電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第32回

液晶ディスプレー産業の明日が見えなくなってきた!!


~テレビ、ノートPC、モニターのピークアウトを乗り越える市場は?~

2013/4/19

(株)産業タイムズ社 代表取締役社長 泉谷渉

 フラットパネルディスプレー業界で世界最大の展示会として知られるファインテックジャパンは、迎えて23回目となるのだ。草創期の電子ディスプレー、とりわけ液晶産業に注目し、この技術を一堂に集め商談の場を提供する展示会を立ち上げたリード エグジビション ジャパンの慧眼には頭が下がるばかりだ。今年も4月10日から12日にかけて東京ビッグサイトで開催されたが、相変わらずの盛況ぶりであった。出展者数は前回比30%増となり、世界各国から700社が出展した。

 基調講演ではジャパンディスプレイの大塚社長、LGディスプレイのリー副社長、BOEのドング副社長が顔を揃え、いわば日韓中のFPD企業幹部が市場と技術についての最新報告をしたかたちとなった。このうちLGディスプレイのリー氏は、テレビマーケットが成熟期を迎えていることをアナウンスし、2010年の2億4000万台をピークに2011年および2012年はいずれもマイナス成長になった、と報告している。現状でテレビ全体の87%は液晶であり、PDPが6%、CRTが7%となっている。筆者が驚かされたのは、2001年から2012年までの年平均成長率が3.4%と非常に低かったことだ。

 液晶産業を牽引してきたノートブックパソコンもまったく元気がない。ディスプレイサーチ社の予想によれば、2012年の世界出荷台数は2億3200万台であったが、2013年はマイナス8%、2014年もマイナス4%、2015年もマイナス3%と下がり続け、2億台を割ってくるという。また、液晶モニターも2012年の1億8100万台からずるずると下がっていき、2015年段階では1億5900万台まで後退するというのだ。こうした講演内容を聞いている会場の人たちは、非常に明るくない顔をしていた。

『液晶・EL・PDPメーカー計画総覧2013年度版』(23ページより引用)
『液晶・EL・PDPメーカー計画総覧2013年度版』(23ページより引用)

 一方、現在の液晶の牽引車となっているスマートフォンは、2012年で7億5200万台の世界出荷となり、その後2015年まで年率19%成長を続け、12億7300万台まで引き上がるという予想だ。もうひとつのいまの牽引車であるタブレット端末の伸び率は、スマホより高い。2012年の1億5900万台から2015年には4億台を超えてきて、この間の年平均成長率は36%になるという。

 筆者はこれを聞いていて、素直に液晶産業の将来性に確信を持つわけにはいかなかった。スマートフォンが12億台を超えてくるといっても、これまでの携帯電話のピークアウトが12億台であるからして、この市場を置き換えているのに過ぎない。また、タブレット端末がすさまじい成長を遂げたとしても、これはパソコンの市場を食っているだけだ。自動車向けやデジタルサイネージなどは今後の期待の柱であるが、いかんせんあまりにも小さい市場なのだ。つまりは、とにもかくにも最大マーケットのテレビ分野が伸びなければお話にならない。

 テレビ市場はこのままいけば、金額ベースではマイナス成長になるとの予想が多い。テレビの一般的な製品寿命を考えれば、一度買ったらまず7、8年以上は買い替えないわけであるから、2億台を超えてくれば今後の伸びを期待するのは難しいだろう。また、多くの液晶メーカーが3D対応、4Kなどの高精細、さらにはタッチパネル、省エネルギーなどをキーワードに押し出し、ユーザーの歓心を買おうとしている。しかしながら、筆者も一ユーザーの立場で言わせてもらえば、現状の液晶のテレビは非常に完成度が高く、動画スピードにも問題はなく、プライスもそこそこであり、要するにほとんど不満がない。有機ELをはじめとする高精細・高付加価値をいくら打ち出されても、満足している以上、現状でよいと考えてしまうのだ。

 思えば、液晶市場はリーマンショック前の段階ではまさにサプライヤー市場であった。とにかく大型投資をして量産すればバンバン売れた。しかして、リーマン後の世界景気の後退と相まって、過剰投資、過剰供給のツケがきた。つまりは、一時的なピークアウトとなり、液晶産業は明らかに曲がり角を迎えた。この講演のトリを取ったBOEのドング社長はこう発言している。

 「ディスプレー分野にはこの10年間で1000億ドルの投資がなされた。市場は15年間で20倍に膨れ上がった。ところがここにきて、テレビもモニターも飽和状態だ。しかも、高い世代の工場をつくっても、収益が出なくなってきた。今こそブレークスルーする技術/市場が必要だ」

 近未来的には家屋の壁や天井、床などをディスプレーとしていくことや、家具調度品も透明ディスプレーなどを使って便利さを追求するという考え方もある。また、窓やガラスなどをディスプレー化してしまう、という方法論も出てきてはいる。それにしても、メーカー提案ではなく、ユーザー目線で何か画期的な量産品が出てこない限り、電子ディスプレーの将来の可能性は見えてこないだろう。


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