、発電したエネルギーを施設内で使用するだけでなく、余剰分は東京ガスのシステムを使用して、当社が所有する商業施設「スマーク伊勢崎」に送電する予定だ。このような取り組みは、商業施設開発など様々な事業を行っている当社だからできること。今後建設するT-LOGIシリーズでも、同様の取り組みを行う予定で、シリーズを通して「環境配慮型物流(ZEB物流)を実現していきたい。
―― 総合デベロッパーだからこそできる開発・運営です。
川添 我々の強みは、ビル・住宅・アセットサービスなどを通じて築き上げてきた、様々な企業様とのリレーションがあることだ。例えば、20年内に決まった物件についても、当社グループに土地情報をいただき開発に至ったものが複数ある。東京建物グループの新たなソリューションのひとつとして、物流施設開発を引き続き提案していきたい。
―― 開発計画について。
川添 21年1月時点で開発中の物件が6件、取得予定が3件、今期取得決定済みが3件となっている。物流適地を厳選して開発しており、土地取得の競争は激化しているが、引き続きなるべく良い立地を選定していきたい。関東エリアでは、やはり圏央道周辺に注目しているが、良い立地はすでに埋まっているため、既存の工場跡地や築古の物件建て替え、物流用地への転換などにも焦点を当てて情報を集めていく予定だ。また、行政とともに行う土地区画整理事業などの比較的長期にわたる開発案件にもチャレンジしたい。
関東以外では、関西や中部、福岡周辺も注目しており、また仙台も物流施設の集積が見られる。特定のエリアに絞らずに、良い場所であれば厳選し投資するというスタンスで事業に邁進していく。
―― 今後の抱負を。
川添 年間の投資額は500億~600億円程度を計画しており、優良物件に絞ったうえで開発を行っていく。我々は物流業界では後発であるが、後発であるからこその強みがあると思っており、“物流施設はこうでなくてはならない”という考えがないのもそのひとつだ。思い切って新しいことにチャレンジし、より働く人たちの快適さにフォーカスした施策を行うことで、テナント企業様から選ばれる物流施設ブランドとしてT-LOGIを作り上げていきたい。
(聞き手・新井谷千恵子記者)
※商業施設新聞2386号(2021年3月9日)(1面)
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